目的
医療従事者の手袋またはガウンにおけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の汚染率を明らかにし、どの患者ケア時の接触や医療従事者の役割が、より高い汚染率と関連しているかを推定すること。
研究デザイン
多施設共同コホート研究。
実施場所
アメリカ国内の5 つの退役軍人省医療センター。
患者および参加者
過去7日以内にMRSAの臨床検体または監視培養で陽性となった患者を対象とした。患者1人につき、患者病室に入室した医療従事者5名を観察した。業務が完了して部屋を出る前に、医療従事者の手袋とガウンについて、それぞれ個別に培養検査を行った。
結果
799名の患者を対象とし、3,832件の手袋およびガウンからの培養検体を採取した。そのうち713件(18.6%)で医療従事者の手袋またはガウンからMRSAが検出された。また、3,832件の接触のうち589件(15.4%)で手袋の汚染が、3,831件の接触のうち319件(8.3%)でガウンの汚染が確認された。理学療法士および作業療法士の手袋とガウンが最も頻繁に汚染されていた。患者への接触を伴うあらゆる介入では、2,901件の観察のうち622件(21.4%)で手袋またはガウンの汚染が認められたのに対し、環境への接触のみの場合では、931件の観察のうち91件(9.8%)で汚染が認められた。手袋またはガウンの汚染率は、集中治療室(ICU)とICU以外の病棟で同様の傾向が見られた。

結論
退役軍人の患者のケアを行う際、特に患者と直接接触する場合、医療従事者の手袋やガウンへのMRSA 汚染が頻繁に発生する。病院では、低リスクの接触に対しては予防措置を最小限に抑え、高リスクの接触に対しては予防措置を強化することで、接触予防策の最適化を検討することができるだろう。
訳者コメント
MRSA保菌者や感染者に対する接触予防策は、標準的な感染対策である。その一方、MRSA保菌者は少なくないため、全員に対して全ての職種がどのような医療環境であっても接触予防策を実施するのは現実的ではない。また、既に判明している人を除いて、保菌者かどうかは監視培養を実施しなければ判断できない。
最近、感染対策に関するリスク評価という考え方が浸透しつつある。全ての患者や医療環境において一律に方針を定めるのではなく、様々な要因に応じて方針を柔軟に変更するという考え方であるが、実際には各施設でこの考え方に基づいて感染対策を適宜修正・変更している場合も多い。
本研究は、その根拠とするべく、職種ごとの感染リスクを多施設共同研究により評価したものである。医療現場でのMRSA患者への接触後に手袋やガウンからのMRSA検出を指標とした。微生物学的検査は、手袋やガウンをスワブで丁寧にぬぐって検体採取する方法で採っており、MRSAが付着している場合は高感度で検出できていると思われる。
その結果、理学療法士や作業療法士において、最も高頻度に手袋やガウンからMRSAが検出された。これらの職種は、患者に最も密接かつ長時間接触する。次いで、患者ケアを補助する者(日本では看護補助者が概ねこの職種に該当する)、看護師の順であり、患者への接触度の高さとその時間の長さを概ね反映した結果であった。また、看護師や医師などでは、手袋の方がガウンよりも高頻度にMRSAが検出されており、接触が主に手を主体とすることがその要因であると考えられた。また、環境サービスに従事する人からは検出が少なかった。
この結果は、職種ごとの患者への接触度合いの違いで概ね説明でき、全く新たな知見というわけではないが、手袋とガウンを合わせて8,000件近い検体を採取したという大規模な調査研究である点を評価したい。本研究の結果も踏まえて、職種毎の手袋やガウンの着用の要否について検討し、合理的な感染対策を展開することも可能だろう。







