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177号 侵襲性真菌症に対する積極的監視
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CDCが2020年から2024年にかけて米国アトランタの4つの病院で実施された、侵襲性真菌症の積極的監視の結果を報告しているので紹介する1)。

侵襲性真菌症の監視の重要性

  • 侵襲性真菌症は免疫不全患者に主に発生する稀だが生命を脅かす感染症であり、主な原因真菌としてAspergillus属、Mucorales目、Fusarium属、Scedosporium属が挙げられる。
  • 侵襲性真菌症は組織を侵食し、肺や副鼻腔、皮膚、中枢神経系など複数の部位に深刻なダメージを与えるため、早期の診断と適切な治療介入が患者の救命において極めて重要である。
  • 本疾患は環境中の胞子の吸入や、汚染された医療器具、リネン類、医療製品への曝露を通じて発生し、散発的な発生だけでなく医療現場でのアウトブレイクの原因となることもある。
  • 侵襲性真菌症の背景となる発生率は十分に定義されていないため、散発的な症例と医療関連のクラスターを区別し、共通の感染源の調査を開始するタイミングを判断することは臨床現場において困難である。
  • CDCはアトランタの4つの病院を対象に、真菌培養陽性またはアスペルギルス・ガラクトマンナン検査陽性を指標とした検査室ベースの積極的監視を2020年から2024年にかけて実施した。

監視システムと症例分類の定義

  • 症例の分類基準では、組織学的証拠に基づく確定例、臨床因子と宿主因子の両方を満たす可能性例、臨床的診断に基づく監視例に分けられている(図1)。
  • 「確定例」(proven case)は針生検などで得られた検体の組織学的検査での菌糸の確認や、通常は無菌的な部位からの培養陽性、あるいは症状を伴う患者の血液培養からの真菌の検出によって定義される。
  • 「可能性例」(probable case)は確定例の基準は満たさないが、好中球減少症や血液腫瘍、移植歴などの宿主因子と、CT画像での特徴的な病変や内視鏡検査での潰瘍形成などの臨床的因子の両方を備えた症例と定義される。
  • 「監視例」(surveillance case)は確定例や可能性例の基準を満たさない場合でも、主治医が侵襲性真菌症と診断して抗真菌薬治療を開始した症例、または検体採取から3日以内に死亡した症例を幅広く含める定義となっている。
  • 968人の潜在的症例のうち46%が侵襲性真菌症と分類され、その内訳は確定例が20%、可能性例が32%、監視例が49%であった(図2)。

図1 侵襲性真菌症の確定例、疑い例、監視例を特定するための基準―ジョージア州アトランタの4つの病院、2020~2024年

図2 侵襲性真菌症の症例分類―ジョージア州アトランタの4つの病院、2020年~2024年

疫学的特徴と病原体の分布

  • 侵襲性真菌症患者の年齢層は45歳から64歳が43%と最も多く、次いで65歳以上が39%を占めており、18歳以下の小児例は全体の1%未満と極めて稀であった。
  • 性別では患者の約3分の2にあたる65%が男性であり、人種別では白人が46%、黒人またはアフリカ系アメリカ人が39%を占めている。
  • 感染部位は肺が68%と最も一般的であり、次いで皮膚や深部組織が11%、副鼻腔や鼻腔が10%、中枢神経系が9%の順で発生している。
  • 同定された菌種ではAspergillus属が71%と圧倒的に多く、その中でもAspergillus fumigatusが21%を占めており、肺感染症との強い関連が認められた。
  • その他の菌種ではFusarium属が4%、Mucorales目が4%、Scedosporium属が3%と同定されており、病原体によって好発する感染部位が異なる傾向がある。

