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【医師監修】感染力が強いノロウイルスの猛威に注意!

2022.11.28| 感染症・消毒

冬場に突然、吐き気や嘔吐、下痢の症状に見舞われると、まず疑われるのがノロウイルス感染症。家族の一人が感染すると、その1、2日後には他の家族にも似たような症状がみられた……という経験がある人も多いのではないでしょうか。その感染力の強さから、毎冬のように集団感染が発生したニュースも耳にします。今回は、そんなノロウイルスの感染力の強さと、予防・対処法についてみていきましょう。

感染力の強いノロウイルス

腹痛に苦しむ女性

乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層で流行するノロウイルス感染症。1、2日ほどの潜伏期間を経て、突発的な吐き気や嘔吐、腹痛、水様性の下痢などの症状が起こります。発熱は約37~38℃の軽度で済むケースが多く、水様性の下痢は2、3回で治まるのが一般的です。しかし重症化すると一日に十数回下痢をすることもあるため、幼児や高齢者が感染した際は、脱水症状に気を付ける必要があります。

ノロウイルスの特徴として知られるのが感染力の強さです。ノロウイルスは非常に小さいウイルスであるうえ、10~100個程度というわずかな量が体内に侵入するだけでも感染・発症してしまうとされています。人の腸管内で増殖したノロウイルスは、感染者の便や嘔吐物から排出されますが、そこには大量のウイルスが含まれており、下痢便1g中には100万~10億個ものウイルスが存在するといわれるほどです。そのうえ、ノロウイルスは乾燥に強く、自然環境下でも一定期間の生存が可能です。つまり、大量に排出されるウイルスのうち、ごくわずかな量が手や体に付着し体内に入っただけでも、容易に二次感染する恐れがあるのです。

●無症状の感染に要注意!
ノロウイルスが流行を広げる要因には、感染力の強さに加えて、感染しても嘔吐や下痢などの症状が出ない「不顕性感染」というケースがあることも考えられます。この場合、症状はみられないものの、感染者の便に大量のノロウイルスが含まれていることに変わりはありません。嘔吐や下痢などの症状からノロウイルスへの感染に気付くことができれば、二次感染を広げないように適切な対応を取れますが、症状がみられず感染に気付かなければ、感染者は無自覚にウイルスを排出してしまうのです。こういった不顕性感染者が少なくないことも、ノロウイルスが流行を引き起こす理由となっています。

ノロウイルスの感染経路

牡蠣

ノロウイルスへの感染を予防するには、まずはその感染ルートをきちんと把握することが重要です。ほとんどの場合は経口感染によるものですが、そのルートは「食べ物からの感染」と「人から人への感染」の大きく2つがあります。

●食べ物からの感染
ノロウイルスに汚染された食品を口にすることで感染します。特に牡蠣などの二枚貝による感染が有名で、ノロウイルスに汚染された二枚貝を生、または十分に加熱せずに食べることが原因です。また、ウイルスに汚染された食品を扱ったまな板や包丁、ボウルなどの調理器具を介して感染することもあります。

●人から人への感染
ノロウイルス感染者の便や嘔吐物から排出されたウイルスが物や手に付着し、それを介して人の体内に侵入することで感染します。たとえば、トイレでの排泄時にウイルスがドアノブや便座に付着したり、感染者の嘔吐物を処理する際に手に付いたりして、その手指で調理・食事をすることで感染するケースが多くみられます。
ほかには、ウイルスを含んだ嘔吐物が飛び散り、その飛沫を吸い込むことで感染したり、取り残された嘔吐物が乾燥して塵やホコリと一緒に舞い上がり、それを吸い込んだり手で触れたりして最終的に体内に入ることでも感染します。

ノロウイルスの感染を予防するには

手を洗う女性

今のところ、ノロウイルスの感染を予防するワクチンは開発されていません。そのため、感染を防ぐには手洗いや殺菌消毒を徹底し、感染経路を断つことが基本となります。

●食品は加熱し、調理器具も熱湯消毒
ノロウイルスに汚染された食品は、中心部を85~90℃以上で90秒以上加熱すればウイルスを失活化させることができます。特に二枚貝を食べる際は、生食を避け、十分に加熱するようにしましょう。また、二枚貝などを扱った調理器具も、使用後は熱湯で消毒するように心がけてください。

