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175号 別荘の個人用温水浴槽に関連したレジオネラ症の発生
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2024年10月、ニューヨーク州で短期休暇用賃貸別荘のホットタブ使用に関連したレジオネラ症が発生した。CDCが詳細を報告しているので紹介する1)

疫学調査

  • 2024年10月中旬、ニューヨーク州保健局(NYSDOH)は、州西部のある郡(郡A)においてレジオネラ症の報告数が増加しているとの通知を受けた。特定の市内(市A)に居住する5人の患者が尿中抗原検査で陽性となり、直近での Legionella pneumophila serogroup 1への曝露が強く疑われた。
  • この郡では2022年から2024年にかけての年間平均症例数は22件であったが、短期間に5人が発症したことは異常な事態であった。地元保健局の疫学担当者が、CDCの基準に基づいた標準症例報告フォームを用いてこれら5人の患者に聞き取り調査を実施し、共通の曝露源がないかどうかの特定を試みた。
  • 調査の結果、5人のうち2人(患者Aと患者B)が家族であり、10月初旬に市Aから南に40マイル離れた別の市(市B)にある短期休暇用賃貸別荘に数日間共に宿泊していたことが判明した。これら2人は滞在中に、別荘内に備え付けられていたホットタブ、サウナ、シャワーを使用していた。
  • NYSDOHはこの賃貸別荘を発生源候補として特定し、さらなる感染拡大の防止、追加症例の発見、潜在的な曝露源の調査を開始した。

臨床経過と症例定義(表1)

  • 本調査における確定症例は「2024年10月に当該別荘への宿泊歴があり、臨床症状を呈した上で尿中抗原検査または培養で陽性となった者」と定義された。家族である患者Aと患者Bは、いずれも咳嗽、発熱、悪寒の症状を呈しており、別荘利用後の10月第1週に発症した。
  • 68歳の患者Aは、高血圧や心血管疾患などの基礎疾患を抱えていたこともあり、重症化した。入院治療が行われ、抗菌薬の投与とともに侵襲的人工呼吸器管理を必要とした。最終的に生存したが、入院期間は長期にわたった。一方、33歳の患者Bは比較的軽症であり入院を必要としなかった。
  • 患者Bは救急外来を受診して抗菌薬の処方を受けたが、臨床検体は採取されなかった。患者Aからは喀痰検体が採取され、民間検査機関での初期培養検査では陰性であったが、NYSDOHは検体を公衆衛生研究所であるワズワースセンターへ転送し、より感度の高い手法を用いた詳細な再検査を依頼した。
  • 別荘に関連した患者AとBのほか、患者C(48歳)、D(94歳)、E(72歳)も調査された。患者Cでは職業曝露、患者Eではホテル宿泊歴や個人宅ホットタブ利用が考えられた。全ゲノム解析の結果、今回の賃貸別荘との関連は認められず、個別の症例または別クラスターとして扱われた。
  • 過去および将来の症例曝露履歴を遡及的・前向きに確認したが、この賃貸別荘に関連する追加症例は特定されなかった。なお、同時期にさらに5人の客がこの別荘に滞在しホットタブを使用した可能性が判明したが、彼らに症状は認められなかったため、インタビューや詳細な調査の対象外とされた。

表1 同一の休暇用賃貸別荘でホットタブを使用した2人を含む、レジオネラ症(尿抗原検査で確定)の患者5人の年齢、発症月、曝露歴、検査結果~ニューヨーク州、2024年

環境健康調査と検体採取

  • レジオネラ症は以前からホットタブの使用との関連が指摘されているため、NYSDOHは当該別荘の環境調査を実施した。合計8件の検体が採取され、その内訳はシンクとシャワーの飲用水システムから5検体、ホットタブ表面の拭い液2検体、ホットタブの浴槽から直接採取した非飲用水1検体である。
  • 別荘の飲用水システムは私設の井戸によって供給されていた。NYSDOHの職員が現場を訪問するスケジュールが決まった直後の晩に、別荘の管理者が大量の液体塩素漂白剤を使用して井戸を消毒したことが判明した。この行為は環境中の菌を死滅させる可能性があるため、調査に大きな影響を及ぼすことが懸念された。

実験室分析の結果と評価( 表2 )

