ケンエー海外論文 Pickup

vol.55 屋内の多人数集合型ライブ音楽イベントにおける同日SARS-CoV-2抗原検査スクリーニング:無作為化比較試験
PDFファイルで見る

背景

SARS-CoV-2の感染拡大を防ぐため、屋内での集団集合イベントが禁止され、地域経済に重要な影響を与えている。イベント入場時の集団スクリーニングに抗原検出型迅速診断検査(Ag-RDT)が適しているというエビデンスが増加しているにもかかわらず、この戦略は制御された状況下で評価されていない。本研究では、屋内ライブコンサートにおける予防策の有効性を評価することを目的とした。

方法

Ag-RDTを用いた参加者の同日中の系統的なスクリーニング、マスクの使用、十分な換気を基本とした屋内集団集合イベント(ライブコンサート)に対する包括的な予防介入の有効性を評価するために、無作為化比較非盲検試験を計画した。このイベントはスペイン・バルセロナのSala Apoloで行われた。イベント入場直前に採取した鼻咽頭ぬぐい液からのAg-RDTが陰性であった18~59歳の成人を、屋内イベントに5時間参加するか、帰宅するかに1対1で無作為に割り付けた(年齢と性別で層別したブロック無作為化を実施)。Ag-RDTスクリーニングに使用された鼻咽頭検体は、リアルタイム逆転写酵素PCR(RT-PCR)および細胞培養(Vero E6細胞)により分析された。イベントの8日後には、鼻咽頭スワブを採取し、Ag-RDT、RT-PCR、および転写媒介増幅試験(TMA)によって分析した。主要評価項目は、対照群と介入群の間で、8日後にRT-PCRで確認されたSARS-CoV-2感染の発生率の差であり、無作為に割り付けられてイベントに参加しフォローアップ時にSARS-CoV-2検査の有効な結果が得られた参加者全員を対象に評価した。

結果

参加者の登録は、コンサート当日の2020年12月12日の午前中に行われた。呼びかけに応じ、適格と判断された1140人のうち、1047人を音楽イベントに参加する群(実験群)と通常の生活を続ける群(対照群)に無作為に割り付けた。実験群に無作為に割り付けられた523名のうち、465名が主要アウトカムの分析に含まれ(51名はイベントに参加せず、8名は追跡評価に参加しなかった)、対照群に無作為に割り付けられた524名のうち、495名が最終的な分析に含まれた(29名は追跡評価に参加しなかった)。ベースラインでは、対照群495人中15人(3%)、実験群465人中13人(2.8%)が、Ag-RDTの結果が陰性であったにもかかわらず、TMAで陽性となった。RT-PCR検査は各グループの1例で陽性となり、細胞ウイルス培養は全例で陰性であった。事象発生から8日後、対照群では2名(1%未満)がAg-RDTとRT-PCRの結果が陽性であったが、介入群ではAg-RDTもRT-PCRも陽性ではなかった。実験群と対照群の間の発生率のベイズ推定値はマイナス0.15%(95%信頼区間:マイナス0.72~プラス0.44)であった。

解釈

本研究では、COVID-19発生時に包括的な予防的介入を行った場合の、屋内での集団集合行事の安全性に関する予備的な証拠が得られた。このデータは、COVID-19発生時に停止した文化活動の再開に役立つ可能性があり、これは社会文化的および経済的に重要な意味を持つかもしれない。

訳者コメント

大規模集会の感染リスクは言うまでもないが、適切に管理することで経済活動を活性化しつつ感染リスクを最小限に抑えることが可能かどうかはよく判っていない。多くの大規模集会に関する研究は、実際に発生した集団発生の要因解析や、介入によって集団発生が起こらなかったというものであり、本研究は対照群を設定した無作為化比較試験である点がユニークである。会場に来場した観客にその場で抗原定性検査と核酸増幅検査を実施し、抗原定性検査陰性者を二つにわけて対照群と実験群としている。実験群は、900人収容の会場で行われた5時間のライブコンサートに参加し、N95マスクを常時着用し、バーで提供されるアルコールを飲む際は外すことが許可された。長時間ではあるがほぼ常時マスクを着用しており、感染リスクは比較的低いと思われる。こういった対策と入場前の検査によって、集団発生を防ぎ得て、かつコンサート後の感染発症リスクが市中の日常生活と同程度という状態になったものと思われる。些細な点で気になるのが、会場に来場し検査を受け陰性であったが、対照群に割り当てられ帰宅を指示された人たちの間で不満はなかったのか、という点ではある。