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vol.64 カタールにおけるSARS-CoV-2 オミクロン株感染 に対するmRNA ワクチンのブースター効果
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背景

コロナウイルス感染症 2019(Covid-19)に対するワクチン予防効果の経時的低下と重症急性呼吸器症候群コロナウイルス 2(SARS-CoV-2)のオミクロン(B.1.1.529)変異株の出現により、ブースター接種の拡大が急務となっている。カタールにおける BNT162b2(Pfizer-BioNTech)および mRNA-1273(Moderna)ワクチンのブースター投与により付与される予防効果は、それに先行する 2 回接種による効果と比較して、不明確である。

方法

2021 年 12 月 19 日から 2022 年 1 月 26 日までのオミクロン株感染の大流行の間に、有症状の SARS-CoV-2 感染および Covid-19 関連入院・死亡に対するブースター接種の効果を、2 回接種のみの効果と比較し、マッチドレトロスペクティブコホート研究を実施した。ブースターの有無と感染との関連は、Cox 比例ハザード回帰モデルを用いて推定した。

結果

BNT162b2 または mRNA-1273 ワクチンを少なくとも 2 回接種した 2,239,193 人の集団において、ブースターも受けた者と受けていない者をマッチさせた。BNT162b2 ワクチン接種者において、35 日間の追跡調査後の有症状のオミクロン株感染の累積発生率は、ブースター群で 2.4%(95%信頼区間 [CI], 2.3 ~ 2.5)、非ブースター群で 4.5%(95%CI, 4.3 ~ 4.6)であった。有症状のオミクロン株感染に対するブースターの有効性は、2 回接種のみと比較して 49.4%(95%CI, 47.1 ~ 51.6)であった。オミクロン株感染による Covid-19 関連入院および死亡に対するブースターの有効性は、2 回接種のみと比較して 76.5%(95%CI, 55.9 ~ 87.5)であった。デルタ(B.1.617.2)変異株による有症状の感染に対する BNT162b2 ブースターの有効性は、2 回接種のみと比較して 86.1%(95%CI, 67.3 ~ 94.1)であった。mRNA-1273 ワクチン接種者において、35 日後の有症状のオミクロン株感染の累積発生率は、ブースター群 1.0%(95%CI, 0.9 ~ 1.2)、非ブースター群 1.9%(95%CI, 1.8 ~ 2.1)であった。有症状のオミクロン株感染に対するブースターの有効性は、2 回接種のみと比較して 47.3%(95%CI, 40.7 ~ 53.3)であった。mRNA-1273 ワクチン接種群では、重篤な Covid-19 症例はほとんど認められなかった。

結論

メッセンジャー RNA(mRNA)ブースターは、有症状のデルタ株感染には高い効果を示したが、有症状のオミクロン株感染には効果が小さかった。しかし、いずれの変異株に対しても、mRNA ブースターは Covid-19 に関連する入院と死亡を大いに予防した。

訳者コメント

オミクロン株の流行に伴い、日本でも多くの感染者が発生している。ブースター接種は、有症状の感染をおよそ半分に減らすだけでなく、入院や死亡といった医療への負荷や接種者自身の不幸な転帰を更に高い確率で防ぐことが、カタールにおける研究からも示された。3 回目のワクチン接種の効果は既に英国やアメリカの研究でも示されているが、より確固たるものになった。その他の社会的・公衆衛生的介入の効果があまり期待できない現状では、ワクチン接種を推進することが日本全体のコロナ感染者および入院・死亡を抑制するための非常に重要な対策であると言える。