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162号 米国における麻疹の最新情報(2025年1月1日~4月17日)
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現在、世界中で麻疹が流行しており、米国も例外ではない。CDCが米国における麻疹の最新情報を公開しているので紹介する1)

はじめに

  • 麻疹は最も感染力の強い発熱性発疹性疾患であり、感受性の高い濃厚接触者の最大90%に感染し、肺炎、脳炎、死亡などの重篤な合併症を引き起こす。
  • 2001年から2022年にかけて米国で報告された麻疹症例4,056人のうち、727人 (18%) が入院し、3人の死亡が報告されている。
  • 入院症例727人のうち、473人 (65%) はワクチン未接種で、187人 (26%) はワクチン接種状況が不明であった。
  • 世界中で、麻疹ワクチン接種は1974年から2024年の間に9,370万人の命を救い、麻疹に関連する合併症や、麻疹関連の免疫抑制の結果としての他の感染症による死亡を防ぐことで、小児死亡率の低減に大きな役割を果たしたと推定されている。
  • 米国では、1989年に麻疹、ムンプス、風疹 (MMR) のワクチン接種スケジュールが1回接種から2回接種に変更された後、2000年に風土病としての麻疹の伝播が排除されたと宣言された。
  • しかし、COVID-19パンデミックによって、麻疹ワクチンの定期接種サービスやキャンペーンの実施が困難であった結果として生じた最近の世界的な麻疹の再流行により、米国における輸入症例やアウトブレイクのリスクが高まっており、特に米国人旅行者が海外で麻疹に曝露し、感染力のある状態で米国に帰国した場合にそのリスクが高い。
  • 米国は依然としてMMR定期接種による高い集団免疫の恩恵を受けているものの、学齢期の小児での予防接種率の低下や、すでにワクチン接種率が低い地域社会では、麻疹の再流行と、それに伴う潜在的に重篤な合併症の脅威となっている。
  • この報告書では、CDCは全国的な監視データを使用して、2025年の最初の16週間に米国で報告された麻疹の症例とアウトブレイクの疫学を説明する。

方法

データソースと症例分類

  • 各州保健局は、麻疹確定症例を国家届出疾病監視システムを通じてCDCに通知し、直接 (電子メールまたは電話で) 国立予防接種・呼吸器疾患センターに通知している。
  • 麻疹ワクチンの接種状況は各症例の調査中に保健局によって確認された。そして、発疹発現の14日以上前に麻疹含有ワクチンを1回以上接種したことを示す書面または電子文書がある症例はワクチン接種済みとみなされ、その他の症例はすべて未ワクチン接種または麻疹ワクチン接種状況不明として分類された。
  • 麻疹症例は「①曝露期間 (発疹発現の7~21日前) の少なくとも一部が米国外で発生した」「⓶米国入国後21日以内に発疹が発現した」「③米国内で麻疹への曝露歴がない」という条件を満たす場合、州および地域疫学者協議会によって国際輸入症例として分類された。その他の症例はすべて米国内感染症例として分類された。

アウトブレイクの分析

  • 麻疹のアウトブレイクは、疫学的に関連する症例が3人以上発生した場合と定義された。
  • 麻疹ウイルスの特異的配列は、世界保健機関 (WHO) の配列変異の標準的な記述に関する推奨事項に基づき、N-450配列 (カルボキシル末端の150個の核タンパク質アミノ酸をコードする450ヌクレオチド) において少なくとも1つのヌクレオチドが異なるものと定義された。

結果

報告された麻疹症例の特徴

  • 2025年1月1日から4月17日までの間に、米国の25の管轄区域で合計800人の麻疹確定症例が報告された (図1)。週ごとの症例数の最多 (99人) は、3月22日までの週に報告された (図2)。
  • 症例の年齢中央値は9歳 (IQR=4〜23歳) で、249人 (31%) が5歳未満、304人 (38%) が5〜19歳、231人 (29%) が20歳以上、16人 (2%) は年齢不明だった。
  • 麻疹症例全体のうち、771人 (96%) はワクチン接種を受けていないかワクチン接種状況が不明で、10人 (1%) はMMRワクチンを1回接種し、19人 (2%) は2回接種していた。
  • テキサス州の症例については、テキサス州予防接種登録では登録に法律で明示的な同意 (オプトイン) が必要であるため、未接種症例とワクチン接種状況が不明な症例を分類できなかった。
  • 麻疹症例210人 (テキサス州が報告した590人を除く) のうち、162人 (77%) は未接種、6人 (3%) はMMRワクチンを1回接種、12人 (6%) は2回接種、30人 (14%) のワクチン接種状況は不明だった。
  • 800人中790人 (99%) は米国居住者で発生した。85人 (11%) が入院し、そのうち56人 (66%) は未接種、1人 (1%) はMMRワクチンを1回接種、28人 (33%) のワクチン接種状況は不明だった。麻疹による死亡3人がCDCに報告され、テキサス州では、基礎疾患のない未接種の学齢期児童で2人、ニューメキシコ州では未接種の成人1人が確認された。
  • 症例の大半 (557人、70%) は検査で確認された。分子配列解析に使用できる検体が得られた251人 (31%) のうち、全てが野生型のウイルス株であることが確認され、225人 (90%) が遺伝子型D8、26人 (10%) が遺伝子型B3と同定された [註釈]。

