目的
世界保健機構 (WHO) による手袋着用時の手指衛生 (HH) のゴールドスタンダードでは、手指衛生のタイミングが発生すると手袋を外してHHを行ってから新しい手袋を着用する必要がある。手袋を着用した手にアルコールベースの手指消毒剤 (Alcohol-based hand rub, ABHR) を直接塗布するという新しい戦略は、効果的かつ効率的かもしれない。
研究デザイン
混合法、多施設、3群間、無作為化試験。
場所
4つの病院の、成人および小児の内科外科病棟、中間病棟、集中治療室。
参加者
医療従事者 (HCP)。
介入
HCPは以下の3群に無作為に割り付けられた:手袋を着用した手にABHRを直接塗布する群、現在のゴールドスタンダード群、通常のケア群。
方法
手袋を着用した手は直接培地に押しつける方法で検体採取された。ゴールドスタンダード群と通常ケア群が手袋にABHRを塗布する介入群と比較された。
結果
手袋を着用した手で細菌が確認されたのは、ゴールドスタンダード群では641件中432件 (67.4%) であったのに対し、介入群では662件中548件 (82.8%) であった (P<0.01)。HHに要した時間は、介入群では平均14秒、ゴールドスタンダード群では平均28.7秒であった (P<0.01)。手袋を着用した手で細菌が確認されたのは、通常ケア群では135回観察中133回 (98.5%) であったのに対し、介入群では226回観察中173回 (76.6%) であった (P<0.01)。検査した331個の手袋のうち6個 (1.8%) に微細な穿孔が認められ、そのすべてが介入群で確認された (205個中6個、2.9%)。
結論
通常のケアと比較して、手袋を着用した手にABHRを直接塗布することで手袋をはめた手の汚染の程度は有意に減少したが、ゴールドスタンダードよりも統計的に高かった。通常のケアと比較した場合の時間的節約と微生物学的な利点、およびゴールドスタンダード遵守が実用性に欠ける点を考慮すると、疾病対策予防センター (CDC) とWHOは、1人の患者への接触中にHHのタイミングが生じた場合、手袋を着用した手をABHRで除染するようHCPに勧告することを検討すべきである。
訳者コメント
接触予防策を講じている患者の病室で発生する手指衛生機会に関して、WHOやCDCの手指衛生ガイドラインによれば、その都度手袋を外して手指衛生してから再び手袋を着用する必要がある。しかしこれは非常に手間がかかるため現実的ではなく、実際に本研究の通常ケア群の医療従事者においてそのような手指衛生機会のうち手指衛生を実施したのがわずか2%であった。
そのような手指衛生機会において、手袋を着用したままその上から手指衛生する (手袋を消毒する、と表現するのがより正しいかもしれない) のは、現実的な代用策ではないか、というのが本研究の問題提起である。
その結果、やはり手間の軽減の効果は大きく、手指衛生の時間 (理想的手指衛生群では手袋の脱着の時間も含む) が1回あたり14秒短縮され、研究参加者の間からも実用的な方法であるとか手袋の節約になるなどその他のメリットも指摘された。一方、欠点としては手袋の汚染がABHRでは完全に落としきれないことや、手と異なり擦ることでABHRを乾かすことができず、手袋がウェットな状態で次の患者ケアを行うことになる点が挙げられる。
理想的な手指衛生も、遵守率があまりにも低いのでは意味がない。手指衛生のガイドラインはやや原理主義的になっている嫌いがあり、現場に受入れられているとは言いがたい。手指衛生の重要性は言うまでもないが、それが実施されなければ絵に描いた餅となってしまう。現場で働く医療従事者がそれほどストレスなく遵守できる方法を模索していくことも必要であろう。