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146号 COVID-19関連血栓塞栓症の予防における二価COVID-19mRNAワクチンの有効性
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COVID-19の合併症として血栓塞栓症が問題となっている。これに対しての二価COVID-19 mRNAワクチンの有効性についての報告が週報(MMWR)に記述されているので紹介する1)

はじめに

  • COVID-19の合併症には、虚血性脳卒中、静脈血栓塞栓症、心筋梗塞などの血栓塞栓症のリスク増加が含まれる。
  • 65歳以上の成人および透析を受けている末期腎疾患(ESRD:end stage renal disease)の患者は、血栓塞栓症(COVID-19関連血栓塞栓症を含む)のリスクが増加している。
  • COVID-19ワクチンの接種は、入院、人工呼吸器、死亡などの重篤なCOVID-19関連の転帰を防ぐことが示されている。さらに、COVID-19関連血栓塞栓症の発生率は、ワクチン接種者の方が、非接種者よりも低いことが報告されている。しかし、COVID-19関連血栓塞栓症の予防におけるCOVID-19ワクチンの有効性(VE:vaccine effectiveness)の厳密な推定値は入手されていない。
  • この分析は、65歳以上のメディケア[註釈]の受給者および18歳以上の透析を受けているESRDのメディケア受給者を対象に、COVID-19関連血栓塞栓症に対する二価ワクチンの相対的な有効性を、オリジナルの一価ワクチン単独と比較して、接種後の時間ごとに階層化して評価した。

方法

  • 2件の遡及コホート研究が実施された。1件は65歳以上のメディケア受給者を対象として、もう1件は18歳以上の透析を受けているESRDのメディケア受給者を対象として行われた。

結果

二価ワクチンの接種率

<65歳以上の免疫正常のメディケア受給者>

  • 2022年9月4日から2023年3月4日までに、オリジナルのCOVID-19ワクチンを以前に接種した65歳以上の免疫正常のメディケア受給者1,270万6,176人のうち、568万3,208人(44.7%)が二価ワクチンを接種していた。
  • 都市部の居住者では二価ワクチン接種者の割合は非接種者よりも高く(83%vs78%)、2021~22年のシーズン(82%vs55%)と2022~23年のシーズン(87%vs50%)にインフルエンザワクチンを受けた割合も高かった。そして、オリジナルの一価ワクチンのブースター接種を受けていた人の割合も高かった(96%vs73%)。

<18歳以上の透析を受けているESRDのメディケア受給者>

  • 免疫不全がなく、以前にオリジナルの一価ワクチンの接種歴がある、18歳以上の透析を受けているESRDのメディケア受給者7万8,618人のうち、2万3,229人(29.5%)が二価ワクチンの接種を受け、それには18~64歳の7,239人(31.2%)および65歳以上の15,990人(68.8%)が含まれた。
  • 65歳以上の受給者と同様に、透析を受けているESRDの受給者では、二価ワクチン接種者は非接種者よりも、2021~22年のシーズン(90%vs82%)と2022~23年シーズン(92%vs79%)にインフルエンザワクチンの接種を受けた人の割合が高かった。そして、オリジナルの一価ワクチンのブースター接種を受けていた人の割合も高かった(90%vs74%)。
  • 二価ワクチンを接種したESRDの受給者の割合は、二価ワクチンを接種しなかった受給者と比較して、高齢者(69%vs59%)および非ヒスパニック系白人(53%vs47%)が多かった。

COVID-19関連血栓塞栓症の予防におけるワクチンの有効性

  • 研究期間中、65歳以上の免疫正常の受給者22,001人と18歳以上の透析を受けているESRDの免疫正常の受給者1,040人において、COVID-19関連血栓塞栓症が記録された。

<65歳以上の免疫正常のメディケア受給者>

  • 65歳以上の免疫正常の受給者によるオリジナルワクチンのみの接種は合計1,505,533,898人日(person-days)であり、その間に17,746件のCOVID-19関連血栓塞栓症が確認された。
  • 65歳以上では、二価ワクチンの接種は694,184,995人日であり、その間に4,255件のCOVID-19関連血栓塞栓症が確認された。
  • 65歳以上の免疫正常の受給者におけるCOVID-19関連血栓塞栓症に対するVEは47%で、二価ワクチン接種後7~59日後のVE(54%)と比較して、二価ワクチン接種後60日以上のVE(42%)は低かった。

<18歳以上の透析を受けているESRDのメディケア受給者>

  • 同様に、18歳以上の透析を受けているESRDのメディケア受給者では、オリジナルワクチンのみは10,395,534人日となり、その間に917件のCOVID-19関連血栓塞栓症が確認された。二価ワクチンは2,394,731人日となり、その間に123件のCOVID-19関連の血栓塞栓症が特定された。
  • COVID-19関連血栓塞栓症に対するVEは51%で、二価ワクチン接種後60日以上のVE(45%)は、二価ワクチン接種後7~59日後のVE(56%)よりも低かった。ただし、これらの差は統計的に有意ではなかった。

<免疫不全の「65歳以上」「透析を受けているESRD」のメディケア受給者>

  • 同様の結果は、65歳以上の免疫不全の受給者(全体の二価VE=46%、ワクチン接種後7~59日のVE=55%、ワクチン接種後60日以上のVE=39%)および透析を受けているESRDで免疫不全のある受給者の間でも見られた(全体の二価VE=45%、ワクチン接種後7~59日のVE=60%、ワクチン接種後60日以上で有意ではないVE=30%)。

考察

  • 2022年9月4日から2023年3月4日までの間、COVID-19関連血栓塞栓症に対する二価ワクチンの有効性は、オリジナルの一価ワクチン単独と比較して、65歳以上のメディケア受給者では47%、透析を受けているESRDの18歳以上のメディケア受給者では51%であった[図]。
  • これらの所見は、オリジナル一価ワクチンの初期接種と比較した最近の二価ワクチン接種の増分利益として解釈でき、ワクチン接種者では非接種者よりもCOVID-19関連血栓塞栓症の発生率が低いとの過去の報告と一致している。

  図図

 

公衆衛生実践への影響

  • 65歳以上の成人では、最近の二価ワクチンの接種は、過去にオリジナルの一価ワクチンのみを単独で接種した場合と比較して、COVID-19関連血栓塞栓症に対する防御効果をもたらした。
  • この防御パターンは、透析を受けているESRDの成人(特に血栓塞栓症の影響を受けやすい集団)でも観察された。
  • 血栓塞栓症を含むCOVID-19関連の合併症を防ぐために、成人は推奨されているCOVID-19ワクチン接種を最新の状態に保つ必要がある。

[註釈]
メディケアとは、65歳以上のシニア、65歳未満の障がい者や末期腎不全患者を対象とした連邦政府による健康保険である。

文献

  1. Payne AB, et al. Effectiveness of Bivalent mRNA COVID-19 Vaccines in Preventing COVID-19‒Related Thromboembolic Events Among Medicare Enrollees Aged 65 Years and Those with End Stage Renal Disease ̶ United States,September 2022‒March 2023
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/73/wr/pdfs/mm7301a4-H.pdf

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問