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vol.57 SARS-CoV-2感染の小児家庭内伝播と年齢の関係
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重要性

COVID-19パンデミックの初期には小児の症例数が少なかったため、SARS-CoV-2の小児の家庭内感染についてはあまり研究されていない。

目的

年少の小児による家庭内感染のオッズが年長の小児と比較して異なるかどうかを調べること。

デザイン、場所、参加者

この人口ベースのコホート研究は、2020年6月1日から12月31日の間に、カナダ・オンタリオ州で行われた。検査確定のSARS-CoV-2感染の発端者が18歳未満であった民間家庭を対象とした。住居の部屋番号情報がないアパートに住んでいる場合、発端者が複数いる場合、感染者の年齢が不明な場合は除外した。発端の小児の年齢層を、0~3歳、4~8歳、9~13歳、14~17歳に分類した。

主な結果と指標

小児の発端者の1~14日後に少なくとも1人の二次感染者が発生した家庭を、家庭内感染と定義した。

結果

合計6,280世帯で小児の発端者が発生し、そのうち1,717世帯(27.3%)で二次感染が発生した。小児発端者の平均年齢は10.7歳(標準偏差5.1歳)であり、2,863人(45.6%)が女児であった。0~3歳の小児は14~17歳の小児に比べて、家庭内接触者にSARS-CoV-2を感染させるオッズが最も高かった(オッズ比1.43、95%信頼区間[CI] 1.17~1.75)。この関連性は、二次感染者を発端者の2~14日後または4~14日後と定義し、発端者の症状・学校/保育園での集団発生・学校/保育園の再開の有無で層別化して分析しても、同様の傾向が見られた。4~8歳と9~13歳の小児も、14~17歳の小児に比べて感染のオッズが上昇していた(4~8歳:オッズ比1.40、95%CI 1.18~1.67、9~13歳:オッズ比1.13、95%CI 0.97-1.32)。

 

結論と関連性

この研究では、低年齢の小児が年長者に比べてSARS-CoV-2を感染させる可能性が高いことを示唆している。また、感染のオッズが最も高かったのは、0~3歳の小児であった。小児の年齢層による感染性の違いは、家庭内二次感染のリスクを最小化するために、家庭内だけでなく学校や保育園での感染予防に関して示唆を与えている。低年齢の小児の発端症例による感染のリスクを明らかにするためには、更なる集団ベースの研究が必要である。

訳者コメント

家庭内感染はコロナの主な感染伝播経路であるが、その実態に関する研究は必ずしも十分に行われていない。とりわけ、小児の感染事例が少ない状況においては、小児が発端者である家族内感染事例をある程度の数収集するのは至難の業である。本研究は、カナダの州単位で実施した研究であり、そのため症例数も大きくなっている。

著者らも考察している通り、0~3歳という年齢は親から離れることができず、更にマスクを着用することも困難であり、結果的に周囲の成人を感染させるリスクがかなり高いと言える。4~8歳も、0~3歳に近いオッズ比を示した。これらの結果はある程度予測されるものであるが、データで示したのはおそらくこの研究が初めてではないかと思われる。

この結果に基づき、何か対策が可能か、と言えば、それは容易ではなかろう。二次感染のリスクを持つ側が徹底した感染対策を実施するくらいしか考えられず、極力別室で過ごす、マスクを常時着用する、食事を一緒に摂らない、などがその例として挙げられよう。しかし、幼児の知育上、これらの対策は大きなデメリットになり得る。

2021年8月中旬現在、日本での流行株の大半がデルタ変異株に置き換わったと考えられる。当初、デルタ変異株に対してはBNT162b2(ファイザー/BioNTech製)、ChAdOx1(アストラゼネカ製)のいずれも有効であるとされたが、ワクチン接種から時間が経つと(6ヶ月程度以上)、ワクチンの有効性がかなり低下することも明らかになってきている。それに該当する親、あるいはそもそも接種を終えていない家族内の人員は、発端者が低年齢であるほど感染のリスクが高まることを十分に認識し、講じうる範囲で感染防止を実践するのが良いだろう。