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vol.37 待機的結腸手術における機械的・経口抗菌薬腸管前処置の実施と非実施の比較:多施設無作為化並列盲験
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背景

結腸手術において、腸管前処置の非実施(NBP)と比較して、機械的および経口抗菌薬による腸管前処置(MOABP)は手術部位感染(SSI)や合併症を低減させることが報告されている。それらのデータを根拠として、結腸切除を受ける患者に対してルーチンにMOACPを使用することを、いくつかの学会が推奨してきた。我々の目的は、前向き無作為化試験によってこの勧告の研究を行うことであった。

方法

この多施設無作為化単盲験において、フィンランドの4箇所の病院で結腸切除を受ける患者は、ウェブベースの無作為化方法を用いて無作為にMOABPかNBPに割り付けられた。試験組み入れ担当者・主治医・手術医・データ収集者および解析者は、割り付けられた治療法を知らされなかった。除外基準は、緊急手術・腸管閉塞・術中大腸内視鏡・ポリエチレングリコールやネオマイシンおよびメトロニダゾールに対するアレルギー・17歳以下または96歳以上であった。研究看護師は患者割り当て群の情報を入れた不透明な封筒を開封し、患者に対して割り当て群に応じて腸管前処置を行うか行わないかを指示した。MOABPに割り当てられた患者は、手術前日の午後6時に2Lのポリエチレングリコールと1Lの水分を飲み、午後7時にネオマイシン2g、午後11時にメトロニダゾール2gを内服することにより腸管前処置を行った。主要なアウトカムは、intention-to-treat群(ランダムに割り付けられ待機的で吻合を伴う結腸切除を実施された全ての患者)において解析された30日以内のSSIであり、安全性の解析も行われた。

結果

2016年3月17日から2018年8月20日までの間に、738人の患者が適格性を評価された。417人が無作為化され(209人がMOABP群、208人がNBP群)、そのうちMOABP群13人とNBP群8人が手術前に除外された。従って、intention-to-treat解析に含まれたのは396人(196人がMOABP群、200人がNBP群)であった。SSIは7%(13人)と11%(21人)に発生した(オッズ比1.65、95%信頼区間0.80-3.40; p=0.17)。腸管縫合不全は4%(7人)と4%(8人)に発生し、再手術は8%(16人)と7%(13人)に必要であった。30日以内にNBP群の2人が死亡し、MOABP群では死亡例はなかった。・ケ・晢スエ・ー豬キ螟冶ォ匁枚Pickup vol.37_page-0001

解釈

MOABPはNBPに比べて結腸切除後の全合併症を低減させない。従って我々は、SSIや合併症を低減させるための結腸切除に対するMOABPの使用に関する現在の推奨が再検討されるべきであることを提案する。

監修者コメント

結腸手術前の腸管前処置は、ポリエチレングリコールの大量内服による機械的な前処置と抗菌薬による前処置で構成される。手術の際に邪魔になる便を取り除き、また腸管内の細菌量を一時的に減少させることでSSIや縫合不全を防げるものと皆が考え、昔から習慣的に実施されてきた。しかし、機械的前処置・抗菌薬前処置の何れかのみ、あるいはどちらも行わないことと比較する研究が行われ、その有効性の評価が分かれてきた。特に、機械的・抗菌薬の前処置の組合せと、双方のいずれも行わないこと(無処置)を比較した大規模観察研究が2つ論文化されているが、無作為化試験は行われていない。本研究を実施した研究者たちは、観察研究に潜む前処置実施有無のバイアスを懸念し、本研究を企画実施した。各群200名ほどの手術症例を含めており、充分大規模と言えるであろう。結果はご覧のとおりであり、総合的に見て両者に差は無いという結果となった。ただよくみると、表層切開創SSIは両群で大きな差となっており、無処置群の方が明らかに高頻度である。著者らはこれについて、仮に無処置群において表層切開創SSIのリスクが上昇するとしても、軽微な合併症であり深刻ではなく、むしろ機械的前処置に伴う不快感をはじめとする身体的負担の方が重大であると述べている。