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vol.53 処置/手術前のCOVID-19スクリーニング分子診断検査を受けた患者における無症候性感染に対するCOVID-19ワクチンの効果
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背景

複数のワクチンがアメリカ合衆国の緊急使用承認のもとで実地利用可能となっており、症候性COVID-19を抑制する有効性が証明されている。しかし、無症候性SARS-CoV-2感染に対するワクチンの効果は概ね未知である。

方法

アメリカの大きな医療グループで2020年12月17日から2021年2月8日までの間に処置や手術前のSARS-CoV-2スクリーニング検査(48,333件)を受けた無症状の成人患者(39,156人)の後ろ向きコホート研究を実施した。主な介入は少なくとも1回のmRNA COVID-19ワクチン接種であった。主要アウトカムは、少なくとも1回のワクチン接種を受けた無症状の人が、同じ期間にワクチン接種を受けなかった人に比べて、SARS-CoV-2分子診断検査で陽性となる相対リスクであった。相対リスクは、年齢・性別・人種/民族・居住区域特性・医療グループ地域・反復検査で調整され、その調整には混合効果対数二項回帰を使用した。

結果

ワクチン接種を受けた人に対する3,006回の検査中、42回(1.4%)の陽性分子診断検査結果が報告された。一方、ワクチン接種を受けなかった人に対して実施された45,327回の検査中、1,436回(3.2%)が陽性であった(相対リスク[RR]=0.44, 95%信頼区間[CI]: 0.33~0.60; p<0.0001)。調整後の解析で、ワクチン接種を受けなかった人と比較したワクチン接種を受けた人における無症候性SARS-CoV-2感染のリスクは、1回目の接種から10日を超えた人で低く(RR=0.21, 95%CI: 0.12~0.37, p<0.0001)、2回目の接種翌日以降でも低かった(RR=0.20, 95%CI: 0.09~0.11, p<0.0001)。

結論

mRNAワクチンによるCOVID-19ワクチン接種は、処置/手術前のCOVID-19分子診断検査スクリーニングによって測定された無症候性SARS-CoV-2感染のリスク低減と有意な関連を示した。本研究の結果は、有症状の患者に関する無作為化比較試験の結果を補う、無症候性感染を低減させるワクチンの効果を証明している。

監訳者コメント

新型コロナワクチンの効果として、症候性感染を有意に予防することは明白であったが、無症候性感染を予防するかどうかは治験段階で明確でなかった。2020年12月以降、世界中で猛烈な勢いで接種が進んでおり、2021年4月下旬には10億回を超えた。それに伴って、ワクチンによる無症候性感染の予防に関する疫学研究が各地で行われている。無症候性感染は検査を行わないとわからないので、手法としては本研究のように入院前等のスクリーニングPCR検査を受ける患者などの集団を用いる方法と、英国のSIREN研究のように2週間ごとにPCR検査を受けてもらう臨床研究コホートを用いる方法などが考えられる。前者はワンポイントの検査に留まる点が不利であるが、研究実施がしやすい点で有利である。

本研究はアメリカのMayo Clinicおよびその関連施設で行われ、実臨床で行った入院や手術の前のスクリーニング分子診断検査を用いている。そして、大方の予想通り、mRNAワクチンが無症候性感染の防止にも有効であることが明らかになった。

この原稿を執筆中にも、英国のSIREN研究の結果が発表され、mRNAワクチン(英国では主にアデノウイルスベクターワクチンが使用されているが、SIREN研究のコホートは主にmRNAワクチンを接種している)の有効性が示されている。再び流行が拡大しつつある日本にとって、また多くの医療が必要な人を受け入れる医療機関にとって、ワクチンはまさに希望の光と言える。