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vol.84 人工呼吸器関連肺炎を防止するためのアミカシン吸入
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背景

予防的抗菌薬吸入が人工呼吸器関連肺炎の発生を減少させるかどうかは不明である。

方法

この研究者主導の多施設共同二重盲検無作為化比較優越性試験において、われわれは、少なくとも72時間以上侵襲的機械的人工呼吸を受けている重症成人を、理想体重1kgあたり20mgの用量で吸入アミカシンを1日1回3日間投与する群と、プラセボを3日間投与する群に割り付けた。主要転帰は、28日間の追跡期間中の人工呼吸器関連肺炎の発生とした。安全性が評価された。

結果

合計850例の患者が無作為化を受け、847例が解析に組み入れられた(アミカシン群417例、プラセボ群430例)。アミカシン群では337例(81%)、プラセボ群では355例(82%)が1日1回3日間のネブライザー投与を完遂した。28日目の時点で、人工呼吸器関連肺炎はアミカシン群の62例(15%)、プラセボ群の95例(22%)で発症していた(人工呼吸器関連肺炎までの制限平均期間の差、1.5日;95%信頼区間[CI]0.6~2.5日;P=0.004)。
感染症関連人工呼吸器関連合併症は、アミカシン群では74例(18%)、プラセボ群では111例(26%)に発生した(ハザード比、0.66;95%CI、0.50~0.89)。試験関連の重篤な副作用は、アミカシン群で7例(1.7%)、プラセボ群で4例(0.9%)に認められた。

表 アウトカム(抜粋)

アミカシン群とプラセボ群の数字は件数、カッコ内は群全体に占める割合
*VAP無しの状態の制限平均期間の差
**:アメリカ疾病対策センター(CDC)のサーベイランス(NHSN)に定義された人工呼吸器関連事象
VAC : Ventilator-associated condition
IVAC : Infection-related ventilator-associated condition
PVAP : Possible VAP

結論

少なくとも3日間機械的人工呼吸を受けた患者では、その後の3日間のアミカシン吸入コースにより、28日間の追跡期間中に人工呼吸器関連肺炎の発生が減少した。

訳者コメント

 予防的抗菌薬投与は、主に周術期において行われる。切開創を通じて普段無菌的な臓器・体腔の操作を加え、更に消化管などの常在菌を多く保有する身体部位に切り込むような手術では、術野の汚染の除去や慎重な操作だけでは感染症の予防には限界があり、予防的抗菌薬が大いにその防止に寄与する。その種類や投与期間・タイミングについては様々な研究が行われており、若干不確定な面もあるがほぼ確立した手技と言ってよいだろう。
 一方、それ以外の様々な医学的状況における予防的抗菌薬投与は、それを行わない趨勢が強い。その理由として、そもそも感染リスクが低い、投与によるリスク低減効果が小さい、投与するとすれば長期間にわたることとなり常在菌の薬剤耐性化や耐性菌およびClostridioides difficileの選択につながる、などが挙げられよう。本論文で研究対象とした気管内挿管・人工呼吸管理状態もその一つである。
 本研究では、アミカシンの予防投与を3日間に限定して行い、しかも吸入という局所投与の形で行った。その結果、有意な肺炎発生減少効果を得た。肺炎の起因菌をみても、アミカシン感受性グラム陰性菌による肺炎を有意に減少させているので、介入と結果の因果関係には蓋然性がある。
 予防的抗菌薬をやみくもに使用することは、厳に戒められるべき医療行為である。その一方で、患者のアウトカムを向上させる予防的抗菌薬投与は、積極的に行うべきであろう。予防的抗菌薬に対する考え方を変えるきっかけになるかもしれない、重要な論文であると感じる。