ケンエーIC News

143号 COVID-19およびインフルエンザと比較したRSV感染症の重症度
PDFファイルで見る
日本においても、60歳以上を対象としてRSウイルスワクチンが認可された。 このワクチンを接種するかどうかを判断するとき、RSV感染症の重症度をCOVID-19やインフルエンザと比較したデータが極めて有用である。CDCが研究結果を公開しているので紹介する1)

はじめに

  • RSウイルス(RSV)は高齢者の重症呼吸器疾患の重要な原因として認識されている。米国では65歳以上の成人において、毎年6~16万人のRSV関連入院と6,000~10,000人の RSV関連死亡が発生している。
  • 2023年6月21日、CDC のACIP(予防接種実施に関する諮問委員会:Advisory Committee on Immunization Practices) は「臨床上の意思決定の共有(shared clinical decision-making)」に基づき、60歳以上にRSVワクチン接種を推奨した。
  • 高齢者における他の呼吸器ウイルス疾患と比較したRSV感染症の重症度を理解することは、患者と医療提供者の「臨床上の意思決定の共有」を導くために必要である。

調査

  • 2022年2月1日から2023年5月31日までに、急性呼吸器疾患がみられ、かつ、RSV、SARS-CoV-2、インフルエンザ感染が検査確認された60歳以上の成人で、米国20州の25病院(急性疾患ネットワークにおける呼吸器ウイルスの調査に参加している)のいずれかに入院した患者がこの分析に組み入れられた。
  • 入院時近くに登録患者から上気道検体が採取され、中央検査室(テネシー州ナッシュビルのヴァンダービルト大学医療センター)で逆転写ポリメラーゼ連鎖反応によるRSV、SARS-CoV-2、インフルエンザの検査が行われた。
  • 発症から10日以内、または入院から3日以内に病院または中央検査室の検査にて、RSV、SARS-CoV-2、インフルエンザが陽性であった患者が調査に含まれた。
  • RSV感染症の重症度は、以下の院内転帰を用いて、COVID-19およびインフルエンザの重症度と比較された:①標準フロー酸素療法(30L/分未満での酸素補給として定義される) 、②高流量鼻カニューレ( HFNC:high-flow nasal cannula)または非侵襲的換気( NIV: noninvasive ventilation)、③集中治療室への入院、 ④侵襲的人工呼吸器( IMV: invasive mechanical ventilation)を受ける、もしくは死亡。

結果

  • 2022年2月1日から5月31日までに、60歳以上の成人の計6,061人が急性呼吸器疾患およびRSV、SARS-CoV-2、インフルエンザの感染(検査確認)として登録された。277人を除外した後、5,784人がこの分析に含まれた。そのうち304人(5.3%)がRSV感染症で入院し、4,734人(81.8%)がCOVID-19で入院し、746人(12.9%)がインフルエンザで入院した。
  • RSVとインフルエンザでは入院の大幅な季節変動が観察されたが、SARS-CoV-2の入院では季節変動がそれほど見られなかった[図表1]。
  • RSVで入院した患者の年齢中央値(72歳)は、COVID-19(74歳)やインフルエンザ(71歳)で入院した患者の年齢と同程度であった。
  • RSVで入院した患者は2つ(中央値)の臓器システムの慢性病状を有しており、これはCOVID-19またはインフルエンザで入院した患者と同様の所見であった。
  • 対象患者5,784人のうち、4,713人(81.5%)が一価(祖先株)または二価(祖先株およびBA.4/5)のCOVID-19ワクチンを1回以上接種しており、2,795人(48.3%)が季節性インフルエンザワクチンを接種していた。
  • RSV感染症の重症度をCOVID-19と比較した分析では、RSVで入院した患者は、COVID-19入院患者やインフルエンザ入院患者よりも、標準フロー酸素療法(調整オッズ比[aOR]=2.97[COVID-19]、2.07[インフルエンザ] ) 、HFNCまたはNIV(aOR=2.25[COVID-19]および1.99[インフルエンザ] ) 、ICUへの入院(aOR=1.49[COVID-19]および1.55[インフルエンザ])を受ける可能性が高かった[図表2]。
  • RSVで入院した患者とCOVID-19で入院した患者ではIMVまたは死亡のオッズは同程度であった(aOR=1.39;95% CI=0.98-1.96)。しかし、RSVで入院した患者では、IMVまたは死亡のオッズは、インフルエンザで入院した患者と比較して有意に高かった(aOR=2.08;95% CI =1.33-3.26)。

図表1 RSV感染症、COVID-19、インフルエンザで入院した60歳以上の成人の入院日 ̶ 急性疾患ネットワークにおける呼吸器ウイルスの調査、米国20州、25の病院、2022年2月1日~2023年5月31日

図表2 RSV感染症、COVID-19、インフルエンザで入院した60歳以上の成人の院内転帰 ̶ 急性疾患ネットワークにおける呼吸器ウイルスの調査、米国20州、25の病院、2022年2月1日~2023年5月31日

考察

  • RSV関連入院はCOVID-19関連入院およびインフルエンザ関連入院よりも頻度は低かった。しかし、RSVで入院した患者の臨床転帰は、COVID-19やインフルエンザで入院した患者の臨床転帰よりも悪かった。
  • RSV感染症の入院患者はCOVID-19やインフルエンザよりも少ないため、臨床医は高齢者におけるRSVが重篤な呼吸器病原体であることをあまり認識していない可能性がある。
  • この分析の結果は、RSV感染症の重症度をインフルエンザで入院した成人と比較した以前の研究の結果と一致している。殆どの研究では、RSV感染症で入院した患者は、インフルエンザで入院した患者よりも酸素補給、人工呼吸器、ICU入院による治療を受ける可能性が高いことが示されている。
  • この分析での重要な発見は、RSVで入院した高齢者は、COVID-19で入院した患者と比べて、標準フロー酸素療法、HFNCまたはNIV、ICUに入院する可能性も高いということである。
  • RSVの重症度をCOVID-19の重症度と比較した研究はごく少数であり、それらは2020年に完了した研究(オミクロン株の出現前、およびCOVID-19ワクチンの導入前)であった。これらの研究は、RSVで入院した患者は、COVID-19で入院した患者に比べて、ICU入室、人工呼吸器、院内死亡を経験する可能性が低いことを示していた。今回の分析において、COVID-19に比べて RSV感染症の重症度が高いのは、「①この分析期間中に流行したオミクロン株亜系統の重症度が低下した」「②ワクチンと感染が付与するSARS-CoV-2に対する免疫が相当増加した」「③抗ウイルス治療の使用が増加した」などの要因の組み合わせによる可能性がある。

文献

  1. Surie D, et al. Disease Severity of Respiratory Syncytial Virus Compared with COVID-19 and Influenza Among Hospitalized Adults Aged ≥60 Years ̶ IVY Network, 20 U.S. States, February 2022‒May 2023
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/72/wr/pdfs/mm7240a2-H.pdf

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問