  • 分析の結果、ホットタブから採取された3つの検体すべてから Legionella pneumophilaが検出された。一方で、前夜の過剰な塩素消毒の影響もあり、飲用水システム(シンクやシャワー)からの5つの検体からは菌は検出されなかった。
  • 標準培養法においても、ホットタブの空気と水の界面の拭い液検体から3,700 CFU/mLの菌が確認され、清掃・消毒が不十分なホットタブが感染源であったことを支持する結果であった。

表2 レジオネラ症の2症例に関連した休暇用賃貸別荘から採取された検体の採取場所、種類、検査結果~ニューヨーク州、 2024年

全ゲノム解析による関連性の証明

  • ワズワースセンターにおいて、患者Aから分離された臨床株とホットタブからの環境分離株の全ゲノム解析(WGS)が行われた。当初の民間検査では陰性だった患者Aの喀痰検体から、公衆衛生研究所が高度な技術を用いてLegionella pneumophila serogroup 1を分離した。
  • WGSによる比較分析の結果、ホットタブ由来の分離株と患者Aの臨床分離株との間の一塩基多型(SNP)の差はわずか2から3個であった。これは両者が遺伝的に極めて近い関係にあることを示しており、疫学的な調査結果と合わせることで、当該別荘のホットタブが今回の感染源である可能性が極めて高いことが示された。
  • 本事例では、抗菌薬投与前に臨床検体を採取することの重要性が改めて示された。患者Aは入院後に抗菌薬治療を受けていたが、それでもなお培養に成功した。一方、患者Bのように軽症で検体が採取されないケースでは、WGSによる確定は困難であり、臨床現場における適切な検体採取の重要性が再認識された。
  • WGSは、従来の検査法では困難だった感染源の特定を極めて高い精度で実現する。過去数年間においても、NYSDOHはホットタブに関連したレジオネラ症の症例を環境検体と遺伝的に一致させることに成功しており、WGSは感染源特定に有用な手法である。

公衆衛生上の対応と法的措置

  • 環境調査の結果を受け、NYSDOHは所有者に対し、専門家による清掃が完了し再検査で菌が不検出となるまでホットタブの使用を停止するよう勧告した。また、CDCが提供しているホットタブの運用、消毒、改善に関するガイドラインを提供し、不適切な維持管理がもたらす健康リスクについて強く指導した。
  • しかし、所有者は当局の勧告に従わず、専門業者を雇用しないまま独自に清掃を実施し、未承認の検査法で陰性を確認したとして、約4週間後にホットタブの運用を再開した。
  • 所有者が改善に応じないため、地元保健局はエリー郡衛生法に基づき、当該ホットタブを公衆衛生上の危害であると認定した。保健局長による命令が発付され、安全が確認されるまでの法的拘束力を持った閉鎖が命じられるという強硬な措置が取られた。
  • 法的介入の結果、所有者は専門業者を雇用し適切な清掃を実施した。その後、保健局職員による2回の連続した追跡サンプリングが行われ、菌が検出されないことが確認された。2025年3月31日に閉鎖命令は解除され、所有者は専門業者による週1回の定期メンテナンスを継続することに同意した。

考察

  • ホットタブは38度から40度の温度を維持するように設計されており、これは Legionella属菌の増殖に最適な範囲である。また、この温度域では消毒薬の分解が加速されるため、厳密な管理が不可欠である。短期休暇用賃貸別荘は商業施設のような規制の対象外であることが多く、管理不備が起こりやすい。
  • CDCのデータによれば、レジオネラ症患者の7人に1人が宿泊施設滞在を報告しており、そのうち約半数がホットタブを使用している。特に個人所有の賃貸別荘における設備は、公衆衛生上の規制対象外となっていることが多い。今回の事例のように、所有者の不適切な管理や行政対応への非協力が問題を長期化させるリスクもある。
  • レジオネラ症患者の病歴聴取において、一般的なホテルのみならず、民泊や民間のコテージなどの短期賃貸別荘への宿泊歴、およびそこでのホットタブ使用を詳細に確認すべきである。特に基礎疾患を持つハイリスク群に対しては、不確実な管理下の設備使用のリスクを啓発する必要がある。

文献

  1. Morse M, et al. Legionnaires Disease Associated with a Private-Use Hot Tub in a Vacation Rental Property ̶ New York, October 2024‒April 2025
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/75/wr/pdfs/mm7522a1-H.pdf

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問