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149号 飲料水に関連した水系感染症のアウトブレイク
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飲料水(水道水を含む)によって水系感染症のアウトブレイクが発生することがある。CDCが2015~2020年における調査結果を報告しているので紹介する1)

はじめに

  • 米国における安全な水へのアクセスと提供は、公衆衛生を保護するために非常に重要である。飲料水の汚染による水道サービスの中断は、公衆衛生に悪影響を及ぼし、飲料水の質に対する国民の信頼を損なう可能性がある。
  • 毎年、米国では水系病原体により、推定715万人の病気、11万8,000人の入院、6,630人の死亡が引き起こされ、直接的な医療費は33億3,000万ドルに達する。
  • 飲料水の曝露は入院の40%、死亡の50%に関連しており、主にレジオネラ属や非結核性抗酸菌などのバイオフィルム病原体と関連している。そして、米国では年間13億9,000万ドルの損失が発生している。
  • この報告書は、アウトブレイクの寄与要因(つまり、アウトブレイクにつながる行為と要因)を要約し、アウトブレイクを初めて「バイオフィルム」または「腸管疾患」に関連したものとして分類した。

バイオフィルム

  • バイオフィルムは、湿った表面(水道管など)に付着し、レジオネラ属や非結核性抗酸菌を含む様々な種類の病原体を保護し、栄養分を提供する微生物共同体である。水が停滞したり、消毒薬の残留が枯渇したりすると、バイオフィルムが成長し、その結果、病原体が増殖することになる。さらに、バイオフィルム病原体は水処理プロセス(消毒など)に耐性であるため、制御が困難である。
  • バイオフィルム病原体への曝露は、さまざまな設備(シャワーヘッドなど)や機器(加湿器など)からの汚染水との接触、摂取、エアロゾル吸入によって発生することがある。

飲料水

  • 飲料水には、公共および個人の水道システムによって収集、処理、保管、配給される水、または個人使用のために商業的にボトルに詰められて配給される水が含まれる。
  • 飲料水は、消費およびその他の家庭内用途(飲料、入浴、シャワー、手洗い、食事の準備、食器洗い、口腔衛生の維持など)に使用される。

全国アウトブレイク報告システム

  • 2009年、CDCは公衆衛生部門がアウトブレイク情報を自発的に入力するWebベースのプラットフォームとして、全国アウトブレイク報告システム(NORS:National Outbreak Reporting System)を立ち上げた。
  • CDCは、NORSを通じて、細菌、ウイルス、寄生虫、化学物質、毒素、未知の病原体によって引き起こされる腸管疾患のアウトブレイクと食品媒介および水媒介の非腸管疾患のアウトブレイクの報告を収集している。

結果

飲料水に関連するアウトブレイク

  • 2015年から2020年にかけて、28州の公衆衛生当局は、飲料水に関連する214件のアウトブレイクと454種類の要因を自主的に報告した[図1]。
  • 報告された病因は、バイオフィルム関連が187件(87%)、腸管疾患関連が24件(11%)、原因不明が2件(1%)、化学物質または毒素が1件(<1%)であった[図2]。
  • 飲料水に関連するアウトブレイクにより、少なくとも2,140人が発病し、563人が入院(症例の26%)、88人が死亡(症例の4%)した。

図1.飲料水に関連したアウトブレイクの報告数*、曝露の州別̶ 全国アウトブレイク報告システム、米国、2015~2020年

図2.飲料水に関連したアウトブレイクの報告数*†、最も早い病気の発症月別 ̶全国アウトブレイク報告システム、米国、2015~2020年

 

バイオフィルム関連のアウトブレイク

  • バイオフィルム関連のアウトブレイクの殆どはレジオネラ属に関係していた(n=184;98%)。残りは非結核性抗酸菌2件(1%)とシュードモナス属1 件(0.5%)であった。
  • レジオネラ属関連のアウトブレイクは調査期間中に全体的に増加した[図3]。
  • レジオネラ属関連のアウトブレイクにより、全疾患のうち786人(37%)、入院のうち544人(97%)、全死亡のうち86人(98%)が発生した。

飲料水に関連したアウトブレイク病因の報告数*、レジオネラ属と他のすべての病因との比較 ̶ 水系感染症およびアウトブレイク監視システム、米国、2007~2020年

 

腸管疾患関連のアウトブレイク

  • 腸管疾患に関連する病原体が全疾患のうち1,299人(61%)に関与しており、入院は10人(2%)であった。死亡者は報告されていない。これらの疾患のうち、3つの病原体(ノロウイルス、赤痢菌、カンピロバクター属)またはこれらの病原体を含む複数の病因による症例が 1,225人(94%)発生した。
  • 腸管疾患のアウトブレイクの要因として最も多く特定されたのは飲料水源であった(n=34;7%)。水源(地下水など)がわかっている場合(n=14)、腸管疾患のアウトブレイクのうち13件(93%)で井戸が特定された。

アウトブレイクの曝露源の調査

  • アウトブレイクの曝露源での調査では、医療(病院または医療施設、長期介護施設、介護施設、リハビリテーション施設)が、113件(53%)のアウトブレイク、456人(21%)の症例、372人(66%)の入院、75人(87%)の死亡の曝露場所として特定された[図4]。
  • さらに、医療施設ではレジオネラ属が111件(52%)のアウトブレイク、444人(21%)の症例、364人(65%)の入院、73人(85%)の死亡に関与していた。
  • ホテル、モーテル、ロッジ、旅館は、35件(16%)のアウトブレイク、225人(11%)の症例、85人(15%)の入院、3人(3%)の死亡に関与しており、これらはすべてレジオネラ属によって引き起こされた。

飲料水に関連したアウトブレイクの報告数*、水の曝露の状況†,§ ̶ 全国アウトブレイク報告システム、米国、2015~2020年¶

考察

  • バイオフィルムと飲料水の腸管病原体の寄与は「飲料水関連疾患の予防の複雑さ」と「水源から水道までの予防戦略の必要性」を示している。
  • レジオネラ属関連のアウトブレイクは時間の経過とともに増加しており、入院や死亡を含む飲料水でのアウトブレイクの主な原因となっている。また、井戸に関連した腸管疾患のアウトブレイクは、調査期間中の症例の約半数を占めていた。
  • この報告書は、水媒介疾患による米国の病気と医療費への影響を推定するCDCの取り組みを強化し、バイオフィルム病原体が水系および飲料水関連疾患による入院および死亡の主な原因として浮上していることを明らかにした。

文献

    1. Kunz JM, et al. Surveillance of Waterborne Disease Outbreaks Associated with Drinking Water ̶ United States, 2015‒2020
      https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/73/ss/pdfs/ss7301a1-H.pdf

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問