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vol.108 病院内で蔓延しているカルバペネム耐性Acinetobacter baumanniiの制御に対する積極的監視培養の果たす役割
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背景

流行地域における入院患者でのカルバペネム耐性Acinetobacter baumannii(CRAB)保菌率の増加にもかかわらず、積極的監視培養とコホート管理の役割については依然として議論がある。我々は、流行地域におけるCRAB発生頻度に及ぼす多面的な感染制御介入の長期的な効果を明らかにすることを目的とした。

方法

670床の急性期病院において、前向き準実験的研究を実施した。研究は4段階で構成された。第I段階では、基本的な感染対策を実施した。第II段階では、CRAB保菌者を単一病棟にコホート化し、専任看護師を配置するとともに環境清掃を強化した。第III段階では、高リスク病棟における大規模スクリーニングを実施した。第IV段階は15か月の追跡期間とした。

結果

ベースライン期間中、CRABの平均発生率(IDR)は10万患者日当たり44件であった(95%信頼区間:37.7-54.1)。第II相では有意な減少は認められなかった(IDR、40.8/100,000患者日;95% CI、30.0-56.7;P = 0.97)。第III期では、対策の高い遵守率にもかかわらず、複数の病棟で持続的な伝播が認められ、平均IDRは10万患者日当たり53.9(95% CI 40.5-72.2; P = 0.55)であった。第IV相では、大規模スクリーニング実施後、平均IDRの有意な減少が認められた(10万患者日当たり25.8;95% CI、19.9-33.5;P = .03)。フェーズIからフェーズIVにかけて、CRAB発生率の全体的な減少が認められた(発生率比 0.6;95% CI 0.4-0.9;P < 0.001)。

結論

定期的な積極的監視培養を伴う強化感染制御対策を含む包括的介入は、流行地域にある病院環境においてCRABの発生率を減少させるのに有効であった。

訳者コメント

本研究はイスラエルの670床の高次医療機関で行われた。日本では比較的低いカルバペネム耐性Acinetobacterの分離頻度も、諸外国では高い国が少なくなく、イスラエルでも比較的高いとみられる。こういった状況では、入院中の患者や医療曝露を多く受ける患者だけでなく一般市民も同菌を保菌していることが十分考えられる。このような状況では、手指衛生を主体とする標準予防策と、判明している同菌の感染症・保菌者のみに対して接触予防策を講じるだけでは、入院中患者間の同菌の伝播を制御するのは困難である。
著者らの病院では当初、接触予防策のみ(集団隔離は行わず)からスタートして、集団隔離、清掃強化、手指衛生の遵守モニタリングなど様々な強化対策を追加していったが、CRABの発生率は減少しなかった。そこで著者らは積極的監視培養を行うこととし、長期療養型医療機関等から入院してくる患者と過去6ヶ月以内に入院歴がある患者、およびICUに入室する患者に対して入院時に全員監視培養を行う対策を追加した。検体採取部位は、直腸・頚部・軌道(人工呼吸器装着患者のみ)であった。
その結果、対策を導入し終えた後のPhase(Phase4)において同菌の伝播が大きく減少した。また、分離されるCRABもPhase2まではその半数以上が入院中患者の臨床検体からの分離であったが、Phase3から入院時の監視培養の割合が増え、院内伝播は減少し、更に臨床検体の割合も減少して監視培養の割合が増加した。
積極的監視培養は費用も手間もそれなりに要する。市中での保菌者の割合がそれなりに高く、入院患者が保菌している可能性がある程度存在する耐性菌の感染伝播防止は、積極的監視培養が特に有効な状況であると言える。