ヒトと動物の接触は精神的や身体的健康などに良い影響を与えるが、様々な病原体による感染症を引き起こすことがある。CDCが動物への接触に関連した腸管疾患アウトブレイクについて記述しているので紹介する1)。
はじめに
- ヒトは動物との接触が多く、動物との接触が想定される場所(例:触れ合い動物園、農場、ペットショップ)で頻繁に動物と触れ合っている。
- 米国では、推定57%から70%の世帯が少なくとも1匹のペットを飼育している。
- ヒトと動物の接触は、精神的、社会的、身体的健康に良い影響を与えるなど、双方にとって有益である一方、腸管疾患を拡散する可能性がある。
- 動物接触に関連した腸管疾患は、通常、糞口感染を介して、動物からヒトに伝播する。ヒトは、動物自体、動物の環境、動物の餌や水を介して動物の糞便や体液に接触する可能性がある。
- 米国では、2012年時点で年間推定450,000人の腸管疾患、5,000人の入院、76人の死亡が動物接触に関連して発生していると推定されており、これらの疾患のうち14%はアウトブレイクに関連したと推定されている。
- アウトブレイクに関連した疾患は、動物接触に関連する全ての腸管疾患のごく一部ではあるが、アウトブレイクサーベイランスから得られるデータは、アウトブレイクに寄与する病原体、動物、病原体-動物ペア、曝露場所など、根底にある疫学的要因に関する情報を提供する。
- 本報告は、CDCの動物接触アウトブレイクサーベイランスシステム(ACOSS: Animal Contact Outbreak Surveillance System)を通じて報告された、2009年から2021年までの動物接触に関連した腸管疾患アウトブレイクの概要をまとめたものである。
ACOSSの概要
- ACOSSは、動物接触に関連する腸管疾患アウトブレイクを包含したサーベイランスシステムである。
- ACOSSでは、「動物ソース(animal source)」を動物自体(家畜および野生動物を含む)、動物の糞便または体液(食品として消費されるミルクやその他の体液を除く)、動物の毛皮、毛、羽毛、鱗、皮膚、動物の餌、動物の環境(生息地や徘徊する場所を含む)と定義している。
- 動物接触アウトブレイクは共通の動物ソースに関連する2人以上の腸管疾患と定義した。アウトブレイクは単一州または複数州にわたることがある。
- 病原体は、細菌、寄生虫、ウイルスとして報告される。複数の病原体が報告された場合は、複数病原体アウトブレイクとして分類される。
- 曝露場所は、アウトブレイクの発生場所(例:触れ合い動物園、農場、プライベートホーム)として報告される。複数の曝露場所が報告されることがある。
- 裏庭の家禽アウトブレイクは、家庭内での家禽との接触を伴うアウトブレイクとして定義される。
- ペットフードやおやつに関連するアウトブレイクでは、そのフードの対象となる動物が関与動物ソースとみなされる。
結果
アウトブレイクの疫学的特徴 (2009年-2021年)
- 2009年から2021年の間に、ACOSSを通じて557件の動物接触に関連した腸管疾患アウトブレイクが報告され、疾患14,377人、入院2,656人、死亡22人が発生した(図)。
- 年間報告されるアウトブレイクの中央値は45件であった。
- 単一州アウトブレイクは393件(71%)で、疾患2,935(20%)に関連していた。
- 複数州アウトブレイクは164件(29%)であったが、疾患11,442人(80%)、入院2,333人(88%)、死亡18人(82%)を占めた。複数州アウトブレイクは、中央値16.5州で発生していた。
- 単一州および複数州アウトブレイクでの入院率は全体で18%であった。
病原体
- 単一病原体によるアウトブレイクは474件(全アウトブレイク557件の85%)報告された。
- これら474件のうち、Salmonellaが最も多く報告された病原体であり(248件 [52%])、疾患(11,822人 [85%])、入院(2,393人 [91%])、死亡(17人 [77%])の大部分を占めた。
- Cryptosporidiumによるアウトブレイクは、単一病原体として2番目に多く報告されており(108件 [23%])、疾患(913人 [7%])も2番目に多かった。
- 志賀毒素産生性大腸菌(STEC: Shiga toxin–producing Escherichia coli ) によるアウトブレイクが3番目に多く(63件 [13%])、Campylobacterが4番目に多かった(52件 [11%])。
- SalmonellaとSTECを合わせると、入院2,531人(96%)と死亡22人を引き起こしている。Salmonellaアウトブレイクの入院率が最も高かった(20%)。
- 全体として、細菌が最も多く報告された病原体カテゴリーであり(405件 [75%])、疾患13,160人(93%)、入院2,593人(98%)、死亡22人に関連していた。その他のアウトブレイクは寄生虫によるものであった。
曝露場所
- 少なくとも1つの曝露場所が報告された545件のアウトブレイクのうち、単一の場所が報告されたのは417件(77%)で、全疾患の45%を占めた。
- 単一の曝露場所アウトブレイクのうち、プライベートホームに関連するものが最も多く(168件 [40%])、次いで農場または酪農場(89件 [21%])、祭りまたは見本市(36件 [9%])、触れ合い動物園(28件 [7%])であった。
