ケンエー海外論文 Pickup

vol.77 COVID-19ワクチン接種後の非COVID-19死亡リスク評価による安全性研究
PDFファイルで見る

背景

 COVID-19ワクチンの安全性は、ワクチン接種のためらいに対処する上で重要な役割を果たす。我々は、個人レベルの人口動態、臨床的リスク因子、医療利用、地域レベルの社会経済的リスク因子などの交絡因子を調整しながら、COVID-19ワクチン接種後の非COVID-19死亡リスクを評価する大規模コホート研究を実施した。

方法

 この研究は後ろ向きコホート研究であり、2020年12月14日から2021年8月31日までの7つのVaccine Safety Datalinkサイトのメンバーで構成された。アメリカ合衆国で使用されている3種類のCOVID-19ワクチンそれぞれについて、3つの別々の解析を行った。非COVID-19粗死亡率は、ワクチンの種類、年齢、性別、人種/民族別に報告した。生存分析のための計数過程モデルは、1回目の接種と2回目の接種の時にワクチン接種状況が変化したときに新しい観察期間が始まる非COVID-19死亡率の分析に用いられた。季節やその他の時間的な傾向要因を調整するため、生存解析の基本的な時間尺度として暦年を使用した。ワクチン接種群と比較群の間の交絡因子の潜在的な不均衡を調整するために、傾向スコアアプローチを使用した。

結果

 ワクチンの種類ごとに、また年齢、性別、人種/民族のグループごとに、COVID-19ワクチン接種者の非COVID-19粗死亡率は、比較対象者の死亡率よりも低かった。傾向スコアアプローチで交絡因子を調整した後、調整ハザード比(aHR)は、BNT162b2ワクチン1回接種後0.46(95%信頼区間[CI], 0.44-0.49)、2回接種後0.48(95%CI,0.46-0.50)、mRNA-1273ワクチンの1回接種後0.41(95%CI, 0.39-0.44)、2回接種後0.38(95%CI,0.37-0.40)、Ad26.COV2.S接種後0.55(95%CI, 0.51-0.59)であった。

表 3 種類のワクチンの接種回数ごとに観察された全ての原因による死亡リスク。数値は調整ハザード比、カッコ内は95% 信頼区間。

結論

 個人レベルおよび地域レベルのいくつかの危険因子を調整しても交絡バイアスは残存していたが、アメリカで使用されている3種類のCOVID-19ワクチンの接種者において、非COVID-19死亡リスクの上昇は認められなかった。

訳者コメント

 前回まで数回にわたり、COVID-19のワクチンの感染予防・入院予防効果を紹介してきた。オミクロン株に関しては、ワクチンの感染予防効果があまり高くないことが明らかになっている一方、入院や死亡を防ぐ効果は高いことが示されている。一方、ワクチンに関して拒否的な態度を取る人もそれなりの割合存在し、特に今回紹介した研究が行われたアメリカでは政治的問題ともリンクしてワクチン忌避の動きが大きな社会問題になっている。それに対応する方法の一つとして、ワクチンの安全性、つまり重篤な副反応の少なさを示すことは重要である。
 今回紹介した研究は、様々な要因を調整したワクチンの安全性を検討した結果であるが、ワクチン接種により他の疾患に罹患したり基礎疾患が悪化したりして死亡するという事象のリスクが高まらないことが示された。表に示したのは、抄録の文中に示されていないデータである、全ての原因による死亡との関連も示したが、非COVID-19死亡と同等のリスク低減効果が示されている。
 本研究の限界として、用いたデータベースの性質上、死因が正確には判明しないことである。COVID-19感染診断日と死亡日が近いことをCOVID-19関連死の代替指標として使用している。従って、ワクチンの総合評価としては、表に掲げた総死亡のリスク低減を用いた方が良いかもしれない。更に、研究期間中に死亡に至らなかった重篤な副反応を拾い上げられていない点も限界としてあげられる。
 いずれにせよ、600万人以上の大規模なコホートを対象として行われた本研究によって、ワクチンは安全であり、COVID-19も含めた全ての原因による死亡リスクを下げることが改めて示された。