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ノロウイルスには乳酸菌が効く? 感染性胃腸炎に処方される薬と、乳酸菌との関係性について [ノロウイルスなど感染症予防について]

2022.11.28| 感染症・消毒

ノロウイルスによる感染性胃腸炎を発症すると、胃腸はダメージを受け、弱ってしまいます。一日も早く回復するには、医師の指示に従って正しく薬を用い、腸の状態を整えることが肝要ですが、この際力を発揮してくれるのが乳酸菌です。今回は、ノロウイルスに感染した時に処方される薬と、ノロウイルスと乳酸菌の関係性について解説します。

ノロウイルスに感染した際に処方される薬

ノロウイルスに感染して感染性胃腸炎を発症すると、激しい嘔吐や下痢、頭痛、腹痛、発熱などの症状に見舞われます。しかしながら、現段階ではノロウイルスそのものに有効な抗ウイルス剤はないため、病院などでは症状を和らげるための対症療法が行われることになります。この時処方される薬について、具体的にみていきましょう。

・吐き気止め
ノロウイルスによる感染性胃腸炎は、突然の嘔吐から始まると、発症から3~6時間程度の間は激しい嘔吐が繰り返されます。症状のピークさえ乗り切れば徐々に治まってきますが、食事や水分補給が十分にできない場合、脱水症状を予防するため吐き気止めを処方してもらうことがあります。嘔吐がひどく経口での服用が難しい場合は、座薬を処方してもらうこともあります。

・整腸剤(乳酸菌剤)
乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌を主成分とする薬で、腸内環境を整えてくれる効能があります。下痢を止める効果はありませんが、ノロウイルスによってダメージを受けた腸の状態を整えることで、腸の回復や下痢症状の緩和が期待できると考えられています。

・解熱剤
ノロウイルスに感染しても発熱するケースは少ないですが、抵抗力の弱い乳幼児や小児、高齢者においては、高熱に至ることもあるようです。顔色がよく、水分や食事が取れているようなら、熱が高くても解熱剤を使う必要はないと考えられていますが、顔色が悪く、ぐったりしている場合は、解熱剤で一時的に熱を下げることで体力も回復させることがあるようです。医師の指示に従って使用するとよいでしょう。

・下痢止め
ノロウイルスに感染すると激しい下痢が繰り返されますが、これはウイルスを体外へ排出しようとする体の防御反応です。そのため下痢止めを使って無理に下痢を止めてしまうと、ウイルスの排出が滞り、かえって回復が遅くなると考えられています。こういった理由から、基本的には下痢症状がつらくても、下痢止めが処方されることはありません。ただし、脱水症状を引き起こす危険性がある場合は、医師の判断により処方されることがあります。医師の指示に従って、適切に使いましょう。

ノロウイルスによる感染性胃腸炎には、特効薬はないものの、症状を緩和し、腸の状態を整えるためにさまざまな薬が処方されます。症状がつらくなければ無理に使う必要がないものがほとんどですが、整腸剤の服用は推奨されており、症状が落ち着いた後も飲み切るよう指示される場合が多いです。というのも、整腸剤の主成分は乳酸菌などの善玉菌であり、ノロウイルスによってダメージを受けた腸の回復を促す効果が期待されるためです。しかも近年の研究で、新たな治療の可能性も見えてきたそうです。続いて、乳酸菌とノロウイルスの関係について詳しくみていきましょう。

乳酸菌とノロウイルスの関係

乳酸菌とは

人間の腸内には多種多様な細菌が住んでおり、その中でも健康維持に貢献してくれる細菌のことを善玉菌といい、逆に、腸内環境を悪化させ、健康に悪影響を及ぼす作用のある細菌のことを悪玉菌といいます。乳酸菌は善玉菌の一種であり、炭水化物などに含まれる糖を消費して、乳酸や酢酸を産生する細菌の総称です。人間の腸内にも住んでおり、便を排出する腸のぜんどう運動を促すことで腸内環境を整える働きがあります。

この乳酸菌は、食べ物や飲み物から摂取することもできます。例えば、乳酸菌が豊富に含まれているものには、ヨーグルトやチーズ、バターなどの牛乳を発酵した食品のほか、漬物、みそ、しょうゆなどの加工品があります。これらを通して乳酸菌を摂取することで、もともと腸内にいる乳酸菌や、そのほかの善玉菌を増やすことができるのです。善玉菌が増えると便通が改善されるだけでなく、病原菌を退治する免疫細胞が育ちやすくなり、免疫力も向上することがわかっています。そのほか、不眠の解消や生活習慣病の予防など、さまざまな効果が期待できると考えられていることから、健康促進を目的に、乳酸菌を含む食べ物や飲み物を摂取することが推奨されているのです。

