目的
末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)を有するナーシングホーム入居者における、モバイルアプリを用いた中心ライン関連血流感染(CLABSI)予防プログラムの影響を評価すること。
研究デザイン
ベースライン期(2015年9月~2016年12月)、フェーズイン期(2017年1月~2017年4月)、介入期(2017年5月~2018年12月)の事前事後前向きコホート研究。介入とベースラインの限局性炎症/感染、ドレッシング材剥離、感染関連入院の頻度を一般化線形混合モデルによって比較した。限局性炎症/感染によるライン除去までの日数をCox比例ハザードモデルによって比較した。
場所
カリフォルニア州オレンジ郡の6か所のナーシングホーム。
患者
PICCを有する成人のナーシングホーム入居者。
介入
CLABSI予防プログラムは、挿入部位の感染/炎症を特定するための実用的なスコアリングシステムと、写真による評価や遠隔対応のための自動化された医師への警告を可能にするモバイルアプリで構成されている。
結果
719人の入所者に対する817本のPICCについて8,131件の評価を完了した(ベースライン期:4,865件の評価、422本のPIC、385人の入所者;介入期:4,264件の評価、395本のPICC、334人の入所者)。介入は、ドレッシング材がはがれる確率の57%低下(オッズ比[OR] 0.43、95%信頼区間[CI] 0.28~0.64、P<0.001)、局所炎症/感染の73%減少(OR=0.27、95%CI:0.13~0.56、P<0.001)、感染関連入院の41%減少(OR=0.59、95%CI:0.42~0.83、P=0.002)と関連していた。医師のモバイルアプリによる警告と対応により、炎症/感染が確認された後にラインが抜去されずに残るリスクが62%低下し(ハザード比0.38、95%CI:0.24-0.62、P < 0.001)、感染したラインの抜去が平均19日(標準偏差20日)から平均1日(標準偏差2日)へと95%短縮した。
結論
モバイルアプリを用いたCLABSI予防プログラムにより、中心ライン挿入部位の炎症や感染の頻度が減少し、ドレッシングの完全性が改善し、炎症や感染が発見された場合のライン抜去時期を早め、感染関連の入院リスクが減少した。
訳者コメント
ナーシングホーム、日本で言えば高齢者施設では、医療機関と異なり感染対策に関するリソース(器具・機材)のみならず、専門家の眼があまり行き届いていないケースも少なくない。一方、様々な理由で輸液ラインを挿入されたままナーシングホームに戻る入居者も少なくない。その合併症である中心ライン関連感染は、医療費の大きな増大と入居者に対する大きな健康被害といった悪影響を与える。
本研究では遠隔医療技術を用いて、PICCの刺入部位の観察を行い早期に感染を見つけ出して対処することができるシステムの検証を行った。主な介入の内容は、刺入部の写真をナーシングホームの看護師が毎日撮影してCLISAスコアを評価し、2または3のスコアには医師に対して自動的にアラートが発せられ、医師が遠隔で総合的評価を行ってライン抜去などの必要な指示を行うといったものである。
その結果、PICCの刺入部位所見がクラス2以上の場合に、大幅に早く抜去などの対応を行うことができるようになった。特に感染が強く疑われるCLISA3が発生した際に、従来は介入まで19日を要していたところ、わずか1日で対応されるようになった。これ以外にも、ドレッシング材の剥がれといった有害事象も有意に減少し、介入の効果が明らかになった。
専門的人的リソースの少ないナーシングホームにおいて、効果的な感染対策を展開する上で、アプリによる管理の有効性が示唆された。CLABSI以外の有害事象に関する応用が期待できる。