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vol.38 黄色ブドウ球菌を保菌している親に対する除菌治療が新生児集中治療室における新生児への伝播に及ぼす影響:無作為化臨床試験
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背景

黄色ブドウ球菌(SA)は新生児集中治療室(NICU)における医療関連感染(HAI)の主な起因菌である。新生児の侵襲的SA感染症の予測因子として、親が新生児にSAを曝露させることが良く知られている。本研究の目的は、ムピロシン軟膏とクロルヘキシジングルコン酸塩(CHG)による親の除菌治療が、親から新生児へのSA伝播を減少させるかどうかを検証することである。

方法・介入・アウトカム

アメリカ・メリーランド州ボルティモアの三次医療NICUの2施設において、二重盲検無作為化臨床試験が行われた。SAを保菌している親をもつ236人の新生児が研究対象となった。研究期間は2014年11月から2018年12月までであった。SA保菌の親は、ムピロシン軟膏による鼻腔除菌と2%CHG含浸クロスによる積極的除菌(介入)群と、ワセリンの鼻腔内塗布と石けんクロスによる偽薬(対照)群に割り当てられた。主要なアウトカムは、90日以内に新生児が親と同じ株のSAを保菌することであった。副次的アウトカムは、新生児のあらゆるSA株獲得と感染症であった。

結果

236人の新生児のうち、208人が解析に含まれ、そのうち18人がフォローアップから脱落した。残り190人のうち、90日以内に74人(38.9%)がSAを保菌獲得し、そのうち42人が親と同じSA株であった。介入群と対照群でそれぞれ89人中13人(14.6%)、101人中29人(28.7%)が親と同じ株のSAを獲得した(リスク相違:-14.1%[95%信頼区間(CI), -30.8%~-3.9%]。ハザード比:0.43[95%CI, 0.16~0.79])。介入群の28人(31.4%)と対照群の46人(45.5%)が何らかのSA株を獲得した(ハザード比:0.57[95%CI, 0.31~0.88])。kenei_Pick_up__vol.38.20軽_page-00011

結論

SAを保菌している親に対するムピロシン軟膏による鼻腔除菌とCHG含浸クロスによる清拭の介入は、対照群と比べて、親と同じSA株による新生児の保菌を有意に減少させた。しかし、この研究の一般化及び再現性に関して、更なる研究が必要である。

監修者コメント

新生児は無菌的環境で生まれ、主に両親(特に母親)から常在細菌叢を獲得すると考えられている。親がSAを保菌していれば、新生児も当然SAの保菌者となることが想定される。従って、親の除菌が新生児の保菌リスクを減少させる介入になりうることは、理論的にも妥当である。本研究は、それを実行し、その効果を明らかにした点で、非常に意義が大きい。