ケンエーIC News

169号 オンライン購入ボツリヌス神経毒素の自己注射に起因する重症例
PDFファイルで見る
オンラインで購入したボツリヌス神経毒素(BoNT: botulinum neurotoxin)を自己注射した結果、重症化した3症例についてCDCが報告しているので紹介する(1)。

背景と本報告の目的

  • FDA承認の美容用BoNTは、認可を受けた医療専門家が推奨量で使用するかぎり、安全性が確立されている。それでも時に、注射部位に関連した局所的な麻痺が生じることがある。
  • 一方、未承認品や不適切な方法で入手・投与されたBoNTは、まれではあるが重篤な健康被害を引き起こす可能性がある。
  • 本報告は、2025年5〜6月にオンラインで購入した美容用BoNTを自己注射した後、重症化して入院治療を要した3人(ニューヨーク州、テキサス州、ウィスコンシン州 各1人)の経過をまとめたものである。
  • 3人はいずれも、BoNTの購入や注射に必要な資格要件を満たしておらず、患者間の関連も確認されていない。
  • これらは、未承認製品の使用や不適切な投与が重大な健康被害をもたらす可能性を示す事例であり、医療者と一般市民双方への注意喚起が求められる。

症例概要と患者特性

  • 2025年5〜6月にCDCへ報告されたのは、29歳、50歳、59歳の3人の女性である(表)。
  • 患者はそれぞれ異なる州に居住し、いずれも自己注射後に重い症状を呈した。
  • 3人とも医療資格はなく、BoNTの購入・注射に必要な訓練を受けていたとの記録もない。
  • 自己投与量は11〜約200単位と幅があった。

臨床経過と治療

  • 発症は注射後2〜5日で、患者Cは3日、Aは4日、Bは2日後であった。
  • 症状が進行したため、全員が救急受診し、その後3〜6日間入院した。
  • 主な症状には、嚥下障害、構音障害、複視、眼瞼下垂、呼吸困難、上肢筋力低下などが含まれた。
  • 1人(患者B)は気道管理のため侵襲的人工呼吸管理を要した。
  • 患者が自己注射の事実を明かした後、臨床チームはボツリヌス症を疑い、各州保健当局と連携してCDCにボツリヌス抗毒素(BAT: botulism antitoxin)の使用について問い合わせた。BATは、血中に残存するBoNTに結合して麻痺の進行を抑える、ウマ由来の七価抗毒素である。
  • CDCは3名全員にBATを供給し、ガイドラインに従い検査結果を待たずに投与を開始した。BAT投与は症状出現から3〜4日後であった。

検査結果とBoNT検出に関する考察

  • BAT投与前に採血し、公衆衛生研究所でBoNT検査が行われた。ただし、検査には時間を要するため、検査と治療は並行して進められた。
  • 退院後に判明した検査結果では、3人とも血清中に循環性BoNTは検出されなかった。
  • 血清が陰性となることはボツリヌス症では珍しくなく、理由として次が考えられる。
  • 症状発症から採血まで3〜4日が経過しており、この遅れが検出を妨げた可能性もある。

BoNT供給源の調査と公衆衛生上の示唆

  • 保健当局は製品の供給源の特定を試みたが、患者から得られた情報は限られ、米国外の業者からオンライン購入したという点以外は明確でなかった。
  • 連絡にはWhatsAppなどのメッセージングアプリが使われており、患者は販売者のリンクを提示できず、当局は実物の製品を確保できなかった。
  • 1人は注射方法をインターネットで検索して自己学習していた。
  • 得られた情報から、使用されたBoNTはいずれもFDA承認品ではなく、3人ともアジアの業者から購入していたことが示唆された。
  • 未承認のオンライン販売品は、誤表示、不純物混入、偽造、汚染、不適切な保管、無効性など、さまざまな危険を伴う可能性がある。
  • 海外住所を使用する業者、破損品や誤ったラベル、期限切れ、極端な割引価格などは危険な医薬品の兆候である。

感染制御の専門家への提言

  • FDA承認BoNTは、長年にわたり医療専門家によって安全に使用されてきたが、BoNT自体は最強クラスの天然毒素である。
  • 偽造品や無資格者による投与、あるいは自己注射は重症化のリスクが高く、時に人工呼吸管理やBAT投与が必要となる。
  • BoNTは、製造業者または正規の販売業者から入手したFDA承認品を、適切な訓練を受けた医療専門家が推奨用量で投与すべきである。
  • 無許可のオンライン供給源から入手したBoNTを自己注射する行為は、重大な健康被害を招く。
  • 医療提供者は、BoNT注射を希望する人に対し、不適切な投与のリスクを説明し、資格を有する医療専門家による実施を強く勧める必要がある(図)。
  • SNS上の不正確な情報によって自己注射を試みるケースに対しては、正しいリスク情報を提供し対応すべきである。

文献

  1. Lamere L, et al. Severe Illnesses After Self-Injection of Botulinum Toxin Purchased Online — New York, Texas, and Wisconsin, 2025
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/74/wr/pdfs/mm7438a1-H.pdf

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問