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vol.83 感染・入院を防止するための介護施設における除菌
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背景

 介護施設入居者は、多剤耐性菌による感染症・入院・保菌のリスクが高い。

方法

 介護施設において一斉除菌と通常ケアの全身清拭を比較する無作為化試験を実施した。試験には18 ヵ月のベースライン期間と18 ヵ月の介入期間が含まれた。除菌群は、定期的な清拭やシャワー浴にクロルヘキシジンを使用し、ポビドンヨード経鼻投与を入所後最初の5 日間は1 日2 回、その後は隔週で1 日2 回を5 日間行った。主要転帰は感染による転院であった。副次的転帰は、何らかの理由による転院であった。介入期間とベースライン期間を試験群間で比較する一般化線形混合モデルを用いて、各アウトカムについてintention-to-treat(割り付け時)差分分析を行った。

結果

 28 の介護施設、総入居者数28,956 人からデータを得た。通常ケア群における病院への転院のうち、ベースライン期間中は62.2%(施設全体の平均)が、介入期間中は62.6%が感染によるものであった(リスク比、1.00;95%信頼区間[CI]、0.96 ~ 1.04)。それに対して、除菌群における当該指標はそれぞれ62.9%および52.2%(リスク比、0.83;95%CI、0.79 ~ 0.88)であり、通常ケア群と比較したリスク比の差は16.6%(95%CI、11.0 ~ 21.8;P<0.001)であった。通常ケア群における介護施設からの退所のうち、何らかの理由による病院への転院は、ベースライン期間では36.6%、介入期間では39.2%であった(リスク比、1.08;95%CI、1.04 ~ 1.12)。それに対して、除菌群における当該指標は35.5%および32.4%(リスク比、0.92;95% CI、0.88 ~ 0.96)であり、通常ケア群と比較したリスク比の差は14.6%(95% CI、9.7 ~ 19.2)であった。治療に必要な数は、1 件の感染関連入院を予防するのに9.7 件、何らかの理由による1 件の入院を予防するのに8.9 件であった。

結論

 介護施設では、クロルヘキシジンおよび鼻腔ヨードホールによる一斉除菌は、通常ケアよりも感染による転院のリスクを有意に低下させた。

表 ベースライン期間と介入期間終了間近の耐性菌保菌率

註釈
MRSA:methicillin-resistant Staphylococcus aureus bacteremia
VRE:vancomycin-resistant enterococci
ESBL:extended-spectrum beta-lactamase producer
CRE:carbapenem-resistant Enterobacterales
数字は期ごとの検出率(カッコ内は実数)

訳者コメント

 介護施設の入所者が様々な多剤耐性菌を保菌していることは知られており、医療機関ではそういった施設からの転入院患者をターゲットにして耐性菌のスクリーニング検査を行っているところも少なくないであろう。一方、そのような患者に対して様々な耐性菌のスクリーニング検査を行い、保菌者に対してのみ除菌を行うことは、検査費用やマンパワーの増大を考えると、必ずしも合理的とは言えない。
 一方、クロルヘキシジングルコン酸塩(CHG)溶液による清拭(自立者は入浴)や、鼻腔に対するポビドンヨードの塗布は、様々な薬剤耐性菌の保菌状態の制御によって、当該患者に発生する中心ライン血流感染や肺炎、手術部位感染などの医療関連感染発生頻度を低下させることが知られている。そこで著者らは、この2 つの介入による除菌を入所者全員に対して継続的に行う介入が有効ではないかと考え、実行したところ、二つのアウトカム(病院への転院に占める感染症事由、施設からの退所に占める病院転院事由)でともにこの介入の有効性が示された。
 清拭や入浴はもともと行っている日常ケアであり、そこにCHG を追加するだけなので追加的なマンパワーは発生せず、追加費用もさほど大きくはない。ポビドンヨードの鼻腔塗布は新たな手間となるが、2 週間で合計10 回の塗布なのでさほど大きな手間ではないと思われる。今後、アメリカ、そして日本でも、入所者に対する日常的一斉除菌によって「より清潔に保つ」ことが、感染症発生および病院への転院を抑える有効な手段であると認識され、介護施設で標準となるかもしれない。