ケンエー海外論文 Pickup
2019年10月

Br J Anaesth 2018;120(1):117-126

vol.34 酸素補充と手術部位感染:交互介入対照試験

Supplemental oxygen and surgical-site infections: an alternating intervention controlled trial. Kurz A, Kopyeva T, Suliman I, Podolyak A, You J, Lewis B, Vlah C, Khatib R, Keebler A, Reigert R, Seuffert M, Muzie L, Drahuschak S, Gorgun E, Stocchi L, Turan A and Sessler DI.

背景

細菌感染症に対する主な防御は、好中球による酸化殺滅であるが、それには創組織における分子の酸素を必要とする。高濃度吸気酸素分圧は組織の酸素化を促進する。しかし、組織の酸素化が実際にSSIを減少させるかどうかは議論のあるところである。そこで我々は、酸素補充(30%に対して80%)が術後30日以内の深部組織あるいは臓器体腔SSI・創傷治癒関連合併症・死亡を合わせたリスクを減少させるという仮説を検証した。

方法

隔絶された手術室群において、39ヶ月の間2週間ごとに吸入酸素濃度を30%と80%の間で変更を繰り返した。解析は最低2時間以上を要した消化管手術を受けた患者に限定して実施した。結腸直腸切除2843件、下部消化管治療手技1866件、小腸切除373件、その他の結腸直腸手技667件の合計5749件を解析した。

結果

患者背景、基礎疾患、手技的変数の全てにおいて80%群と30%群は均質であった。酸素介入は主要アウトカムおよびその要素のいずれに対しても影響を与えなかった。主要アウトカムの発生頻度は80%酸素群で10.8%(314/2896)、30%酸素群で11.0%(314/2853)であった。30%群に対する80%群の推定相対リスクは0.99(95%信頼区間:0.85-1.14、p=0.85)であった。ケンエー海外論文Pickup vol.34_page-00011

結論

酸素補充は消化管手術において主要な感染症および創傷治癒関連合併症を防止しなかった。

監修者コメント

アメリカ・オハイオ州のCleveland Clinicで行われた、周術期の麻酔管理に伴う投与酸素濃度を30%と80%に分けてみた研究。手術室単位で2週間ごとに酸素濃度をローテーションし、2013年はじめから2016年はじめまで約3年間実施した。結果は、両群に有害事象の発生頻度の差を認めなかった。

著者らはこの課題に20年以上にわたり取り組んでおり、4件の臨床研究を実施している。2000年にNew England Journal of Medicineに掲載された研究では酸素補充の効果があった。しかし、近年実施した本研究ともう一つの研究では効果が無かった。その理由として、近年の様々なSSI対策により非介入群(30%酸素群)でも十分に低いSSI発生頻度を達成できている可能性を指摘している。

一方、本研究は表層切開創SSIを主要アウトカムに含めていない。それに関しては80%酸素群の方が30%酸素群よりも有意に少なかった(30%群に対する80%群の相対リスク0.80、95%信頼区間0.66-1.00、p=0.047)。この大規模研究から言えることは、酸素補充は表層切開創SSIを防ぐ効果を持つ、ということではないだろうか。理論的にも、酸素補充による組織の酸素化増強のメリットを最も大きく受けるのは、皮下組織の感染防護能力であると考える。

 

監修 森兼 啓太
山形大学医学部附属病院 検査部 部長・病院教授、感染制御部 部長