 

国際輸入

  • 48人 (6%) は他国からの直接輸入例で、そのうち44人 (92%) は海外旅行経験のある米国居住者であった。752人 (94%) は米国内で感染した。15人 (31%) は二次感染であった。
  • 国際輸入麻疹症例48人のうち、33人 (69%) はワクチン未接種、1人 (2%) はMMRワクチンを1回接種、4人 (8%) は2回接種、10人 (21%) はワクチン接種状況不明であった。
  • 輸入麻疹に罹患したワクチン未接種者33人全員がACIPに基づくワクチン接種年齢要件を満たしており、これには生後6~11ヶ月の乳児旅行者10人が含まれていた。

麻疹のアウトブレイク

  • 2025年には10件の麻疹のアウトブレイクが報告されており、報告されたすべての確定症例のうち751人 (94%) はアウトブレイクに関連していた。
  • 7件のアウトブレイクは輸入発生源が特定され、3件のアウトブレイクは発生源が不明のままである。アウトブレイクに関連した症例は12の州 (ジョージア州、インディアナ州、カンザス州、ケンタッキー州、ミシガン州、ニュージャージー州、ニューメキシコ州、オハイオ州、オクラホマ州、ペンシルベニア州、テネシー州、テキサス州) で報告された。
  • 最大のアウトブレイクは2025年1月にテキサス州ゲインズ郡のワクチン接種率の低い密接なコミュニティで始まり、2025年中に報告された症例の82% (654人) を占めている (テキサス州24郡で584人、ニューメキシコ州4郡で63人、オクラホマ州北東部で7人)。このアウトブレイクの発生源は依然として不明である。カンザス州で確認された37人の確定症例は、このアウトブレイクとの関連が疑われている。
  • さらに、メキシコのチワワ州では、2月下旬にテキサス州ゲインズ郡に旅行したメキシコ人住民が感染したことから、アウトブレイクの拡大が始まった。
  • カンザス州、ニューメキシコ州、テキサス州の麻疹症例から採取された208検体の遺伝子型はすべてD8で、そのうち196検体 (94%) はN-450配列が同一であった。12検体は1塩基の差があり、これは長期にわたるアウトブレイクで予想される現象である。

考察

  • 2025年の最初の16週間に、米国では800人の麻疹症例と10件のアウトブレイクが報告された。これは、2024年全体で米国で報告された285人の麻疹症例と比較して約180%の増加を示している。ほとんどの症例は、ニューメキシコ州、オクラホマ州、テキサス州のワクチン接種率の低い密接なコミュニティでの持続的なアウトブレイクに関連していた。
  • 全体として、麻疹症例の11%が入院し、3人の死亡が報告されている。前年と同様に、ほぼすべての症例 (96%) がワクチン未接種者またはワクチン接種状況不明者で発生しており、テキサス州から報告された症例を除くと、症例の77%がワクチン未接種者であった。
  • 輸入症例のほとんど (92%) は、感染した状態で米国に帰国した米国居住者であった。隔離と検疫を含む標準的な麻疹対策の遵守、および地域における高いワクチン接種率により、これらの人々のほとんどからの二次感染は阻止された。
  • 2025年に報告された症例のほとんどは、ニューメキシコ州、オクラホマ州、テキサス州の緊密なコミュニティでのアウトブレイクに関連しており、2000年に麻疹排除が宣言されて以来、米国で2番目に大きなアウトブレイクとなっている。
  • 2001年から2023年の間に、症例が50人以上の米国での麻疹アウトブレイクの約90%は、ワクチン接種率の低い緊密なコミュニティで発生した。こうしたコミュニティでは、共同の集まりが頻繁に行われ、検査、治療、ワクチン接種のために公衆衛生や医療システムと関わることに懸念を抱いている可能性がある。
  • 複数の州および国にまたがる同様のコミュニティ間の頻繁な移動は、麻疹のアウトブレイクの急速な拡大を促進する可能性がある。米国では、麻疹のワクチン接種率が高いために集団免疫が高く、広範囲に渡って感染が広がるリスクは低いままである。しかし、米国人旅行者が頻繁に訪れる地域での麻疹の発生率が最近世界的に増加していること、多くの米国管轄区域でMMRワクチン接種率が95%未満 (麻疹のアウトブレイクを防ぐために必要な集団レベルの免疫の推定値) に低下していること、および進行中の国内アウトブレイクから他の管轄区域への麻疹の蔓延により、米国内で麻疹が継続的に伝染するリスクが高まっている。

[註釈1]
麻疹ウイルスは血清学的には単一型であるが、遺伝子学的には8つの系統群 (A~H) がある。A, E, Fは単一の遺伝子型であり、B, C, D, G, Hには複数の遺伝子型 (B1~3, C1~2, D1~10, G1~3, H1~2) がある。世界的な排除活動によって、遺伝子型の数は減少し、2002年には13種類であったものが、2021年と2022年にはB3とD8の2種類となった2)

文献

  1. Mathis AD, et al. Measles Update — United States, January 1–April 17, 2025.
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/74/wr/pdfs/mm7414a1-H.pdf
  2. Minta AA, et al. Progress Toward Measles Elimination — Worldwide, 2000–2022.
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/72/wr/pdfs/mm7246a3-H.pdf

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問