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171号 海外に転居する結核患者のケアの継続
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結核は依然として重大な公衆衛生課題であり、海外に転居する患者では治療中断が問題となる。CDCのCureTBプログラムは国際連携により治療継続を支援し、早期に受診することが高い治療完了率につながることが示された。そのプログラムについてMMWRで詳細に記述されているので紹介する(1)。

はじめに

  • 全世界において、2023年には約1080万人が新たに結核と診断されており、高い伝播率、薬剤耐性の可能性、それに伴う罹患率と死亡率は依然として世界的な公衆衛生上の懸念事項である。
  • 米国においても、2023年の新規結核診断数は9,633件に達し、2022年比で15.6%、パンデミック前の2019年比でも8.3%増加していることが報告されている。
  • 結核治療は通常6カ月から2年以上に及ぶ長期的なものであるが、治療期間中に国外へ転居する患者は少なくなく、米国では2016年に診断された患者の3.3%が治療完了前に国外に転居した記録がある。
  • 国際間を転居する結核患者は、言語の壁や不慣れな医療システム、社会経済的な障壁に直面しやすく、治療の中断や未完了のリスクが高い。
  • 治療の未完了は、結核の伝播を助長するだけでなく、多剤耐性結核の発生リスクを著しく高めるため、感染制御の観点から深刻な問題となる。
  • CDCが運営するCureTBプログラムは、米国へ入国または米国から出国する転居患者に対し、転居先の公衆衛生当局へ情報を提供し、治療の継続を支援することを目的としている。
  • 本稿では、2016年から2023年にかけてのCureTBプログラムの実績と、治療完了率に影響を与える要因について、最新の調査結果に基づき詳説する。

CureTBプログラムの構造と国際紹介プロトコル

  • CureTBプログラムは1997年にサンディエゴで開始され、2016年からはCDCの管理下で世界規模の紹介業務を担うようになり、100カ国以上の公衆衛生当局と連携している。
  • 当プログラムは、米国内外の結核プログラム、連邦機関、各国の結核対策本部からの依頼を受け、患者が治療を継続できるよう支援を行っている。
  • 患者との面談(インタビュー)においては、場所を問わず詳細な連絡先(氏名、電話番号、米国内および転居先の住所)を収集・確認する。
  • 患者の教育には動機付け面接法(Motivational Interviewing)が導入されており、治療継続の重要性を説き、自らのケアに積極的に参加するよう促している。
  • 出国前の結核伝播リスクを最小限に抑えるため、CDCは転居前の患者が非感染性であることを確認する基準を設けている。
  • 「非感染性」の定義は、少なくとも3回連続の喀痰塗抹陰性、薬剤耐性例では少なくとも2回連続の培養陰性、および臨床状態に基づいた十分な回数の効果的な治療投薬がなされていることである。
  • 「非感染性」の定義は、少なくとも3回連続の喀痰塗抹陰性、薬剤耐性例では少なくとも2回連続の培養陰性、および臨床状態に基づいた十分な回数の効果的な治療投薬がなされていることである。
  • 紹介依頼には以下の5つのタイプがあり、潜在性結核感染症(LTBI: latent TB infection)については管理プロトコルが国ごとに異なるため、原則として紹介対象とはしていない:

    • ①確定診断された結核症例の通知
    • ②結核疑い症例(検査結果待ちの状態)の通知
    • ③臨床情報の提供依頼(過去の治療歴など)
    • ④濃厚接触者の通知
    • ⑤感染源特定調査の依頼
  • 紹介後の転居先におけるアウトカムは、治療完了、追跡不能、治療拒否、医療従事者による治療中止、死亡などのカテゴリーで管理されている。

2016–2023年におけるプログラム実績と統計的分析

  • 2016年から2023年の間に、CureTBプログラムが受理した紹介依頼総数は6,944件に上り、これは前回調査期間(2012–2015年)の1,347件と比較して約400%の増加を示している。
  • 依頼内容の内訳は、結核疑い症例が3,912件(56%)と最も多く、次いで確定診断症例が2,404件(35%)であった。
  • 紹介された患者の年齢中央値は36歳(四分位範囲:27–49歳)であった。
  • 転居先の国名別ではメキシコが2,216件(31.9%)と最多であり、次いでホンジュラス(852件)、グアテマラ(820件)と続き、米国への流入も235件含まれている。
  • 依頼元の管轄別では、テキサス州が2,894件(41.7%)と突出しており、カリフォルニア州(1,324件)、アリゾナ州(945件)などの国境に近い州からの依頼が大きな割合を占めている。
  • 確定診断された2,404人のうち、実際に紹介手続きが完了した1,741人の約79%(1,379人)が、12カ月以内に治療を完了したことが確認された。
  • 紹介された患者のうち、1,622人は米国外へ、119人は米国内の他都市へ転居しており、米国内へ転居した患者の治療完了率は92%と高い一方、国外転居者では78%であった。
  • 治療完了に至らなかった理由としては、追跡不能(14%)、死亡(3%)、治療拒否(3%)などが挙げられる。
  • 特筆すべき点として、治療完了率は2016–2019年の80%に対し、パンデミック期間を含む2020–2022年も82%と安定しており、危機的状況下でもプログラムが有効に機能したことを示している。

治療開始のタイミングがアウトカムに与える影響

  • 治療完了率を最大化するためには、転居後の速やかな医療機関へのリンク(受診)が極めて重要である。
  • 「米国出国から転居先での治療開始までの期間別アウトカム」の分析結果(データが利用可能な1,287人対象)は以下の通りである(図)

    • ①転居後30日以内(1カ月未満)に治療を開始した637人の治療完了率は91%と非常に高い。
    • ②1–3カ月以内に開始した505人の完了率は89%であった。
    • ③治療開始までに3–12カ月を要した145人では、完了率が85%まで低下する傾向が見られた。
  • 転居後3カ月を超えて治療開始が遅れると、未完了リスクが高まるだけでなく、その期間中に感染を広めるリスクや薬剤耐性を獲得するリスクが増大する。
  • 計画的な国際転居が判明した時点で早期に紹介依頼を行うことは、スタッフによる十分な患者教育を可能にし、転居先でのスムーズな受診につながる。
  • 逆に、出国直前や出国後の依頼、あるいは不完全な連絡先情報での依頼は、患者の追跡を困難にし、治療の断絶を招く要因となる。
  • 結論

    • CureTBプログラムは、2016年から2023年にかけて大幅な拡大を遂げ、国際間を転居する結核患者の治療継続において、平均79%という高い治療完了率を維持している。
    • 特に、転居後30日以内の早期受診が治療完了率を91%まで高めることが示された事実は、迅速な紹介プロセスの重要性を裏付けている。
    • 当プログラムは、患者情報の安全な受け渡しを保障し、各国の医療システム間の溝を埋めることで、結核の伝播防止と薬剤耐性出現の抑制に寄与している。
    • 依然として言語の壁や社会経済的な障壁、データの不完全性といった課題は存在するものの、CureTBプログラムは国際転居する人々における結核管理の優れたモデルケースとなり得る。
    • 今後は国際的な紹介合意をより形式化し、各国の結核プログラム間の調整を強化することで、米国、ひいては世界的な結核根絶に向けたさらなる進展が期待される。

    文献

    1. Vera-Garcia C, et al. Continuity of Care for Patients with Tuberculosis Relocating to Other Countries — CureTB Program, 2016–2023
      https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/75/wr/pdfs/mm7503a1-H.pdf

    矢野 邦夫

    浜松市感染症対策調整監
    浜松医療センター感染症管理特別顧問