●トイレ後・食事前は念入りな手洗い
トイレの後や、感染者の嘔吐物を処理した後は、石けんを十分に泡立てて1分間を目安に手をもみ洗いし、温水でしっかりすすぎます。感染者とのタオルの共用は避け、清潔なタオルやペーパータオルで拭き取りましょう。石けん自体にノロウイルスを失活化させる効果はありません。しかし、ウイルスを皮脂汚れとともに手指から浮かすことができるため、石鹸で泡立てから洗い流すことによって、ノロウイルスの除去が期待できます。

石けんと流水での手洗の上、アルコール消毒をするようにしましょう。
なお、手を洗う時はキッチンの流し台を使うのはなるべく避けてください。手指に付いていたウイルスが飛び散りキッチンが汚染されると、感染が広がるリスクが高まります。

●こまめなトイレ掃除・消毒
感染者と共用するトイレは、排泄物が飛び散っている可能性があるため感染源になりやすい場所です。掃除、殺菌消毒をこまめに行いましょう。特に便座や便器のふた、手すりや水道の蛇口、トイレの床やドアノブなどは、ウイルスが付着している可能性が高いです。塩素系漂白剤を水で薄めたものなど、失活化が期待できる薬剤で消毒してください。

●調理従事者は衛生管理を徹底
食品に触れる機会の多い調理従事者は、日頃から衛生管理に注意を払うことが必要です。調理前には手洗いを徹底し、調理をする際はエプロンやマスク、手袋を着用するなど、自身の感染や二次感染を起こさないように気をつけましょう。
万が一、下痢や風邪に似た症状が現れた場合は調理作業を控え、職場の責任者に速やかに報告して指示を仰ぎましょう。

ノロウイルスに感染した時の対処法

現段階では、ノロウイルスに有効な抗ウイルス薬はありません。発症した場合には一般的に、吐き気止め、整腸剤、解熱剤など症状に合わせた薬を用いて「対症療法」を行うのが一般的です。吐き気止めは、何度も嘔吐が続いたり、ムカムカした吐き気が続いたりする場合に使いましょう。嘔吐や吐き気を落ち着かせることで、水分補給が可能になります。

下痢が長引く場合には下痢止め薬を処方されることがありますが、自己判断での使用は好ましくないとされています。というのも、ウイルスを体内に多く留めたまま下痢を止めてしまうと、かえってウイルスが体内で増殖を続け、症状を悪化させる可能性があるためです。下痢止め薬については医師による処方のうえ、服用するようにしましょう。

通常、嘔吐や下痢の症状は発症から1、2日で治まり、後遺症もみられません。ただし、嘔吐や下痢が続くと脱水症状を引き起こす恐れがあるので、可能であればこまめな水分補給を心がけましょう。特に、体力が弱く重症化しやすい乳幼児や高齢者が感染した場合は脱水症状を引き起こしやすいため、周囲が注意して見守ることが大切です。

まとめ

非常に感染力が強く、わずかな量のウイルスでも感染するノロウイルス。ワクチンや抗ウイルス剤がないため、感染を防ぐには日頃の手洗いや消毒をしっかり行うことが大切です。症状がみられなくても感染している場合は、自分が感染源となってしまうケースもあります。日頃から十分、衛生管理に努めるように心がけましょう。

木村医師よりコメント

ノロウイルスは、とても感染力が強いウイルスです。吐物の処理などを行う場合には、殺菌に注意しながら行う必要がありますが、放置することによってウイルスが霧散するため、早めに処理することも大切です。ノロウイルス感染がある場合には、他の方への二次感染の予防にも十分に意識しながら、療養していただければと思います。

監修者

医師:木村眞樹子

都内大学病院、KDDIビルクリニックで循環器内科および内科として在勤中。内科・循環器科での診察、治療に取り組む一方、産業医として企業の健康経営にも携わっている。総合内科専門医。循環器内科専門医。日本睡眠学会専門医。ビジョントレーニング指導者1級資格。

 

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