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178号 SNS経由で寄付された母乳による乳児のHIV曝露事例調査
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米国サンタクララ郡で、SNS経由の寄付母乳による乳児の潜在的HIV曝露が発生し、詳細な調査が実施された。それをCDCが報告しているので紹介する1)。

概要および背景

  • 米国カリフォルニア州サンタクララ郡保健局は、SNSのグループを通じて寄付された母乳を介した乳児の潜在的HIV曝露に関する疫学調査を実施した。
  • 米国保健福祉省の周産期HIV臨床ガイドラインでは、HIVウイルス量が50 copies/mLを超える母親に対して、HIV伝播リスクを考慮し授乳を行わないよう推奨している。また、曝露された小児に対しては、授乳中止直後、14~21日後、4~6週間後、および授乳中止から4~6ヶ月後にHIV検査を実施することが推奨されている。
  • 抗レトロウイルス療法を受け、持続的に検出限界未満のウイルス量を維持している母親からの授乳によるHIV伝播リスクは1%未満であることが知られている。

発端症例の経緯および臨床経過

  • 2025年10月17日、サンタクララ郡保健局は妊婦健診スクリーニング(10月10日実施)でHIV陽性結果を受けた女性(妊娠15週4日)についての通知を受けた。
  • 当該女性は、当時2歳の長女への授乳を継続しており、さらに2つのSNSグループを通じて母乳の寄付を行っていると申告した。
  • 過去の検査歴として、長女の出産前である2023年8月8日の妊婦健診におけるHIV検査結果は陰性であった。
  • 治療開始前(2025年10月27日時点)の女性のHIVウイルス量は119,000 copies/mLであった。
  • 2025年10月30日に抗レトロウイルス療法を開始し、授乳を中止するようカウンセリングを受けた。
  • 長女は2025年10月31日より曝露後予防を開始し、2025年11月3日および2026年1月13日に実施されたHIV RNA PCR検査において陰性が確認された。

接触者調査および疫学手法

  • サンタクララ郡保健局は以下の3点を目的として疫学調査を開始した:
    1. 母親および長女を確実に医療ケアへ接続する。
    2. 寄付母乳に曝露した接触者を特定し検査を実施する。
    3. 曝露した小児の保護者へ健康教育を提供する。
  • 女性は2025年5月~10月の期間、SNSグループ上で母乳寄付のオファーを投稿していた。
  • グループ管理者によりグループ内での全体周知メッセージの投稿が制限されたため、調査員は保健局名を明記した個別の新規プロフィールを用いたダイレクトメッセージ、電子カルテ検索、および公衆衛生データベース検索を組み合わせて接触者を追跡した。照合には氏名、電話番号、生年月日、SNS上の写真などが用いられた。
  • 母親からの申告により特定された1家族と、SNS上の投稿反応から特定された4家族の計5家族(ハイリスクの乳児5人)が特定され、すべての保護者に接触が行われた。
  • 調査員は保護者に対し、保管されている未消費の冷凍寄付母乳の授乳を停止するよう指導し、乳児のHIV検査受診を促すとともに、認可ミルクバンクによる安全な加熱殺菌済み母乳の利用に関する教育を実施した。

母乳および乳児の検査結果と転帰

  • 接触した5家族のうち1家族は、譲り受けた母乳を冷凍保存したまま一度も使用していなかった。
  • この未使用母乳に対してHIV酵素免疫測定法(EIA)およびRNA PCR検査を実施した結果、HIV抗体陽性および低レベルのウイルス(<30 copies/mL)が検出された。母体が血清陽性であることから母乳中のHIV抗体検出は予想される結果であり、これ単独で感染性ウイルスの存在や伝播リスクを確定するものではない。
  • 残り4人の乳児については、寄付母乳を実際に摂取したかどうかの確認は不可能であったが、4人全員のHIV検査結果は陰性であった。最終的に、寄付母乳を介したHIV伝播の証拠は特定されなかった。

調査における課題

  • 調査の過程において、調査員は以下の課題に直面した:
    1. 非公開のSNSグループへの参加承認を得ることが困難であった。
    2. 連絡を受けた保護者からの懐疑的な反応(メッセージの真実性や正規性に対する疑念)があった。
    3. グループ管理者によって、SNSグループ内での母乳共有に伴う安全リスクに関する情報告知の投稿が制限された。

公衆衛生上の示唆および提言

  • 規制のない不適切な方法による非公式な母乳共有には以下のリスクが存在するため、患者および市民に対する教育が必要である:
    o 母乳提供者からのウイルス感染リスク
    o 不適切な保存や取り扱いによる細菌汚染リスク
    o 処方薬・非処方薬を含む物質の乳児への移行・曝露リスク
  • 母乳分泌が不十分な女性に対しては、ドナーの感染症・薬物使用歴のスクリーニングおよび加熱殺菌を実施している認可ミルクバンク(例:北米 母乳バンク協会等) を通じて、安全なドナー母乳を入手することが推奨される。
  • 疫学調査員がSNSグループ内で公式・検証済みのプロフィールを用いて 調査を実施できるよう、SNSを活用した疾病調査手法に関する追加トレーニングが必要である。

文献

  1. Løchen A, et al. Potential Infant HIV Exposure from Donated Breast Milk Received Through Social Media ̶ Santa Clara County, California, May 2025‒January 2026
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/75/wr/pdfs/mm7531a2-H.pdf

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問