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vol112 28の医療施設に及んだ初のカンジダ・アウリス集団感染に対する地域の公衆衛生対応:アリゾナ州マリコパ郡、2022年4月~2023年2月
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目的

アリゾナ州マリコパ郡で発生した、医療関連のカンジダ・アウリス(Candida auris)による初の集団感染について記述する。また、感染拡大を阻止し、影響を受けた医療施設およびC. aurisを保菌している接触者を特定するために、マリコパ郡公衆衛生局(MCDPH)が実施した対応策の概要を説明する。

方法

C. aurisの確定症例が確認された医療施設(曝露医療施設)において、MCDPHは、継続的な伝播を特定するための入院患者に対する接触者調査や点有病率調査(PPS)を含む、感染制御に関するオンライン評価および対応活動を実施した。C. aurisの確定症例には、入院患者の検体培養またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によりC. aurisが検出された症例が含まれた。臨床症例とは、入院患者の日常診療としての採取検体からC. aurisが培養により検出された症例である。保菌症例とは、スクリーニング目的で入院患者から採取した検体からPCRによりC. aurisが検出された症例が含まれる。

結果

2022年4月21日、最初の臨床症例が確認され、結果的に28か所の曝露医療施設においてC. aurisのスクリーニングが行われる集団発生に至った。合計39例のC. auris臨床症例が報告された。特定された1,994名の接触者のうち、899名(45.0%)がスクリーニングを受け、8名(0.4%)がスクリーニングを拒否し、1,087名(54.5%)はスクリーニングの対象外であった(すなわち、マリコパ郡内の病院に在院していなかった)。スクリーニングを受けた患者のうち、158名(17.6%)がC. aurisの保菌者であり、そのうち15名(9.5%)の保菌接触者が後に臨床的感染症を発症した。この集団感染は、曝露医療施設において2回連続のPPSでC. aurisが検出されなくなったことを受け、2023年2月23日に終息した。

結論

マリコパ郡で発生した初のC. auris集団感染は、医療施設、検査機関、公衆衛生当局が連携して、曝露医療施設を特定し、接触者をスクリーニングし、C. aurisの感染拡大を阻止した取り組みの重要性を浮き彫りにしている。

訳者コメント

カンジダ・アウリスは、2010年代から主にアメリカの医療機関において免疫低下患者を中心に重症感染症をきたし、死に至ることもある病原体として注目されている。2022年にはアメリカ全土で2000人を超える感染症症例が把握されている。欧州でもこれほど多くはないが感染症症例が発生しており、世界保健機関(WHO)が2022年に真菌の中で最も対応の優先度が高い菌種に指定している。日本での本菌による感染症の症例はまれであり、厚労省が積極的な情報提供を呼び掛けた2023年以降、年間十数例の報告にとどまっている。
本論文は、多くの症例が経験されているアメリカで、医療機関を超えて地域の集団発生となった事例の報告である。接触者調査としてスクリーニング検査を大量に実施したため、感染症を発症した症例よりも保菌症例の方が圧倒的に多いが、保菌者158名の約10%がその後に感染症を発症しており、本菌の病原性の高さを物語っている。
本論文での検討から、保菌や感染のリスク因子として抗菌薬・抗真菌薬の処方や直近の手術・手技の実施といった既往が浮き彫りになっていて、特に保菌者がそういった既往を有する場合に感染症を発症するリスクが高いと推定される。スクリーニングを実施する際やその結果を踏まえた患者への対応において参考になる情報である。
感染対策としては、多剤耐性菌と同様に厳重な接触予防策を主体としつつ、接触者に対するスクリーニング検査や環境清掃などが挙げられるが、あくまで一般論に過ぎず、陽性者のスクリーニング検査による陰性確認の方法をはじめ不明な点も多い。
カンジダは馴染みのある病原体だが、その中でもC. aurisは特殊であることが広く認識されることが重要である。