CDCが米国における2024-25年シーズンの医療従事者のインフルエンザウイルスおよび新型コロナウイルスのワクチン接種率についての調査報告書を公開している。その要点を整理して紹介する1)。
はじめに
- 医療従事者がインフルエンザウイルスや新型コロナウイルスなどの呼吸器感染症ワクチンを接種することは、自身の健康を維持するために極めて重要な選択である。
- これは単なる自己防衛に留まらず、医療現場における患者への意図せぬウイルス伝播を防ぎ、スタッフの欠勤による医療機能の低下を回避するための組織的な戦略でもある。
- ACIP(予防接種実施諮問委員会)は、2024年から2025年の呼吸器ウイルスシーズンにおいて、すべての医療従事者に対し、これら両ワクチンの接種を強く推奨している。
- 米国における最新の調査データによれば、医療従事者のインフルエンザワクチン接種率は76.3%、新型コロナワクチンは40.2%という結果が示された。
インフルエンザワクチン:接種率の推移と職種間格差
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- 2024年から2025年シーズンにおける医療従事者のインフルエンザワクチン接種率は、前シーズンの75.4%と比較して大きな変動はなく、安定した推移を見せている。
- 時系列データ(図1)では、パンデミック前の約80%という接種率と比較して、過去3シーズンは依然として低い水準で停滞していることがわかる。
- 職種別での解析では、薬剤師が94.6%、医師が92.6%と高い接種率を維持している一方、看護師は79.8%、助手や補助者は69.0%に留まっている。
- また、病院勤務者の接種率が88.3%と高い一方で、長期療養施設では70.5%と、勤務環境によって15ポイント以上の開きがあることを示している(図1)。
- 年齢層別では、60歳以上の層が79.3%と最も高い接種率を示したが、18歳から29歳の若年層では73.2%となっており、世代間での意識の差が観察された。
- 人種および民族別では、非ヒスパニック系のアジア人が89.2%と最も高く、黒人またはアフリカ系アメリカ人の76.5%と比較して有意な差が認められた。
- 教育水準も接種率に影響を与えており、修士号や博士号を持つ層の接種率が81.7%であったのに対し、一部の大学教育以下の層では66.6%に留まっている。
- 地域による格差も存在し、米国の北東部では79.6%の接種率であったが、西部では72.6%と、地理的な要因が接種行動に影響を与えている可能性が示唆された。

新型コロナワクチン:前シーズンからの有意な向上と背景
- 2024年から2025年シーズンの新型コロナワクチン接種率は40.2%であり、前シーズンの31.3%から約9ポイントの有意な上昇を記録した。
- この接種率の向上は、ワクチンの提供開始が前年より1ヶ月早い8月に行われたことで、職域での接種機会や広報活動が早期に実施されたことが一因と考えられている。
- 長期療養施設やホームケアに従事する者の接種率は44.5%であり、インフルエンザとは対照的に、他の勤務設定と比較して最も高い数値を示したことは興味深い。
- 職種別では、医師と助手・補助者がともに46.7%と最も高い接種率を示しており、助手層において前年から19.0ポイントもの劇的な改善が見られた。
- 人種別では、非ヒスパニック系の黒人またはアフリカ系アメリカ人の接種率が47.5%に達し、前年の29.7%から大幅な上昇を見せた。
- 都市部で働く医療従事者の接種率は41.7%であったのに対し、農村部では30.3%と有意に低く、地域による情報やアクセスの格差が課題として残っている。
- 性別による差異はほとんど見られず、女性の接種率が40.1%、男性が40.6%と、新型コロナワクチンに対しては性別を問わず一定の関心が払われている。
- 教育背景の影響も顕著であり、高度な専門教育を受けた層の接種率は47.3%であったが、教育年数が短い層では36.2%まで低下する傾向が見られた。
[現場での対策:職場の介入がもたらす劇的な効果
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- 雇用主が接種を義務付けている場合、インフルエンザの接種率は97.3%に達し、義務化が最も強力な接種促進要因であることがデータから裏付けられた
- 雇用主による「義務」と「推奨」の効果の比較では、何の指示もない場合の42.6%に対し、推奨があるだけで73.9%まで向上することを示した(図2A)。
- 新型コロナワクチンにおいても同様の傾向が見られ、義務化されている職場での接種率は82.8%に達する一方、何の指示もない職場では19.1%まで激減する。
- 義務化が困難な組織であっても、職場でワクチンを直接提供する「オンサイト接種」を行うことで、スタッフの利便性が向上し、接種率が底上げされることを示している(図2B)。
- 職場でインフルエンザのオンサイト接種が提供されている場合、接種を義務付けていなくても73.0%のスタッフが接種を受けており、物理的な障壁の除去が極めて有効である。
- 逆に、雇用主が接種を義務付けず、かつオンサイトでの提供も行わない環境では、インフルエンザの接種率は41.4%、新型コロナは19.8%という極めて低い水準に留まった。
- インフルエンザワクチンの接種を受けた医療従事者の約半数が新型コロナワクチンも同時に接種しており、両ワクチンの接種機会を合わせる戦略が、全体のカバー率向上に寄与する。

結論
- インフルエンザ や新型コロナウイルスによる健康被害は依然として甚大であり、医療従事者の接種率の低さは、本人だけでなく患者への感染リスクを増大させている。
- 単なる接種関連の周知に留まらず、スタッフが勤務時間中に容易に接種を受けられるような体制、すなわちオンサイト接種の整備を最優先すべきである。
- 特に、接種率が相対的に低い看護助手や農村部のスタッフに対しては、ワクチンの安全性や必要性に関するエビデンスに基づいた丁寧な教育と、不安を解消するための対話が求められる。
- インフルエンザと新型コロナウイルスの両ワクチンの供給時期を同期させ、一度の機会で複数の呼吸器ウイルス対策を完了させるような、効率的なワクチン供給プログラムの設計が推奨される。
文献
- Meghani M et al. Influenza and COVID-19 Vaccination Coverage Among Health Care Personnel — United States 2024–25 Respiratory Virus Season
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/75/wr/pdfs/mm7512a2-H.pdf
矢野 邦夫
浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問







