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vol.117 長期介護施設におけるポイント・オブ・ケア検査を活用した呼吸器系感染症の集団発生の抑制:無作為化臨床試験
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重要性

SARS-CoV-2(訳者註:COVID-19の起因ウイルス)、インフルエンザ、RSウイルス(RSV)による呼吸器感染症は、介護施設(NH)の入居者に、季節性の顕著な罹患率および死亡率を引き起こしている。

目的

現場でのポイント・オブ・ケア型呼吸器マルチプレックスポリメラーゼ連鎖反応(POC-RMPCR)装置が、NHにおける集団発生に及ぼす影響を評価すること。

研究デザイン、実施環境、参加者

この多施設共同、非盲検クラスター無作為化試験は、2024年11月12日から2025年5月2日まで、カナダ・オンタリオ州トロントの介護施設(NH)において実施された。データ解析は2025年10月7日から2025年12月31日まで行われた。

介入

訓練を受けた介護施設スタッフによる施設内でのPOC-RMPCR検査。

主なアウトカムおよび評価指標

主要アウトカムは、SARS-CoV-2、インフルエンザ、RSVの集団感染の規模および件数の合計であり、副次アウトカムには、入居者の救急外来(ED)への搬送率および死亡率が含まれた。

結果

参加した20の介護施設(総ベッド数3963床)において、病棟数は中央値で5.5病棟、1病棟あたりのベッド数は30床、過密指数は1.42であった。集団発生の数(介入群62件、対照群51件)とその規模は、介入群と対照群の間で差がなく、率比は1.12(95% CI、0.78~1.58)であった。救急外来への転送率は、確定症例(-3.5%;95%CI、-7.2~-0.2%)および確定・疑い症例(-11.0%;95%CI、-20.6%~-2.0%)の双方で介入群の方が対照群より低かった。しかし、死亡率に差は認められなかった。ウイルス検査率(週あたり3.69回対週あたり1.73回)および確定症例と疑い症例の比率(4.2対2.0)は介入対象施設で高く、症状発現から抗インフルエンザウイルス療法開始までの期間も短かった(-2.5日;95%信頼区間、-3.1~-1.9)。

結論と意義

本クラスター無作為化臨床試験の結果は、介護施設におけるPOC-RMPCRの導入が、集団感染の発生件数や規模には変化をもたらさなかったものの、ウイルス検査の実施増加、症例検出率の向上、およびインフルエンザに対する抗ウイルス療法の早期開始を背景として、救急外来への搬送件数を減少させたことを示唆している。介護施設において季節ごとにPOC-RMPCRを導入すれば、ベッド100床あたり推定4件の救急外来への搬送を回避できると見込まれる。

訳者コメント

 本研究は、介護施設においてしばしば発生する呼吸器感染症の集団感染の制御を目指して、遺伝子検査を導入することによる効果を検討した。研究デザインはクラスター無作為化試験であり、また介護施設20箇所、合計4000床近くを対象とした大規模な研究であるので、その質は高いと言える。
 結果としては、残念ながらアウトブレイク事例の数も1事例あたりの感染者数も減らすことはできなかった。更に、入居者の予後向上(死亡の減少)を得ることはできなかった。一方、インフルエンザに関しては症状発現から抗ウイルス療法開始までの時間を短縮することができ、更に医療機関への転送を減らすことができた。ベッド100床あたりシーズンを通じて推定4件の転送回避は、アメリカ全土でシーズンごとに64,000件の転送回避に相当し、救急医療システムへの負荷を軽減する有力な方法であると言える。
 なお、本研究では、検査に要するコストの議論はされているものの、具体的な額までは考察されていない。私見であるが、救急医療には多くの人が関わり、更に入院した後の様々な悪影響(ADLが低下して長期入院となり場合によってはもとのNHに戻れなくなる)なども勘案すると、ある程度の検査コストを要しても転送回避による社会的負担の減少効果がそれを上回ると期待され、費用対効果に優れているのではないかと思う。
 POCT型の遺伝子検査システムに関する検査技術の発展はめざましいものがある。これらを上手に活用し、医療の負荷と追加費用を軽減することは、超高齢化社会に既に入っている日本において、十分に応用可能な方策であるとともに、是非とも導入すべきであろうと考える。