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【医師監修】ノロウイルスとロタウイルスの違いは? 感染性胃腸炎の原因となるウイルスについて

2022.11.28| 感染症・消毒

嘔吐や下痢の症状で診察を受けた時に、病名として告げられることが多いのが「感染性胃腸炎」。細菌やウイルスなどを原因とする胃腸炎の総称で、その原因は多岐にわたりますが、冬から春にかけてはウイルス性の胃腸炎が流行する傾向があるようです。なかでも代表的なのが、ノロウイルスとロタウイルス。今回は、それぞれの症状や流行時期の違い、感染した際の注意点などをみていきましょう。

感染性胃腸炎とは

お腹をおさえる女性

感染性胃腸炎とは、汚染された食品や水、排泄物に触れた手などを介して、細菌やウイルスに感染するもので、主に下痢や嘔吐などの症状がみられます。年間を通して発症しますが、夏場はサルモネラ菌や病原大腸菌などの細菌が、冬場はノロウイルスやロタウイルスなどのウイルスが原因となる傾向が多いです。なかでも冬場に猛威をふるうノロウイルスとロタウイルスは、流行時期や症状が似ており、一見判別が難しいため、それぞれの特徴を押さえ、注意すべきポイントを確認しておきましょう。

ノロウイルスとは

ノロウイルスによる胃腸炎は、例年11月頃から患者数が増え始め、12~1月にかけて流行のピークを迎えます。乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層で感染が広がりますが、遺伝子型の種類が多く、進化のスピードも速いため、一度かかってもまた別の型のウイルスにかかるなど、何度も感染を繰り返すことがあります。現在のところ、感染を予防するワクチンは開発されていません。

●症状
感染してから1、2日の潜伏期間を経て、突然の吐き気や嘔吐、下痢、腹痛、37度台の発熱などの症状が現れます。有効な抗ウイルス剤がないため、症状に合わせて吐き気止めや整腸剤、解熱剤などの薬を使用する対症療法がとられるのが一般的です。ただ、症状が激しいのは発症当日だけというケースが多く、通常は1、2日で快方に向かい、重症化することもほとんどないとされています。なお、感染しても症状が現れない「不顕性感染」や、軽い風邪のような症状で済む人もいます。

ロタウイルスとは

ロタウイルスの流行期はノロウイルスよりもやや遅く、例年1月頃から発症者が増え始め、流行のピークは3月~5月にみられます。春先に突然の嘔吐や下痢に見舞われたら、ノロウイルスよりもロタウイルスへの感染が疑われるでしょう。
ロタウイルスは主に乳幼児の間で流行し、特に生後6カ月から2歳にかけて感染することが多いです。ほぼすべての子どもが、5歳までにロタウイルスへの感染を経験するとされています。初めて感染したときの症状が最も強く、2回目以降では感染を重ねる度に、症状が軽くなる傾向があるため、子供の頃に何度も感染を経験している大人は、ほとんど発症しません。
ロタウイルスへの感染を予防するワクチンは、日本では2011年に承認されています。任意の予防接種として乳児期に数回接種します。

●症状
潜伏期間は2~4日間で、ノロウイルスと同様に急な嘔吐や吐き気、下痢、発熱などの症状が引き起こされます。水様性の下痢がノロウイルスよりも長く続く傾向があり、時には白い便がみられることもあります。またノロウイルスは軽度の発熱で済むことが多いですが、ロタウイルスでは39℃を超える高熱が出る場合もあるようです。有効な抗ウイルス剤はなく、対症療法がとられますが、抵抗力の弱い乳幼児は重症化しやすく、けいれんや、肝機能異常、急性腎不全、脳症、心筋炎などの合併症を引き起こす恐れがあります。まれに死に至る場合もあるため、周囲が経過を見守ることが大切です。

熱を測る親子

ノロウイルスとロタウイルスの感染経路

ノロウイルスもロタウイルスも、ウイルス自体は非常に小さいですが、感染者の便や嘔吐物には大量のウイルスが含まれています。下痢便1g中に含まれるウイルスの数は、ノロウイルスが100万〜1兆個、ロタウイルスが1000憶~1兆個ともいわれるほどです。しかも、その感染力は非常に強く、どちらも10~100個程度のわずかなウイルスが口に入っただけで感染してしまうといわれています。

