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vol.58 デルタ変異株が優勢になる前とその最中に、第一線で働く労働者におけるSARS-CoV-2感染を防止するCOVID-19ワクチンの有効性~アメリカの8箇所、2020年12月から2021年8月
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要旨

2020年12月14日から2021年4月10日の間に、第一線で働く労働者を対象とした前向きコホートのネットワークであるHEROES-RECOVERコホートから得られたデータによると、COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2の症候性および無症候性感染を予防するために、Pfizer-BioNTechおよびModernaのmRNA COVID-19ワクチンが約90%の有効性を持つことが示された。本報告では、ワクチン効果(VE)の推定値を更新し、ワクチン接種を完了してからの時間が長くなるにつれて成人のVEが異なるかどうかを検証した。デルタ変異株が優勢となる前とその最中のVEを比較した。

アメリカ6州8拠点で医療従事者・救急隊員・その他の重要な現場作業者を対象に、毎週逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によるSARS-CoV-2の感染検査を行った。4,217名の参加者のうち、3,483名(83%)がワクチン接種を受け、ワクチンの種類別内訳は2,278名(65%)がPfizer-BioNTech製、1,138名(33%)がModerna製、67名(2%)がJanssen(Johnson & Johnson)製であった。Cox比例ハザードモデルを用いて、未接種者と推奨回数の接種を受けてから14日以上経過した者の感染率の比を算出し、職業、部位、地域のウイルスの流行を調整し、社会人口統計学的特性、健康情報、密接な社会的接触の頻度、マスクの使用を用いて、ワクチン接種の逆確率で加重した。

35週間の試験期間中、感染既往のない4,136人の参加者が、中央値で1人あたり20日(四分位範囲[IQR]=8~45日)のワクチン未接種日数を記録し、その間に194件のSARS-CoV-2感染が確認された(89.7%が有症状)。2,976人の参加者は、中央値で177日(IQR = 115~195日)のワクチン接種完了後期間を有し、その間に34件の感染が確認された(80.6%が有症状)。SARS-CoV-2感染に対する調整後のVEは80%(95%信頼区間[CI]=69%~88%)であった。VEの点推定値は、接種完了後120日未満の参加者では85%であったのに対し、150日以上の参加者では73%であったが、VEの95%信頼区間は重複しており、その差は統計的に有意ではなかった(表)。

デルタ変異株が優勢な時期には、ワクチンを接種していない488名の参加者が中央値で43日(IQR = 37~69日、合計24,871日)の研究期間に寄与し、19 件の SARS-CoV-2 感染(94.7%が有症状)が発生した。ワクチン接種を完了した2,352名の参加者は中央値で49日(IQR = 35~56日,合計119,218日)の研究期間に寄与し、24件のSARS-CoV-2感染(75.0%が有症状)であった。デルタ変異株が優勢になる間の調整後のVEは66%(95%CI=26%~84%)となり、デルタ株が優位になる前の数ヶ月の91%(95%CI=81%~96%)より低下した。

なおこの傾向は、ワクチン接種後の時間の経過とともにVEが低下している可能性があるため、また観察週数が少なく参加者の感染者数も少ないため推定値の精度が低く、この傾向の解釈には注意が必要である。

訳者コメント

デルタ変異株が優勢となった時点で、ワクチン効果が低下してきていることが本研究以外の研究でも示されている。一方、抗体価の推移をみると、ワクチン接種完了から2週間後がピークであり、その後は低下していくことも示されている。デルタ変異株に対するワクチンの効果が、それ以外の株に対する効果と比べて劣るか否かは不明であるが、いずれにせよワクチン接種が普及した国でも流行が再拡大、あるいは抑制されないことを考えると、3回目のワクチン接種が必要という状況になりつつあると言える。