米国は結核の低蔓延国であるが、大規模アウトブレイクは依然として発生している。CDCは2017年から2023年のデータを分析し、50件の大規模事例を特定した。その詳細が記載されているので紹介する1)。
大規模アウトブレイクの定義と監視手法
- CDCは、3年間に10例以上の疫学的または遺伝的に関連する結核症例が発生した場合を大規模アウトブレイクと定義し、2014年から全国的な監視を開始している。
- 症例が伝播により関連していると見なされるのは、分離された結核菌の全ゲノム解析において、SNP(一塩基多型)の差が5個以下である場合である。
- 培養確認が得られずゲノムデータが利用できない症例については、感染可能期間中に他のアウトブレイク関連症例との間で既知または蓋然性の高い疫学的リンクがある場合に分類される。
- 感染可能期間は症状発現または診断の3か月前から、適切な治療開始後2週間以上が経過し、微生物学的反応(喀痰塗抹のグレード低下など)が得られるまでと定義されている。
- 大規模アウトブレイクの終息は、遺伝的または疫学的に関連する症例が年間2例以下にとどまる期間が2年間継続することと定義されており、それまでは関連症例として集計される。
- 2018年以降、CDCは培養陽性の全結核症例から分離された菌株に対して、全ゲノム解析(WGS:Whole genome sequencing)をスポンサーとして実施しており、監視体制の大幅な強化を図っている。
- 全米結核監視システムは、患者の属性、臨床情報、社会的リスク要因に加えて、他症例との疫学的リンクに関する詳細なデータを収集し、包括的な分析を行っている。
アウトブレイクの発生状況と地理的分布
- 2017年から2023年の間に米国では50件の大規模アウトブレイクが特定された。これには計1,092例の症例が含まれており、これは同時期の全結核報告数の約1.7%に相当する。
- アウトブレイク1件あたりの症例数の中央値は18例である。最小で10例から最大で63例まで及んでおり、年間平均で7件(2例から11例の範囲)が新たに特定されている。
- 大規模アウトブレイクは米国の23州で報告されており、テキサス州が6件と最も多く、次いでジョージア州やミネソタ州などで複数のアウトブレイクが確認されている(図)。
- 23州のうち17州は、結核罹患率が人口10万人あたり2.6例という全国平均を下回る地域であり、低蔓延地域においても大規模アウトブレイクへの警戒が必要であることを示している。
- 外科的な骨移植に伴うアウトブレイク2件については、人から人への伝播ではなく、異なる予防・対応戦略を要するため、本報告の分析対象からは除外されている。

感染者の人口統計学的および社会的背景
- 大規模アウトブレイク関連症例の79%は米国生まれであり、これは同時期のその他の結核症例における米国生まれの割合(26%)と比較して顕著に高いという特徴がある(79%vs26%)。
- 年齢層別では15歳未満(15%vs3%)および25歳から44歳(40%vs29%)の割合が高く、一方で65歳以上の高齢者(8%vs26%)の割合はその他の症例よりも低い傾向にあった。
- 人種・民族別では、米国生まれの非ヒスパニック系黒人が42%を占め、次いで非ヒスパニック系のアメリカ先住民またはアラスカ先住民が11%と、アウトブレイクにおいて高い割合を示している。
- 社会的リスク要因として、過去1年以内の薬物使用(27%vs12%)、ホームレス状態(9%vs5%)、および診断時の矯正施設収容(11%vs3%)が、アウトブレイク関連症例でより頻繁に認められた。
- 矯正施設での収容者の内訳を見ると、州立刑務所(73%)や地方拘置所(25%)でのアウトブレイクが多く、連邦刑務所での症例報告は認められなかったことが特徴的である。
- 臨床的特徴において、HIV共感染率(5%vs4%)や免疫抑制状態、さらに治療完了率(92%vs94%)や薬剤耐性率などは、大規模アウトブレイク関連症例とその他の症例の間でほぼ同等であった。
伝播の場とネットワークの特性
- 50件の大規模アウトブレイクのうち、34件(68%)は主に家族や友人などの社会的ネットワークに関連しており、私的な住居や地域社会の集まりが主な伝播の場となっていた。
- 社会的ネットワークにおける伝播では、薬物使用を中心としたネットワークが8件(16%)含まれており、不安定な生活環境や政府への不信感などが接触者調査を困難にする要因となっている。
- 13件(26%)は集合施設に関連しており、その内訳は職場が5件、矯正施設が4件、高齢者施設が2件、大学およびホームレス施設が各1件であり、長時間の濃厚接触が伝播を促進したと考えられる。
- 職場でのアウトブレイクは集合施設関連の中で最も多く、施設管理者は定期的なスクリーニングやスタッフ教育など、実証済みの行政的な感染制御策を維持することが重要である。
接触者調査による早期発見の効果
- 大規模アウトブレイク関連症例の約27%にあたる292例が、保健部門による系統的な接触者調査を通じて特定されており、公衆衛生活動が二次感染の早期発見に大きく寄与している。
- 接触者調査で発見された症例は、症状による受診などで発見された症例と比較して、喀痰塗抹陽性や空洞形成といった高度感染性を示す臨床指標を持つ割合が有意に低かった(23%vs61%)。
- この臨床指標の差は、接触者調査によって患者が高度な感染力を持つ前の早期段階で診断・治療が開始されたことを示唆しており、さらなる感染伝播を未然に防ぐ効果があったと考えられる。
- 結核菌に曝露された接触者を特定し、潜在性結核感染症(LTBI:latent TB infection)を適切に治療して発症を阻止することは、伝播の連鎖を断ち切るために不可欠な公衆衛生上の戦略である。
臨床現場および公衆衛生における教訓
- 低蔓延地域であっても、大規模な結核アウトブレイクを迅速に検出して対応するための公衆衛生能力を維持することは、結核の蔓延を抑え込むための継続的な課題である。
- ホームレスや薬物使用に関連する診断・治療の障壁を克服するためには、モバイル検査の実施や短期間の治療レジメンの採用、さらには交通や住宅支援などの支援策の活用が推奨される。
- 不信感や偏見が接触者の開示を妨げる場合があるため、地域の文化・宗教機関やサービス提供者と緊密なパートナーシップを形成し、影響を受けたコミュニティとの信頼を築く努力が求められる。
- 集合施設においては、感染性の結核患者を迅速に特定して隔離する手順を維持し、定期的なスクリーニングを継続することが、大規模アウトブレイクを未然に防ぐために重要である。
- 本報告の分析は主にゲノムデータに基づいているため、培養陰性例が多いアウトブレイクなどは過小評価されている可能性があり、実際の感染伝播の規模は症例数よりも大きい点に留意が必要である。
- LTBIは全国的な報告義務がないため、アウトブレイクに伴う実際の曝露者数や感染者数は、本報告に記載された症例数をはるかに上回っていると推測される。
[註釈]
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文献
- Raz KM, et al. Large tuberculosis outbreaks ̶ United States, 2017‒2023
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/75/wr/pdfs/mm7516a1-H.pdf
矢野 邦夫
浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問







