ケンエー海外論文 Pickup

Vol.107 Burkholderia cenocepaciaのアウトブレイクから学ぶICUでの超音波ゲルの汚染リスク
PDFファイルで見る

背景

Burkholderia cenocepaciaは環境由来のグラム陰性菌であり、多くの抗生物質や消毒剤に耐性を示し、病院内の水環境下でも生存可能である。我々はNg Teng Fong総合病院集中治療室(ICU)におけるB. cenocepaciaの集団発生を調査し、感染源の特定とさらなる伝播の防止を目的とした。

方法

ICUの患者2名にB. cenocepacia菌血症が発症したことを契機に本アウトブレイクが検知された。超音波検査用ゲルや消毒剤を含む環境サンプルが採取された。臨床分離株と環境分離株のクローン性を判定するため全ゲノムシーケンス(WGS)を実施した。超音波検査用ゲルのロット回収や、高リスク処置における滅菌済みゲル小袋の使用など、即時対応が講じられた。

結果

ICUや放射線科を含む複数の病院エリアから採取した開封済み・未開封の超音波検査用ゲルがB. cenocepaciaに汚染されていることが確認され、特定のロット(ブランドA)が集団発生に関連していることが判明した。全ゲノムシーケンス解析により、臨床分離株と環境分離株の遺伝的関連性が確認された。影響を受けたゲルロットの全病院的な回収が実施された。地域ネットワークを通じ、近隣諸国への通知と、更なる調査のための地域保健当局への警告も実施された。さらに、ゲルの監視を継続し、追加の汚染製品を特定した。

結論

本アウトブレイクは、汚染された医療製品、特に超音波検査用ゲルがもたらすリスクを浮き彫りにした。効果的な環境サンプリング、迅速な特定、保健当局との明確な情報共有がアウトブレイク制御の鍵であった。その後、侵襲的処置には滅菌ゲルの使用を義務付けるようプロトコルを改訂し、超音波検査用ゲルの潜在的な汚染監視を継続している。

訳者コメント

超音波ゲルは多くの場合、無菌的手技には使用されないため、製造過程で滅菌されていないものも少なくない。診断的超音波検査ではあまり問題にならないが、穿刺を伴う侵襲的検査や手技などで超音波機器を使用する際のゲルの汚染が、今回報告されているような血流感染の形で問題になることが時々ある。
本調査では、長期にわたり数種類のゲルを調査した結果、複数の種類の複数のロットにおいてB. cenocepaciaが検出された。このことは、超音波ゲルの汚染が相当程度存在することを示唆しており、非常に憂慮すべき状況であると言える。本研究はシンガポールで実施されているが、日本で使用されている超音波ゲルには海外製のものが多数あり、特に侵襲的検査や手技で使用する超音波ゲルの汚染には留意する必要がある。そういった手技の実施時に用いるゲルは滅菌のものを使用するなどの対策も有効であろう。
感染対策のラウンドでは、外来や病棟などの検査部以外の部門で特に、超音波機器のプローブが汚染されているなど管理が不十分な事例をよく見かける。本事例の経験を共有することで、超音波プローブやゲルを適切に管理し監視することの重要性が改めて認識されよう。