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vol.48 長距離フライトの間のSARS-CoV-2伝播
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要約

SARS-CoV-2のフライト中の伝播を評価するために、10時間の旅客便に搭乗した乗客に発生したクラスターを調査した。217人の乗客と乗務員をその最終目的地まで辿り、検査を行い、隔離した。SARS-CoV-2感染が判明した16人のうち、12人(75%)は、そのフライトで唯一の有症状者とともにビジネスクラスに搭乗していた。近い位置に着座していることが、感染リスクの情報と強い相関関係にあった(リスク比7.3、95%信頼区間1.2~46.2)。その他の伝播様態を支持する強い証拠を見いだすことができなかった。たった1人の有症状乗客から始まったフライト中の伝播は、長距離フライトの間に大きなクラスターを発生させた。航空旅客におけるSARS-CoV-2感染を防ぐガイドラインは、個々の乗客の感染リスク、乗客数、フライト時間を考慮する必要がある。

疫学調査

フライトは2020年3月1日のロンドンからベトナム・ハノイへの便であった。5Kに着座した27歳の乗客は2月29日に咽頭痛があり、フライトの当日にはそれに加えて熱感や咳も出現しており、フライト中はずっと咳をしていた。ハノイ到着後、3月5日に医療機関を受診し、検査の結果SARS-CoV-2感染が判明した。

3月10日までに、このフライトの乗客のうちベトナム国外に去ってしまった人を除き、乗務員全員(16人)と乗客の84%(168人)に対して調査が行われ、乗客14人と乗員1人がSARS-CoV-2陽性と判定された。乗客のうち12名は発端者と同じビジネスクラスを利用しており、残り2名は機体後方(23Hと24E)のエコノミークラスを利用していた。

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監修者コメント

発端者の症状は相当強かったと思われる。また、COVID-19流行による国際移動制限の少し前であり、搭乗率も高く274席中201席が埋まっていた。そのような状況のもと、発端者は前・斜め前・横・斜め後ろ2列の全員を感染させたと考えられる。トイレはビジネスクラスの前方と後方にあるため、前方の客はトイレを共有しなかったこと、および距離が離れていることで感染を免れたと考えられる。また通路はA列とD列の間と、G列とK列の間にあったため、発端者とA列の乗客は通路で出会うことも無いと思われる。

感染経路は、飛沫感染で概ね説明がつくが、5Aの乗客は発端者と数m離れていて飛沫感染は考えにくい。トイレで発端者と近接したか、またはトイレの環境などを介した接触感染の可能性も考えられる。一方、飛行機内の換気は非常に良好に設定されており、空気感染の可能性は低いと言えよう。

いずれにせよ、SARS-CoV-2の感染力の強さを印象づける事例であり、有症状者の搭乗前スクリーニング、および搭乗中のできる限り常時のマスク着用が、安全なフライトに不可欠であると言える。