- 複数の曝露場所が報告されたのは128件(23%)で、疾患の55%を占めた。
- 複数の曝露場所アウトブレイクのうち、農場飼料販売店とプライベートホームが同時に報告されるケースが最も多かった(68件 [53%])。
動物ソース
- 動物ソースが報告されたのは505件のアウトブレイク(全体の91%)であった。
- 動物ソースを単一の動物カテゴリーに帰属できた467件のアウトブレイク(全体の84%)のうち、反芻動物が最も多く関与したカテゴリーであり(171件 [37%])、次いで家禽(155件 [33%])、カメ(39件 [8%])であった。
- 反芻動物に関連する171件のアウトブレイクのうち、ウシが最も頻繁に報告され(128件 [75%])、反芻動物関連疾患の70%を占めた。
- カメに関連する39件のアウトブレイクのうち、小型カメ(甲羅の長さ10cm未満)が最も頻繁に報告され(24件 [62%])、カメ関連疾患の大部分(86%)を占めた。
- 最も多くのアウトブレイク関連疾患を引き起こした動物カテゴリーは、家禽(9,095人 [単一カテゴリー帰属疾患の66%])であり、次いで反芻動物(1,613人 [12%])、カメ(1,323人 [10%])であった。
- 単一動物カテゴリーに帰属されたアウトブレイクのうち、ACOSSを通じて報告された入院(70%)および死亡(68%)の大部分は家禽に関連していた。
- 家禽に帰属された155件のアウトブレイクのうち、130件(84%)でプライベートホームが少なくとも1つの曝露場所として報告されていた(すなわち、裏庭の家禽)。裏庭の家禽に関連するアウトブレイクは、家禽に帰属された疾患のほぼ全て(98%)を占め、本報告に含まれる全疾患の約半分を占めた。
- カメに帰属された39件のアウトブレイクのうち、35件(90%)でプライベートホームが少なくとも1つの曝露場所として報告された。
病原体-動物ペア
- 単一病原体によるアウトブレイクのうち、最も多かった「病原体-動物ペア」は、Salmonellaと家禽(132件)であり、次いでCryptosporidiumと反芻動物(88件)、Salmonellaとカメ(37件)であった。
- Salmonellaと家禽のペアは、単一病原体によるアウトブレイクの中で、最も多くの疾患(8,965人)、入院(1,790人)、死亡(15人)を引き起こした。
- Salmonellaとカメは、単一病原体によるアウトブレイクの中で、2番目に多い疾患(1,318人)および入院(300人)を引き起こした。
- STECと反芻動物は、アウトブレイク32件に関連し、疾患521人と死亡1人を引き起こした。
ペットフードおよびおやつ
- ペットフードおよびおやつは、アウトブレイク13件(2%)に関連し、疾患459人(3%)、入院72人(3%)、死亡1人(5%)を引き起こした。
- ペットのおやつまたは噛み物に関連するアウトブレイクは犬に関連し、ペットフードに関連するアウトブレイクの中で最も多くの入院(51人 [71%])を引き起こした。
複数州アウトブレイク
- 2009年から2021年の間に、164件(29%)の複数州アウトブレイクが発生したが、これらは疾患11,442人(80%)、入院2,333人(88%)、死亡18人(82%)を引き起こした。
- 複数州アウトブレイクで最も頻繁に報告された動物ソースは家禽(105件 [64%])とカメ(28件 [17%])であった。
- 複数州アウトブレイクで最も多くの疾患を引き起こした動物ソースも家禽(8,803人 [77%])とカメ(1,262人 [17%])であった。
- 動物接触アウトブレイクは、食品媒介アウトブレイクと比較して、複数州にわたる可能性が高く、期間が長い可能性がある。これは、汚染した食品製品にはリコールなどの規制があるのに対し、購入されたペットや動物には同様の規制がないといった、介入オプションの違いに起因する可能性がある。
結論
- Salmonellaと家禽、特に裏庭の家禽は、動物接触に関連した腸管疾患アウトブレイクの主要な原因である。
- カメ、特に小型カメもSalmonella感染症の重要な動物ソースであり、規制や販売制限があるにもかかわらず、継続的な課題となっている。
- プライベートホームでのアウトブレイクの割合が高いことは、動物の所有者、特に裏庭の家禽の所有者の適切な衛生および腸管疾患予防知識に潜在的な空白があることを示唆している。
- 反芻動物、家禽、カメ(特にウシ、裏庭の家禽、小型カメ)に関連するアウトブレイクおよび疾患が多いことから、公衆衛生介入の重要なターゲットである。
文献
- Tisenstein T, et al. Enteric Disease Outbreaks Associated with Animal Contact — Animal Contact Outbreak Surveillance System, United States, 2009–2021
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/74/ss/pdfs/ss7403a1-H.pdf
矢野 邦夫
浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問