消毒薬の選び方

各種微生物に対する消毒薬の選び方

ヒゼンダニ(疥癬)

疥癬の原因になるヒゼンダニは、オスで0.2×0.15mm、またメスで0.4×0.3mmの大きさであるので微生物ではない。しかし、院内感染対策上、重要である。老人保健施設や長期療養型の病院などにおいては、移りやすい"感染症"の代表選手といえる。

(1)感染経路

疥癬には、通常の疥癬(ダニの数が5~10個程度)と角化型(ノルウェー)疥癬(ダニの数が10万~100万個)とがある。通常の疥癬は入浴介助などの濃厚接触で感染する。一方、角化型疥癬は接触のみならず、皮膚の落屑などを介しても感染する1-3)。また、角化型疥癬では診断が遅れると、アウトブレイクが生じる。

(2)有効な消毒法

疥癬の拡大防止には、角化型疥癬患者をすみやかに見つけ出して治療することや、疥癬が疑われる患者に対して接触予防策(手袋や長袖ガウンの着用)を行うことが大切である(図1)。

図1. 疥癬対策(長袖ガウンと手袋の着用)

図1. 疥癬対策(長袖ガウンと手袋の着用)

角化型疥癬と判明した患者に濃厚接触した医療スタッフに対しては、スミスリン®ローション5%やクロタミトン軟膏(オイラックス®)の外用や、イベルメクチン(ストロメクトール®)の内服による予防投薬を開始する4,5)。また、医療スタッフの家族などにも、予防投薬が必要になる場合がある。

環境にばらまかれたヒゼンダニは、500W(ワット)以上の強さの電気掃除機で吸い取る(図2)。また、ピレスロイド系農薬(ダニアース®、バルサン®など)の使用も有効である。

リネン類などには熱水処理を行う。ヒゼンダニは60℃以上の熱水ですみやかに死滅する。

図2. ヒゼンダニは掃除機で吸い取る

図2. ヒゼンダニは掃除機で吸い取る

また、日常の手洗いは、疥癬の防止にも有用である。なぜなら、表皮内に侵入する前であれば、手指に付着したヒゼンダニを洗い流すことが可能だからである。

なお、ヒゼンダニはヒトから離れると数日で死滅する。このため、病室を7日間にわたり使用中止にしたり、シェーバーなどの私物をナイロン袋に入れて7日間ほど放置しておくといった方法も有効である6-8)

引用文献

  1. Cooper CL, Jackson MM: Outbreak of scabies in a small community hospital. Am J Infect Control, 14: 173-179, 1986
  2. Centers for Disease Control (CDC): Scabies in health care facilities-Iowa. MMWR Morb Mortal Wkly Rep; 37, 178-179, 1988
  3. Centers for Disease Control (CDC): Patient-source scabies among hospital personnel--Pennsylvania. MMWR Morb Mortal Wkly Rep, 32: 489-490, 1983
  4. 牧上久仁子, 他: 精神科病院における疥癬集団発生対策-予防的治療実施と疫学的検討-. 日衛誌(Jpn J Hyg), 60: 450-460, 2005
  5. 大滝倫子, 谷口裕子, 牧上久仁子: 高齢者施設での疥癬の集団発生に対するイベルメクチンの治療効果. 臨皮, 59: 692-668, 2005
  6. Johnsen C, et al: An outbreak of scabies in a New York City jail. Am J Infect Control, 19: 162-163, 1991
  7. Burkhart CG: Scabies: an epidemiologic reassessment. Ann Intern Med, 98: 498-503, 1983
  8. Andersen BM, Haugen H, Rasch M, et al: Outbreak of scabies in Norwegian nursing homes and home care patients: control and prevention. J Hosp Infect; 45, 160-164, 2000