重要性
共有医療機器・器具の清掃・消毒の経済的価値は現時点で不明である。
目的
共有医療機器・器具の清掃・消毒を強化することが、通常のケアと比較して費用対効果が高いかどうかを評価すること。
デザイン、場所、参加者
本経済評価研究は、段階的導入法を用いたクラスター無作為化臨床研究(Cleaning and Enhanced Disinfection:CLEEN)における研究内費用対効果分析である。本試験は5002名の入院患者を対象とし、2023年3月20日から同年11月24日にかけて、オーストラリアの三次医療機関における10の成人急性期病棟で実施された。評価は病院コスト視点で行われた。介入評価のため決定木モデルを開発し、費用はオーストラリアドルで示した。統計解析は2024年5月から10月にかけて実施された。
介入内容
介入期間中、追加清掃時間、教育、監査、フィードバックに焦点を当てた多角的清掃介入を実施した。対照群は臨床スタッフによる通常清掃を含む標準的ケアを受けた。
主要アウトカムと測定指標
増分費用対効果比であり、介入に伴う費用の平均変化量をアウトカムの平均変化量で除した値。
結果
本研究では5002名の患者(男性2478名[49.5%]、女性2524名[50.5%]、平均年齢71.6[標準偏差16.1]歳)を対象とした。医療関連感染(HAI)リスクのある患者1000人集団において、介入に関連する推定総費用は1,513,300ドルであったのに対し、通常ケアでは2,155,310ドルであった。介入群における推定HAI発生件数は100件であったのに対し、通常ケア群では130件であった。通常ケアと比較して、介入はHAI発生件数と費用の削減に関連し、介入導入が費用対効果に優れる確率は90.5%であった。意思決定者が感染回避のために20,000ドルを支払う意思がある場合、この確率は99.9%に上昇した。
結論と意義
共有医療機器・器具の強化清掃・消毒に関する本経済評価研究において、介入群は対照群と比較してHAIの減少と患者1000人当たり642,010ドルの費用削減をもたらした。これらの結果は、CLEEN介入が費用を削減できる構想であることを示唆している。
訳者コメント
本論文は、以前に紹介した共用医療機器・器具の強化清掃・消毒によるHAIの減少を示した論文の二次解析であり、費用対効果を検証したものである。その結果、強化清掃・消毒を行う費用を上回るHAIの減少が見られ、結果として費用対効果に優れているとしている。表で示したシナリオ1と2は介入の強度の違いで、シナリオ1の方が環境に対してより拭き取り作用の強いワイプを使用するなど、より厳格で強力な介入を行っている。強力な介入には費用がより多く発生するが、それを上回るHAI減少効果があると解釈できる。
費用対効果の計算には、介入に要した追加費用と、有害事象を回避できたことにより節約できる医療費を主に用いるが、後者は国によって大きく異なることに注意が必要である。
本研究はオーストラリアで行われたが、入院1日あたり約2000オーストラリアドル(2026年1月現在、日本円で約21万円)の追加費用を前提としている。HAI発生に伴う入院期間延長は、血流感染で11日、尿路感染で4日、手術部位感染で10日としている。つまり、HAIを1件減らすことができれば医療費を100~200万円減少させることができるという算定を行っていると思われる。
HAI発生に伴い延長する入院期間の前提は概ね妥当と思われるが、問題は入院延長1日あたりの追加医療費である。日本の医療制度において医療費増分をみた研究では、インフルエンザ入院患者の入院中合併症で1日あたり約33,000円、院内発症C. difficile感染症により入院期間が平均3日延長して追加費用が約13万円、などといったものがある。本論文の前提とは大きく異なることに注意する必要があるだろう。