宿主リスク因子と臨床的な背景

  • 侵襲性真菌症患者の65%には好中球減少や血液腫瘍などの宿主因子が認められたが、残りの35%は古典的なリスク因子を持たない患者であり、監視の必要性が強調された。
  • 具体的なリスク因子としては、血液腫瘍が22%、固形臓器移植歴が27%、30日以内の好中球減少が14%の患者で認められており、これらは非症例群と比較して有意に高かった。
  • 免疫抑制薬の使用も重要な因子であり、症例の59%がステロイドの長期投与、細胞毒性化学療法、移植後の免疫抑制薬、生物学的製剤などの何らかの免疫抑制治療を受けていた。
  • 宿主因子には含まれないが、重度の火傷を負った患者においても侵襲性真菌症の発生が認められており、特に監視例として分類される症例の中で11%と高い割合を示した。
  • 血液透析を必要とする末期腎不全や肝硬変も、非症例群と比較して症例群で有意に多く認められた基礎疾患であり、これらの患者背景を持つ場合も真菌感染症の可能性を考慮すべきである。

COVID-19合併例における重症度と転帰

  • 侵襲性真菌症患者のうち13%にあたる58人が、検体採取の90日前から当日までの間にCOVID-19の診断を受けており、パンデミックの影響が監視データにも反映されている。
  • 2021年にはCOVID-19合併例が23%とピークに達したが、2024年には5%まで低下した(図3)。
  • COVID-19合併例ではAspergillus属が原因真菌の83%を占めており、これはCOVID-19関連肺アスペルギルス症として知られる重篤な合併症の存在を裏付ける結果となっている。
  • COVID-19を合併した真菌症患者は非合併例と比較して重症度が高く、検体採取前2週間以内のICU入室率は66%に達し、死亡率も有意に高いことが示された。
  • また、COVID-19合併例では7日以上のステロイド高用量投与を受けている割合が43%と、非合併例の25%と比較して有意に高く、治療に伴う免疫抑制がリスクを増大させた可能性がある。

図3 侵襲性真菌症の症例数:(A)症例ステータス別、(B)侵襲性真菌症の症例定義別、(C)COVID-19罹患状況別―ジョージア州アトランタの4つの病院、2020~2024年

治療選択と臨床予後

  • 侵襲性真菌症と診断された患者の81%が抗真菌薬による治療を受けており、使用された薬剤はisavuconazoleが40%と最も多かった。
  • その他の治療薬としては、voriconazoleが32%、amphotericin Bが21%、エキノキャンディン系薬剤が18%の患者で使用されており、複数の薬剤を併用するケースも33%認められた。
  • 侵襲性真菌症患者の臨床予後は極めて厳しく、50%の患者が侵襲的人工呼吸管理を必要とし、43%が診断前の2週間以内にICUでの治療を受けていた。
  • 90日全死因死亡率は45%と非常に高い水準にあり、特にCOVID-19合併例では66%にまで上昇することから、この感染症が極めて致命的であることを臨床医は再認識すべきである。
  • 監視例として分類された症例の中には、抗真菌薬による治療が開始される前の検体採取から3日以内に死亡した患者が8%含まれており、疾患の進行が極めて速い場合があることを示している。

現場での判断に向けた提言

  • 本報告は、侵襲性真菌症が依然としてICU入室や高い致死率と密接に関連する深刻な感染症であることを再確認させるものであり、早期の警戒と診断が必要である。
  • 古典的なリスク因子を持たない患者が症例の3分の1以上を占めている事実は重要であり、典型的な免疫不全がないからといって真菌症の可能性を否定してはならない。
  • 医療現場でのアウトブレイクを迅速に検知するためには、各施設における侵襲性真菌症のベースライン発生率を把握し、わずかな症例数の増加に対しても敏感に反応できる体制を整える必要がある。
  • 迅速かつ感度の高い診断テストの開発と実装、および新しい抗真菌薬の最適化された治療プロトコルの確立が、今後の侵襲性真菌症の管理を改善するために不可欠である。

 

文献

  1. Sajewski ET, et al. Active surveillance for invasive mold disease ̶ Four hospitals, Atlanta, Georgia, 2020‒2024
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/75/ss/pdfs/ss7505a1-H.pdf

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問