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164号 米国の小児におけるMycoplasma pneumoniae感染症
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現在、米国において小児のMycoplasma pneumoniae感染症が急増している。その詳細をCDCが記述しているので紹介する(1)1)

はじめに

  • Mycoplasma pneumoniaeは、一般的な細菌性の呼吸器感染症であり、小児の市中肺炎(CAP: community-acquired pneumonia)の主要な原因である。
  • M. pneumoniae感染症は、3~5年ごとに増加する傾向がある。
  • 米国では、COVID-19パンデミック中およびその直後にM. pneumoniae感染症の有病率が低下したが、2024年に急増した。
  • 本報告は、2018年から2024年にかけて米国で入院した小児のM. pneumoniae感染症の疫学を記述し、特に2024年の感染症の特徴を分析したものである。

調査方法

  • 本研究では、小児健康情報システム(PHIS: Pediatric Health Information System)にデータを提供している米国の42の小児病院の、2018年1月から2024年12月までの18歳以下の患者の臨床データおよび資源利用データを用いた。
  • データは、国際疾病分類第10版(ICD-10)の退院診断コードを使用して、CAPおよびM. pneumoniae感染症を特定するために照会された。
  • 分析では、2018年から2023年までの期間と2024年の感染症の重症度を、集中治療室(ICU)への入院率と入院期間を指標として比較した。
  • M. pneumoniaeに有効とされる抗菌薬には、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、エリスロマイシンなどのマクロライド系が第一選択薬として挙げられる。マクロライド耐性M. pneumoniae感染症は、世界の地域によっては広く蔓延しているが、米国では比較的稀で、症例の10%未満を占める。

結果

CAPの全体的な有病率

  • 入院した小児5,631,734人のうち、141,955人(2.5%)がCAPと診断された。
  • CAPの年間増加は、2020年から2021年を除き、毎年秋と冬に発生した。
  • CAPの年間症例数は、2020年の10,221人から2024年には30,891人に増加した。

M. pneumoniae関連CAPの発生率

  • 入院した小児CAP患者141,955人のうち、M. pneumoniaeの診断コードが記載されたのは16,353人(11.5%)であった。
  • 2024年には、M. pneumoniaeが全CAP入院症例の33%を占め、2024年7月にはピーク(53.8%)に達した。これは、2021年から2023年の年間5%未満から大幅に増加したものである。
  • 2024年のM. pneumoniae関連CAPの発生率(入院1,000人あたり12.5人)は、2018年から2023年(2.1人)と比較して有意に高かった。
  • M. pneumoniae関連入院の総数16,353人(入院1,000人あたり4.45人)のうち、6,055人(2.12人)が2018年から2023年に発生し、10,298人(12.49人)が2024年に発生した。
  • 2020年初頭にM. pneumoniae関連CAPの入院数が減少し、2023年まで低い水準にとどまった後、2024年には全年齢層で増加した(図1)。

  • M. pneumoniae関連CAP症例の総数および割合が最も高かったのは、6~12歳の小児(42.6%)であり、次いで2~5歳(25.7%)、13~18歳(21.1%)であった(図2)。最も低かったのは、12~23ヶ月(6.4%)および0~11ヶ月(4.2%)であった。

  • 2024年では、CAPに占めるM. pneumoniaeの割合が、12~23ヶ月の小児で最も大きく増加し(8.5倍)、次いで0~11ヶ月(8.1倍)であった。

重症度と転帰

  • 2024年のM. pneumoniae感染症は、2018年から2023年の感染症と比較して重症度は高まらなかった。
  • 入院期間は、2024年の方が短く(中央値2日、vs. 2018-2023年の3日)、ICUに入院した患者の割合も低かった(2024年の19.5%、vs. 2018-2023年の26.0%)。
  • M. pneumoniae関連CAPの小児における死亡は44人(0.3%)発生し、そのうち15人(0.1%)は2024年、29人(0.5%)は2018年から2023年に発生した。
  • 死亡した患者の年齢中央値は12歳であった。
  • M. pneumoniae関連CAP入院患者の95.9%がM. pneumoniaeに有効な抗菌薬を投与されており、2024年にはこの割合がわずかに高かった(96.2% vs. 95.4%)。

考察

  • 米国の42の小児病院からのデータ分析は、2024年にM. pneumoniae関連CAPの退院が急増し、6年間で最高レベルに達したことを示している。
  • この増加は、COVID-19パンデミック中の世界的な低循環期間を経て、集団の感受性が高まったことを反映している可能性が高い。
  • 感受性の増加にもかかわらず、2024年の小児のM. pneumoniae感染症は、過去5年間と比較して重症度は高まらなかった。
  • 歴史的には、M. pneumoniae感染症の最高割合は5~17歳の小児で報告されてきたが、本研究では6~12歳の小児で最も多かった。一方、2024年には5歳未満の小児でCAPに占めるM. pneumoniaeの割合が最も大きく増加した。
  • 特に、2歳未満の小児におけるM. pneumoniae感染症の数は年長児よりも少なかったものの、ピーク時には0~11ヶ月および12~23ヶ月の小児のCAPの約半分をM. pneumoniaeが占めた。
  • これらの知見は、M. pneumoniae感染症の周期的な増加期には、この病原体が5歳未満を含む全年齢の小児におけるCAPのかなりの割合を占める可能性があることを示唆している。
  • 医療提供者は、M. pneumoniae感染症の増加、特に他の一般的な呼吸器病原体の循環が少ない夏や秋に発生する可能性のある増加を認識すべきである。
  • M. pneumoniae感染症は身体診察のみで特定することはできないため、特に流行期間では、全年齢の小児における呼吸器疾患の原因としてこの病原体を考慮し、検査を行うべきである。
  • M. pneumoniae関連CAPの第一選択抗菌薬が他の細菌性CAPとは異なるため、検査によるM. pneumoniae感染症の確認は、患者の治療方針を決定する上で役立つ。
  • 多項目同時検出検査の広範な利用は、特に年少患者におけるM. pneumoniae感染症の認識向上に貢献する可能性がある。

結論

  • 米国の小児病院において、COVID-19パンデミック後の2024年にM. pneumoniae関連CAPの退院が急増した。この増加は、特に以前はあまり報告されていなかった5歳未満の小児でも顕著であった。
  • 感染者数の急増にもかかわらず、2024年のM. pneumoniae感染症は、入院期間やICU入室率から判断して、2018年から2023年の感染症と比較して重症度は高まらなかった。

 

文献

  1. Diaz MH, et al. Mycoplasma pneumoniae Infections in Hospitalized Children — United States, 2018–2024
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/74/wr/pdfs/mm7423a1-H.pdf

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問