ノロウイルス感性症に対する乳酸菌の治療の可能性

乳酸菌には腸内環境を整える働きがあり、それにより、さまざまな恩恵が得られることがわかりましたが、その働きはノロウイルス感染時にも期待できるようです。ノロウイルスに感染すると腸は弱った状態になりますが、そこに乳酸菌を摂取することで、ダメージを受けた腸の状態を整え、その回復を促すことが期待できるのです。さらに近年の研究では、ある種の乳酸菌によるノロウイルス感性症に対する新たな治療の可能性もみえてきました。

その乳酸菌とは、生きたまま腸まで届くといわれている、乳酸菌シロタ株です。ある研究において、乳酸菌シロタ株をノロウイルスに感染した高齢者に数日間摂取してもらったところ、摂取していない高齢者の感染者と比較し、嘔吐や下痢症状の日数は変わらなかったものの、発熱日数は短縮傾向にあることが明らかになりました。さらに、高齢者がノロウイルスに感染すると、嘔吐によって誤嚥性肺炎を引き起こすケースが多いため、抗菌薬を用いて予防・治療を行いますが、乳酸菌シロタ株を摂取した感染者は、抗菌薬を用いることなく、誤嚥性肺炎を抑えることができたそうです。現段階では、乳酸菌シロタ株のどのような特徴がこの結果に起因したのかは解明されていませんが、高齢者がノロウイルスに感染した際の重篤化を防ぐという点では一定の効果が得られると期待されています。

乳酸菌でノロウイルスは予防できる?

ノロウイルスに感染した場合、乳酸菌を摂取することで腸の回復が促されるといえそうです。しかも先に解説した通り、乳酸菌には免疫力を向上させる作用もあるため、ノロウイルスの感染予防にも有効と考えられます。ただし即効性はないため、毎日継続して摂取する必要があります。ノロウイルスの流行期には、乳酸菌が含まれたヨーグルトなどの発酵食品を、毎日続けて摂取しましょう。

より予防効果を高めたい場合、ラクトフェリンが配合されたヨーグルトがオススメです。ラクトフェリンとは、母乳などに含まれるたんぱく質の一種で、免疫力の調整機能や、抗ウイルス作用などがあることから、ノロウイルスの感染予防にも効果が期待できるといわれています。ヨーグルトを毎日食べるのが難しい場合は、ラクトフェリンのサプリメントを利用するのもいいでしょう。

まとめ

ノロウイルスに対する抗ウイルス剤はまだないものの、嘔吐や発熱などのつらい症状を緩和してくれるさまざまな薬はあります。これらは医師の指示に従って正しく使用する必要があるため、市販薬を安易に使うことは避け、必ず医師に処方してもらうようにしましょう。また、整腸剤の主成分でもある乳酸菌は、弱った胃腸の回復を促してくれるだけでなく、予防効果も期待できると考えられています。ただし即効性はないため、継続して摂取することを心がけましょう。

木村医師よりコメント

ノロウイルス感染症を治療する薬はないため、胃腸炎の一番の治療は腸管安静と水分補給です。薬でできることは多少の症状緩和を促す程度ですので、個人的には、症状がつらいときに無理に病院を受診しなくていいと思っています。 また乳酸菌は、腸内環境を整えるのに良い作用をしてくれます。腸内環境を整えることは免疫力をあげることにもつながり、最近では腸内環境とアレルギーや、そのほか多くの病気との関係も指摘されています。日頃から乳酸菌の多い発酵食品を積極的に摂取するのもよいでしょう。もちろんそれだけではなく、腸内環境の改善と関連の深い睡眠や、運動など生活習慣にも気をつけてみてください。

監修者

医師:木村眞樹子

都内大学病院、KDDIビルクリニックで循環器内科および内科として在勤中。内科・循環器科での診察、治療に取り組む一方、産業医として企業の健康経営にも携わっている。総合内科専門医。循環器内科専門医。日本睡眠学会専門医。ビジョントレーニング指導者1級資格。

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