重要性
院内肺炎(HAP)は最も一般的で病的な医療関連感染症であるが、効果的な予防戦略に関するデータは限られている。
目的
毎日の歯磨きがHAPやその他の患者関連アウトカムの発生率低下と関連するかどうかを明らかにすること。
データ情報源
PubMed、Embase、Cumulative Index to Nursing and Allied Health、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Web of Science、Scopus、および3件の試験登録の検索を、開始時から2023年3月9日までに実施した。
研究の選択
入院中の成人を対象とした無作為化臨床試験で、歯磨きによる毎日の口腔ケアを歯磨きなしのレジメンと比較したもの。
データ抽出と統合
データ抽出とバイアスリスク評価は重複して実施した。メタ解析はランダム効果モデルを用いて行った。
主要アウトカムと測定法
本システマティックレビューおよびメタ解析の主要アウトカムはHAP であった。副次的アウトカムは、院内および集中治療室(ICU)での死亡、機械的換気の期間、ICU 在室日数および入院日数、抗菌薬の使用などであった。サブグループには、侵襲的人工呼吸を受けた患者と受けなかった患者、1 日2 回の歯磨きとそれ以上の頻度の歯磨き、歯科専門家による歯磨きと一般看護スタッフによる歯磨き、電動歯磨きと手動歯磨き、バイアスのリスクが低い研究と高い研究、などが含まれた。
結果
10,742人の患者(ICU 2,033人、ICU 以外の部署 8,709人;ICU 以外の患者を対象としたクラスター無作為化試験1 件を考慮して母集団を縮小した後の有効母集団数は2,786人)を含む、合計15件の試験が組み入れ基準を満たした。歯磨きは、HAP(リスク比[RR]、0.67[95% CI、0.56-0.81])およびICU 死亡(RR、0.81[95% CI、0.69-0.95])の有意なリスク低下と関連した。肺炎発生率の減少は、侵襲的機械換気を受けている患者では有意であったが(RR、0.68[95%CI、0.57-0.82])、侵襲的機械換気を受けていない患者では有意ではなかった(RR、0.32[95% CI、0.05-2.02])。ICU に入院している患者の歯磨きは、機械的換気の日数の減少(平均差、-1.24[95% CI、-2.42~-0.06]日)およびICU の在室日数の短縮(平均差、-1.78[95%CI、-2.85~-0.70]日)と関連していた。
1 日2 回のブラッシングとより頻繁な間隔でのブラッシングは、同様の効果推定値と関連していた。バイアスリスクの低い7件の研究(1,367例)に限定した感度分析でも、結果は一貫していた。ICU 以外の入院期間および抗菌薬の使用は、歯磨きと関連していなかった。
結論
このシステマティックレビューとメタアナリシスの結果から、毎日の歯磨きは、特に機械的人工呼吸を受けている患者におけるHAPの発生率の有意な低下、ICUでの死亡率の低下、機械的人工呼吸の期間の短縮、ICUでの在院日数の短縮と関連する可能性が示唆された。より広範で一貫した歯磨きを奨励する政策やプログラムが必要である。
訳者コメント
口腔ケアが肺炎のリスクを低減させることは、比較的広く周知されている。しかしその方法については議論のあるところで、クロルヘキシジングルコン酸塩などの薬物による方法、歯磨きなどの物理的な方法、その併用など様々である。本論文では、薬物による副反応のリスクを生じない物理的な方法の代表格である歯磨きに焦点を絞り、各種肺炎に対する予防効果に関しての系統的レビューを行った。
その結果、人工呼吸器関連肺炎を有意に減少させる効果が明確であったことと、それに伴うICU内死亡をも減少させる効果があることが示された。一方、人工呼吸器に関連しない肺炎は、そもそも発生頻度が低いこともあって有意な減少効果は示されなかった。しかし決して無効という結論になったわけではなく、リスク比は0.32とかなりのリスク低減効果が見込まれるので、特にICU入室中患者など肺炎のリスクが高い患者に対しては歯磨きが有効であると考えた方が良いだろう。
比較的シンプルで安価な介入による感染症発生リスクの低減は、患者のためのみならず病院にとっても費用対効果に優れたアウトカムと言えるだろう。