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vol.116 無症状の患者に対する包括的SARS-CoV-2スクリーニングの診断的価値と結果
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重要性

SARS-CoV-2 の早期発見は院内での拡大を抑制する可能性があるが、無症状患者に対する一律のスクリーニングについては依然として議論が分かれている。

目的

地域における発生率および下水中のウイルス量との相関関係に基づき、SARS-CoV-2 の系統的なスクリーニングの診断的有効性を評価するとともに、偽陽性結果が出た入院患者の臨床転帰を評価すること。

研究デザイン、施設、対象者

この後ろ向き質管理コホート研究では、スイス・バーゼルにあるバーゼル大学病院(年間4万人以上の成人患者を受け入れる三次医療施設)において、無症状患者を対象に実施されたSARS-CoV-2の系統的スクリーニングの結果を評価した。2021年2月8日から2021年7月5日まで、および2021年8月25日から2022年12月5日までの期間に、SARS-CoV-2 感染の系統的なスクリーニングを受けたすべての患者が対象となった。データの分析は2024年1月から2月にかけて行われた。

曝露

入院時および入院中の3~ 5日ごとの定期的な間隔で、無症状のSARS-CoV-2感染をスクリーニングするための唾液を用いたPCR検査。

主な結果と評価指標

主要評価項目は、SARS-CoV-2 検査結果における陽性率および偽陽性率、ならびに、検査を行わなければ検出されなかったであろうSARS-CoV-2感染者1人を発見するために必要なスクリーニング人数であった。臨床データおよび検査結果は、地域における発生率や廃水中のウイルス量と併せて分析された。相関関係はスピアマンの相関係数を用いて算出され、偽陽性結果の臨床的意義が評価された。

結果

42,666人の患者(うち女性が21,591[50.6%]、年齢の中央値は64歳で四分位範囲は45~76歳)に対して実施された75,667件のスクリーニング検査のうち、761人の患者(検査数の1.2%)で陽性結果が得られた。これらのうち483名の患者(63.5%)を真陽性、278名の患者(36.5%)を偽陽性として分類した。偽陽性の検査結果が出た患者のうち、139名(50.0%)が不必要な隔離を受け、46名(16.5%)が陽性者集団管理によってSARS-CoV-2検査真陽性の患者に曝露し、9名(3.2%)は治療の遅れを被った。スクリーニング検査の陽性率は、SARS-CoV-2感染の地域別発生率および下水中のウイルス量と相関していた。陽性検査結果の93.7%は地域での発生率が高い週(住民10万人あたり150件以上)に記録されていた。そして、その週に偽陽性検査結果を示した患者の割合(35.1%、709人中249人)は、同地域での発生率が低い週(住民10万人あたり150件未満)に偽陽性であった患者の割合(55.8%、52人中29人)より低かった。

表 地域でのCOVID-19発生密度によるスクリーニング検査結果

結論と意義

本コホート研究において、SARS-CoV-2の普遍的なスクリーニングにより、SARS-CoV-2感染の無症状キャリアが検出され、その発生頻度は地域社会におけるそれと一致していた。したがって、このスクリーニングは感染予防・対策措置を支援するだろう。しかし、特に発生率が低い時期には予期せぬ臨床的結果が生じる可能性があるため、実施にあたっては状況に応じて慎重に検討する必要がある。

訳者コメント

 本研究では、COVID-19の流行初期にスイスの大学病院で実施した、入院患者に対する普遍的なSARS-CoV-2スクリーニング検査の評価を行った。検査は主に核酸増幅(PCR)法にて行われ、明確な増幅反応がみられるまでに要したPCRサイクル数(Ct値)30未満を陽性、40を越えたものを陰性とする。その間(30以上40以下)は判定保留で再検とし、同じ基準で陽性・陰性を判定するが再度30 以上40以下となったものは陽性とする。
 この群の中から、のちに発症せず、隔離が不要であっただけでなく、感染者(真陽性者)と同じ病室でコホート管理され不必要な曝露を受けたり、薬剤による治療を受けたりする者が発生している。これを偽陽性と定義しているが、その数は特に地域の流行が低調な時期において多く、全ての陽性判定者のうち半数以上がこの範疇に当てはまっている。
 SARS-CoV-2 スクリーニング検査には様々なものがあるが、核酸増幅検査、特にリアルタイムPCR 検査の判定保留域は比較的大きい。抗原定量検査の方がその領域が小さいが、被特異性反応も考慮する必要もあり、コストも含めて一長一短である。本論文は、検査前確率が低い(地域での流行が比較的小さい)時期にユニバーサルスクリーニングを行うことの弊害を改めて示したものと言える。なお、主なアウトカムではないが、下水のウイルス量と地域の流行の程度がよく相関した。これは他の多くの研究結果と一致しており、下水サーベイランスが地域の感染症流行の目安として使えることがいよいよ明確になってきていると感じる。