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【医師監修】ノロウイルスはキスでもうつる? 感染経路や予防・対処法を知っておこう

2022.11.28| 感染症・消毒

とても小さなウイルスながら、感染力の強いことで知られるノロウイルス。二次感染を防ぐためにも、患者との接触はできるだけ控えることが望ましいと考えられています。ならば、患者と軽くキスすることも、控えた方がよいのでしょうか? 今回は、ノロウイルスの感染経路や予防・対処法を解説します。

ノロウイルスにはどのように感染する? 主な感染経路

「ノロウイルスはキスでもうつるのか」を考えるにあたり、まず、ノロウイルスはどのように感染するのか、主な感染経路を理解しておきましょう。

●経口感染
ノロウイルスに汚染された食品や飲料を食べたり、飲んだりすることで感染

●接触感染
ドアノブや電車のつり革、トイレの便座などの共用物を介して、手指についたノロウイルスが口に入ることで感染

●飛沫感染
ノロウイルス患者の嘔吐物の飛沫を吸いこむことで感染

●空気感染(塵埃(じんあい)感染)
床や絨毯に付着したノロウイルス患者の嘔吐物が、乾燥して塵や埃と混ざり、空気中に舞い上がったものを吸い込むことで感染

キスなどの接触でもノロウイルスに感染する?

キスをする親子

感染経路を踏まえたうえで、本題の「キスでもノロウイルスはうつるのか?」について解説していきましょう。結論からいえば、キスでもノロウイルスはうつります。なぜなら、患者の口の中には、ノロウイルスが存在している可能性があるからです。
ただしこれは、ノロウイルスの感染先が患者の口の中というわけではありません。ノロウイルスは口や鼻などから体内に侵入すると、小腸に感染します。感染後、ウイルスは腸菅の上皮細胞の中で増殖しますが、体はこれらを排出しようと嘔吐や下痢といった防御反応を起こすのです。その際、嘔吐物には十二指腸内容物と共にノロウイルスも混ざっているため、嘔吐後しばらくの間は、口の中にウイルスが残っている可能性が考えられます。その状態でキスをすると、口に残ったノロウイルスが相手の口にうつり、二次感染を引き起こすことがあるのです。
家族や恋人とのキスは、絆を深める大切なスキンシップですが、相手がノロウイルスに感染しているときはもちろん、感染が疑われる場合は、キスは控えたほうがよいでしょう。また、患者の手やほおにもウイルスが付着している可能性があるため、口以外に軽くキスをするのもやめておきましょう。

ノロウイルスの感染を防ぐ有効な対策

手洗いの様子

ノロウイルスの感染を防ぐ有効な手段を以下にご紹介します。正しく理解し、効果的に予防に役立てましょう。

●手洗い
接触感染を防ぐため、こまめに手洗いをしましょう。手についたウイルスをしっかり洗い流すには、石けんをしっかり泡立てて、指や爪の間、手首までを丁寧に洗い、流水で十分にすすぐことが大切です。推奨されているのは、石けんで30秒もみ洗いをし、流水で15秒すすぐ手順を2回繰り返すこと。手をすすいだら、ペーパータオルなどでしっかりと水気を拭き取ります。流水で手洗いの後、アルコールを両手にすり込むとより効果的です。料理や食事の前、トイレの後などは、特に入念に洗いましょう。またタオルは共用せず、個別に用意することで二次感染の予防にもなります。

●カキなどの二枚貝は十分加熱する
カキなどの二枚貝は海中でプランクトンを摂取する際、海水も一緒に取り込みます。海水にはノロウイルスが含まれていることがあるため、二枚貝の中にウイルスが蓄積され、それを食べることで経口感染してしまうのです。ノロウイルスは加熱することで失活化するので、二枚貝を食べる際は生食を避け、しっかり加熱調理するようにしましょう。目安としては、中心部を85~90℃以上で90秒以上加熱するとよいとされています。

●調理器具の消毒
生ものが触れた調理器具にはノロウイルスが付着している可能性があり、二次感染の原因となる場合があります。生ものを扱ったまな板や包丁などの調理器具は、使用の都度、熱湯をかけたり、煮沸消毒したりするのが望ましいです。また、ノロウイルスの失活化に効果の高い次亜塩素酸ナトリウム(0.02%濃度に希釈したもの)を浸したペーパータオル等で拭くのもよいでしょう。そのほか、初めから生もの・生もの以外で調理器具を分けておくことも有効な方法です。

ノロウイルスに感染した時の対処法

マスク、水、体温計、薬

ノロウイルスに感染すると、嘔吐や下痢といった激しい感染性胃腸炎を発症します。1、2日程度で治まるのが一般的といわれているので、過度な心配は無用ですが、ときに重篤な事態を招く場合もあるため患者の経過観察には注意が必要です。正しい対処法を理解し、適切な処置を行いましょう。

●水分補給
激しい胃腸炎が起こるノロウイルス感染症で、最も注意しなければならないのが脱水症です。嘔吐や下痢によって大量の水分が失われるため、体に吸収されやすい経口補水液やイオン飲料で十分に水分を補給しましょう。その際、一度にたくさんの量を摂取すると、かえって胃腸を刺激し、嘔吐や下痢を促すことがあります。水分補給する際は、少量をこまめに取るのがコツです。なお、嘔吐や下痢がひどく、水分補給が十分に行えない場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。

●学校や仕事は休む
ノロウイルスは感染力が強いウイルスです。周囲の人に感染を広げないためにも、学校や仕事は休み、外出も控えるようにしましょう。なお、症状が治まった後も、発症から1週間~1カ月程度は便にウイルスが排出されると考えられています。その間は、トイレ後の手洗いや掃除を徹底して行いましょう。

●下痢止め薬は使用しない
下痢の症状は、体内のノロウイルスを外に出そうとするためのものです。ウイルスを排出することで回復しようとしているので、薬を使って下痢を止めてしまうと、かえって症状を長引かせることになってしまいます。自己判断で安易に薬を服用するのは控え、脱水症状に注意しながら自宅で安静に過ごしましょう。

まとめ

感染力の強いノロウイルスは、患者とキスするだけでもうつる可能性があることが分かりました。日ごろからコミュニケーションの一つとしてキスをしている場合、ついクセで「ちゅっ」としてしまいそうですが、完治するまでは控えたほうがよさそうです。大切な家族なパートナーと気兼ねなくスキンシップをとるためにも、今回紹介した感染経路や予防法を理解し、ノロウイルスをしっかり予防しましょう。

 

木村医師よりコメント

感染症にかかった人がいる場合には、周りの人に感染が波及してしまう二次感染を予防していくことが大切です。感染を広げないために必要なのは、なんといっても知識です。ノロウイルスがどんなウイルスなのか、どうやってうつるのか、どうやったら予防できるのか。自分身を守るためにも正しい知識を身につけ、予防に役立てましょう。

監修者

医師:木村眞樹子

都内大学病院、KDDIビルクリニックで循環器内科および内科として在勤中。内科・循環器科での診察、治療に取り組む一方、産業医として企業の健康経営にも携わっている。総合内科専門医。循環器内科専門医。日本睡眠学会専門医。ビジョントレーニング指導者1級資格。

 

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