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vol.59 アメリカの大規模な医療システムにおけるmRNA BNT162b2 COVID-19ワクチン接種後6ヶ月までの有効性:後ろ向きコホート研究
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背景

ワクチンの有効性に関する研究では、SARS-CoV-2感染に対する有効性の低下が観察されていることにおいて、デルタ(B.1.617.2)変異株の影響と潜在的な免疫力の低下との区別がなされていない。我々は、アメリカの大規模な医療システムの会員を対象に、SARS-CoV-2感染およびCOVID-19関連の入院に対するBNT162b2(tozinameran、Pfizer-BioNTech社)の全体的な効果と変異株別の効果を、ワクチン接種後の期間別に評価することを目的とした。

方法

この後ろ向きコホート研究では、医療システムであるKaiser Permanente Southern California(カリフォルニア州)の会員である個人(12歳以上)の電子健康記録を分析し、SARS-CoV-2感染症およびCOVID-19関連の入院に対するBNT162b2ワクチンの有効性を最大6カ月間評価した。参加者は1年以上の会員歴が必要であった。アウトカムは、SARS-CoV-2 PCR陽性検査とCOVID-19関連入院であった。効果の計算は、調整Coxモデルによるハザード比に基づいて行った。

結果

2020年12月14日から2021年8月8日の間に、適格性が評価された4,920,549人のうち、3,436,957人を対象とした(年齢中央値45歳[IQR 29~61歳]、女性1,799,395人[52.4%]、男性1,637,394人[47.6%])。2回のワクチン接種を完了した人のSARS-CoV-2感染に対する有効性は73%(95%信頼区間[CI]: 72~74%)、COVID-19関連の入院に対する有効性は90%(89~92%)であった。感染に対する有効性は、接種完了後1ヶ月間88%(95% CI: 86~89%)であったが、5ヶ月後には47%(43~51%)に低下した。遺伝子配列を決定した感染のうち、デルタ変異株の感染に対するワクチンの有効性は、接種完了後1ヶ月間は93%(95% CI: 85~97%)と高かったが、4ヶ月後には53%(39~65%)に低下した。他の(デルタ以外の)変異株に対する有効性も、接種完了後1ヶ月間は97%(95% CI: 95~99%)と高かったが、4~5ヶ月後には67%(45~80%)に低下した。すべての年齢層において、デルタ型の感染による入院に対するワクチンの有効性は、6ヶ月までは93%(95% CI: 84~96%)と概ね高かった。

解釈

デルタ変異株が広く流行した状況下であっても、接種完了後約6ヶ月までは入院を防ぐBNT162b2の高い有効性に関して、本研究の結果が支持している。SARS-CoV-2感染に対するワクチンの有効性が時間の経過とともに低下するのは、主にデルタ変異株のワクチン防御回避ではなく、時間の経過とともに免疫力が低下することが原因であると考えられる。

訳者コメント

2回のコロナワクチン接種から月日が経過するとワクチン効果が低下してくるという研究を前回も紹介したが、今回はデルタ株とそれ以外に分けて評価が可能であった論文を紹介した。アメリカの医療システム最大手のKaiser Permanenteの膨大な医療データを元にしており、会員がKaiserグループ以外の病院で検査を受けたり診療を受けたりしても、医療保険にリンクしてこのグループにデータが集積されるところがこのデータを使用した研究の大きな強みになっている。そしてこの研究で、デルタ変異株とそれ以外の株に対しても同じように、ワクチン接種完了から2~3ヶ月が経過すると徐々にワクチンの有効性が低下してくることが示された。ただしその低下は感染に対してであり、入院に対しては6ヶ月経過後でも有効性が良好に保たれている。実際に、ワクチン接種が普及した国における流行の再拡大は主に軽症者の増加であり、入院や死亡はさほど増加していない。3回目のワクチン接種(ブースター接種)は、個々の感染防止や再流行の抑制という観点からは必要と思われる。一方、医療システムへの負荷軽減や医療崩壊の阻止という観点からはあまり有用でないかもしれない。