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vol.60 ユタ州とニューヨーク市の小児と成人でのSARS-CoV-2 感染に関する発生率・家庭内感染リスク・臨床的特徴
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重要性

小児に対するCOVID-19の予防接種方針を含むCOVID-19のリスクコミュニケーションと予防戦略の伝達のためには、成人と比較した小児のSARS-CoV-2感染のリスクに関するデータが必要である。

目的

前向き世帯コホート内での成人と小児におけるSARS-CoV-2感染の発生率と臨床的特徴、および推定家庭内感染リスクを比較すること。

デザイン、設定、参加者

ユタ州の数カ所の郡とニューヨーク州ニューヨーク市において、0歳から17歳の小児が1人以上いる世帯を対象とした。2020年9月から2021年4月までの間に、研究参加者がSARS-CoV-2の逆転写ポリメラーゼ連鎖反応検査用の鼻腔スワブを自己採取し、毎週、症状に関するアンケートに回答した。また、COVID-19様の疾患が発症した際には、追加で呼吸器系の検体を自己採取した。自分で呼吸器系検体を採取できない小児に対しては、大人の介護者が検体を採取した。

主な結果と測定法

主要な結果は、無症候性および有症候性のSARS-CoV-2感染者の発生数であった。その他の指標として、無症候性感染の発生率をあらゆる感染の発生率で割って算出した無症候性感染の割合、感染の臨床的特徴、家庭内感染リスクを測定した。主要な結果は、参加者の年齢群別に比較した。

結果

310世帯の1,236人が研究に参加し、その内訳は以下のとおりであった。0~4歳の参加者176名(14%)、5~11歳が313名(25%)、12~17歳が163名(13%)、18歳以上が584人(47%)であった。SARS-CoV-2の全体感染率は、ユタ州とニューヨーク市のコホートでそれぞれ1,000人週あたり3.8(95%CI、2.4~5.9)および7.7(95%CI、4.1~14.5)であった。ユタ・ニューヨーク双方を合わせた調整後の1,000人週あたりの感染率は、年齢群別にみて同様であり、0~4歳では6.3(95%CI、3.6~11.0)、5~11歳が4.4(95%CI、2.5~7.5)、12~17歳が6.0(95%CI、3.0~11.7)、そして成人(18歳以上)では5.1(95%CI、3.3~7.8)であった。年齢別の無症候性感染の割合は、0~4歳、5~11歳、12~17歳、18歳以上でそれぞれ52%、50%、45%、12%であった。1人以上のSARS-CoV-2感染者がいた40世帯では、全世帯員のSARS-CoV-2感染リスクの平均は52%(範囲、11%~100%)で、ユタ州に比べてニューヨーク市で高かった(80%[95%CI、64%~91%] 対 44%[95%CI、36%~53%]、P < 0.001)。

結論と妥当性

今回の研究では、小児は成人と比較して同程度のSARS-CoV-2感染率であったが、無症候性の割合は多かった。

訳者コメント

アメリカの大都会と地方都市で家族内感染の実態を調査した。全部で約300家族と決して大きくない調査ではあるが、半年間の観察研究であり、家庭内感染の現状を端的に示している。収入レベルのさほど相違がない両都市で、家の狭いニューヨークで感染者が多い傾向にあったが、これは地域の感染流行状況を反映していると考えられる。特記すべき所見は、比較的罹患しにくいと考えられていた低年齢の小児も、高年齢の小児と同様に罹患しているという点である。現在、成人に対しては3回目のワクチン接種(ブースター接種)をどの年齢層に対して行うかが議論になっているが、小児はそもそもワクチン接種の対象としていない国も多い(日本も12歳以上が接種の対象)。一方、アメリカはいち早く5~11歳という比較的低年齢に対して接種を開始しており、今後、小児に対するワクチン接種の必要性に関する議論が深まっていくと思われる。