いずれのウイルスもヒトからヒトへ感染します。例えば、ウイルスの付いた手で調理をすることで、食材にウイルスが付着し、それを口にして感染するケースがあります。ほかには、嘔吐物が飛び散った飛沫を吸い込むことで感染したり、きちんと処理しきれなかった嘔吐物や便に含まれるウイルスが乾燥して空気中を漂い、それらを吸い込んだり手で触れたりして、体内に入ることでも感染してしまいます。感染者の看病をする人や、集団生活でトイレを多くの人と共有する場合は、特に注意が必要です。
なおノロウイルスの場合、牡蠣などの二枚貝が体内にウイルスを蓄積していることがあり、そういった食材を口にすることで感染するケースもあります。

感染性胃腸炎を予防するための方法

手を洗う子供

では、これらの胃腸炎を予防するには、どのような点に気を付ければよいのでしょうか。

●石けんによる手洗いを徹底する
手指を介した感染を防ぐためには、まず手指についたウイルスを除去することが重要です。正しい手洗いをマスターし、手指からの感染リスクを減らしましょう。

<手洗いの方法>
1. 腕時計や指輪など装飾品は外しておく
2. 十分に泡立てた石けんで、手の甲や指の間、手の平、手首まで、手全体をすみずみまで洗う
3. 温水でしっかりと洗い流す
4. 清潔なタオルか、ペーパータオルで十分に水気を拭き取る

ポイントは、石けんを十分に泡立てて洗うこと。石けん自体にウイルスの感染力を失わせる効果はありませんが、手の脂肪などの汚れを落とすことで、ウイルスをはがれやすくしてくれます。手の平のシワまで届くように、しっかり泡立てましょう。またトイレの後や、嘔吐物や下痢便を処理した後などには、2回続けて行うとより効果的でしょう。

手の水気をしっかり拭き取った後にアルコール消毒をすれば、さらなる感染予防が期待できます。手洗い後にアルコール消毒をするのが一番効果的ですが、手洗いができない場合には、アルコール消毒のみでも多少の除菌が可能です。ただし、アルコール消毒のみの場合は、ウイルスが手に残る可能性も頭に留めておきましょう。

●食品は十分に加熱し、調理器具は消毒を行う
牡蠣やアサリなどの二枚貝を食べる際には、中心部が85~90℃の状態で、90秒間以上加熱してください。また、食品を扱った包丁やまな板などにもウイルスが付着している可能性があります。可能であれば、生もの専用の調理器具を用意するとよいでしょう。使用後は、洗浄と消毒を行います。加熱できる場合は、85℃以上の熱湯で1分間以上の加熱を。加熱できない場合は、0.02%の濃度に希釈した次亜塩素酸ナトリウムを布やスポンジにつけて、浸すように拭きましょう。

●感染者の吐しゃ物を適切に処理する
先にも紹介したように、感染者の嘔吐物や便には大量のウイルスが含まれているため、慎重に、適切に処理することが必要です。処理する前には必ず、ビニール手袋やマスク、エプロン、足カバーなどを身に着け、ウイルスが付着しないように身なりを整えてください。吐しゃ物はペーパータオルを使って、すべて取り除きます。また、吐しゃ物が付いた床や壁などは0.1%濃度の次亜塩素酸ナトリウムを使って消毒を行いましょう。処理が完了したら身に着けていたものや、使用したペーパータオルなど、すべてをゴミ袋に入れて、消毒液をかけて殺菌します。最後に、必ず手洗いとうがいを行ってください。

まとめ

冬場に流行するノロウイルスやロタウイルスによる感染性胃腸炎。ノロウイルスの流行のピークと入れ替わるように、春先から流行り出すのがロタウイルスだといわれています。抵抗力の弱い乳幼児の場合は、重症化するケースもみられるため、感染が疑われる場合は早めに医療機関を受診しましょう。

 

木村医師よりコメント

ロタウイルスは主に子どもの感染症です。一方ノロウイルスは大人でも高頻度にみられる胃腸炎です。流行する時期としては11月頃からノロウイルス、2月頃からロタウイルスと冬場は感染性胃腸炎のリスクが高いといえます。特に4歳以下の子どもの場合、ロタウイルスは高熱を伴い重症化しやすいため、注意する必要があります。いずれも特効薬はありません。胃腸炎になってしまった場合には、脱水に十分に気をつけて症状が落ち着くまでゆっくり療養してください。

監修者

医師:木村眞樹子

都内大学病院、KDDIビルクリニックで循環器内科および内科として在勤中。内科・循環器科での診察、治療に取り組む一方、産業医として企業の健康経営にも携わっている。総合内科専門医。循環器内科専門医。日本睡眠学会専門医。ビジョントレーニング指導者1級資格。

 

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