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vol.45 大韓民国の市中治療センターにおけるSARS-CoV-2無症状・有症状患者の臨床経過と分子学的ウイルス排出
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研究の重要性

SARS-CoV-2に感染した無症状の患者における臨床経過とウイルス量に関する情報は限定的である。

目的

無症状・有症状の患者におけるSARS-CoV-2の分子学的ウイルス排出を量的に記述すること。

方法・場所・患者

2020年3月6日から3月26日までの間にSARS-CoV-2に感染した303人の有症状・無症状患者集団に対して、後ろ向き評価が行われた。研究参加者は、大韓民国の天安市にある市中治療センターに隔離された。

主要アウトカムと指標

疫学的・人口学的・検査室データが収集・解析された。患者の隔離中、現場の医療従事者は症状を注意深く観察した。個人を隔離から解放する判断は、上気道検体(鼻咽腔または口腔咽頭ぬぐい液)と下気道検体(喀痰)によるSARS-CoV-2への逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)の結果に基づいて行われた。この検査は隔離の8,9,15,16日目に実施された。10,17,18,19日目には、医師の判断で上気道・下気道検体のRT-PCR検査が実施された。無症状・有症状患者の双方においてSARS-CoV-2検出のRT-PCRにおけるサイクル閾値(Ct値)が測定された。

結果

SARS-CoV-2に感染した患者303人の患年齢中央値(四分位範囲)は25(22~36)歳であり、女性が201人(66.3%)であった。併存症を有する患者は12人(3.9%)で、高血圧10例、がん1例、喘息1例であった。患者303人のうち、193人(63.7%)は隔離時に症状があった。110人(36.3%)の無症状患者のうち、21人(19.1%)が隔離中に発症した。これらの患者におけるSARS-CoV-2検出から発症までの期間の中央値(四分位範囲)は15(13~20)日であった。

診断から14日目と21日目に陰性になった患者の割合は、無症状患者ではそれぞれ33.7%と75.2%、有症状患者(隔離中に発症した患者を含む)ではそれぞれ29.6%と69.9%であった。診断から最初に陰性となるまでの日数の中央値(標準誤差)は、無症状患者で17(1.07)日、有症状患者(隔離中に発症した患者を含む)で19.5(0.63)日であった(p=0.07)。下気道検体のエンベロープ遺伝子のCt値から、無症状患者における診断から退院までのウイルス量は、有症状患者(隔離中に発症した患者を含む)よりもゆっくり減少する傾向があることが示された(β=-0.065[標準誤差:0.023]、p=0.005)。

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結論と関連性

大韓民国の天安市にある市中治療センターで隔離されたSARS-CoV-2に感染した有症状・無症状患者に対するこのコホート研究において、無症状患者のCt値は有症状患者のCt値と同等であった。無症状患者を隔離することが、SARS-CoV-2の拡大を制御するために必要だろう。

監修者コメント

診断時点で無症状であった110人のうち89人、80%が最後まで無症状であり、しかもその隔離期間中に検出されるウイルス量は有症状者と同等であったという結果は、これまで新型コロナウイルス感染症に関して得られた知見と概ね一致する。この疾患の発症前、あるいは無症状の人が多くのウイルスを保有しており、発症した後ウイルス量は急速に減少していく。従って、接触者調査において無症状であってもウイルス陽性の人を見つけ、隔離することが流行制御において重要である。一方、遺伝子増幅検査の感度は、その実施時期(患者が有しているウイルス量)にもよるが、概ね70%程度と考えられ、この検査結果のみで隔離が必要な人を明確に決定することは困難である。接触者は極力、発症可能期間(接触後最大2週間)、他人と接しないことが望ましい。

また、診断時点で無症状であった110人のうち21人が発症しているが、診断から発症まで13~20日を要している。現在日本では、WHOの推奨に基づいて診断時点で無症状の人に対する隔離期間は10日となっている*が、社会における隔離期間としては不十分な可能性があり、期間終了後も自宅に留まることが強く求められよう。

* 感染症の予防及び患者に対する医療に関する法律における新型コロナウイルス感染症患者の退院及び就業制限の取扱いについて(2020年6月2日課長通知、2020年6月25日一部改正)