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vol.42 台湾におけるCOVID-19伝播動態の接触者追跡評価と発症前後の様々な曝露時期におけるリスク
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重要性

2019年コロナウイルス感染症(COVID-19)の伝播能力に関する動態は、未だ十分には理解されていない。効果的な制御方針の開発や評価に対して、伝播動態をより良く理解することは重要である。

目的

COVID-19の伝播動態を記述し、発症前後の様々な曝露時期における伝播リスクを評価すること。

デザイン、場所、対象者

台湾でのこの前向き症例確認研究には、検査確定COVID-19症例とその接触者が対象となった。全ての濃厚接触者は、初発例への最終曝露から14日、自宅隔離された。隔離期間中、接触者において有意な症状(発熱・咳・その他の気道症状)があればCOVID-19の検査を実施した。最終フォローアップ日は2020年4月2日であった。

主要アウトカムと方法

初発例に対する様々な曝露時間枠と異なった曝露状況(家庭内・家族・医療など)での二次的臨床的発症率(有症状の症例のみを考慮)。

結果

100人の確定患者を登録した。年齢中央値は44歳(範囲:11~88歳)、男性56名・女性44名であった。これらの患者に対する濃厚接触者2,761人のうち、22組の初発例と二次感染例が認められた。二次性臨床的発症率は0.7%(95%信頼区間[CI]:0.4-1.0%)であった。初発例への曝露が発症後5日までに開始した1,818人の接触者における発症率(1.0%、95%CI:0.6-1.6%)は、それ以降に曝露が開始した人の発症率(852人中発症者無し、95%CI:0.0-0.4%)より高かった。発症前の曝露のみであった299人の接触者も、発症のリスクがあった(発症率0.7%、95%CI:0.2-2.4%)。家庭内(4.6%、95%CI:2.3-9.3%)や非同居家族(5.3%、95%CI:2.1-12.8%)では、医療やその他の状況に比べて発症率が高かった。また、40~59歳(1.1%、95%CI:0.6-2.1%)や60歳以上(0.9%、95%CI:0.3-2.6%)は、それ以外の年齢に比べて発症率が高かった。

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結論と関連性

この研究によって示された、発症前や直後におけるCOVID-19の高い伝播能力は、有症状の患者のみを発見し隔離するだけでは流行を抑えるのに十分ではなく、社会的距離などの更に一般的な対策が必要かもしれないことを示唆している。

監修者コメント

前回紹介した研究と同様に、COVID-19は発症前に他人に感染させる能力を持つことが示されており、発症後の曝露が全く無かった299人の接触者のうち2人が感染している。本研究は更に、発症後何日頃まで感染性があるかという点について、患者が排出するウイルス量ではなく臨床的に検証している。その結果、最も遅くて発症から5日後までの曝露では伝播が発生しているが、発症日をゼロ日として6日以降にはじめて接触した800人以上の中からは1人も感染者が出ていない。

ウイルス学的研究によって、本疾患は発症前からウイルス量がそれなりに増加し、発症後数日でウイルス量が減っていくことが示されているが、本研究はその結果を臨床的にも裏付けるものとなっている。

発症する前に他人を感染させるCOVID-19の制御が非常に困難であることが改めて示された一方、発症後数日経つと感染性が非常に低くなる特徴を考えれば、現在日本が採用しているPCR検査2回陰性まで入院勧告または宿泊施設等での療養を義務づける対策が必須ではない可能性を示唆している。日本では、原稿執筆時点(5月22日)で第一波とも言える流行が終息しつつあるが、今後第二波がやってきた際の医療機関等の容量負荷軽減を考える上で、重要な知見を本論文は提示している。