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57号 ムンプスのアウトブレイク
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米国のイリノイ大学にてムンプスのアウトブレイクが発生した1)。患者の殆どがMMRワクチン(Measles-Mumps-Rubellavaccine)を2回以上接種していたにもかかわらず、ムンプスの伝播が継続したため、3回目の接種が推奨された。その詳細を紹介する。

アウトブレイクの検知

2015年4月15日、大学健康センターは4月9日に始まる発熱と耳下腺炎の21歳の男子を保健所に報告した。ムンプスが疑われたが、確定検査は実施されなかった。その後の2週間で、5人のムンプス疑い症例が発生した。各々の患者はムンプスの検査確定なしで耳下腺炎と診断されている。ムンプス疑いの患者すべてがMMRの2回接種を受けていた。2015年5月1日、7人目の症例が州の保健所検査室にて実施された頬スワブのrRT-PCRによってムンプスが確定された。これまでの6人の疑い症例は確定症例と同じ大学プログラムに疫学的に関連していたため、保健所は大学においてムンプスのアウトブレイクが発生していることを確定することができた。

経過1

保健所から大学の健康センターに推奨されたアウトブレイクの制御策には標準予防策および飛沫予防策が含まれた。そして、発症した学生には感染性期間(耳下腺炎の発症の2日前から5日後まで)は帰宅するように指導されるか、代替の住宅が提供された。MMRの2回の接種を確認するためにムンプス患者の接触者が同定され、十分な接種がなされていなければ、感受性のある濃厚接触者にはワクチン接種が推奨された。

図 イリノイ大学のシャンペーン・アーバナ地区のキャンパスでのムンプスの確定例および可能性例(N=317)の発生数(発症した月別)-2015年4月~2016年5月

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経過2

大学の接種記録がレビューされ、2回のMMR接種の実施率が全学生で>97%であることが推定された。高い2回接種率および夏季学期でのキャンパスの学生人口の減少にもかかわらず、ムンプス患者は発生し続けた[図]。7月31日までに、合計70症例が報告された。

8月4日、保健所および大学健康センターは全学生および1957年以降に生まれたスタッフに追加のMMRを接種することを推奨した2)。約5万人の学生とスタッフがこの介入の対象となった。8月6日~27日に、合計8,200回のMMRが大学キャンパス内の5カ所の接種クリニックにて接種された。
夏季にキャンパスに住んでいない学生およびスタッフにも追加接種され、彼らは学校に戻る前に接種することを促されていた。

患者の内訳

最終的に2015年4月9日~2016年5月27日の期間に発症した可能性例および確定例の317人が同定された。100人(32%)がrRT-PCRにて検査確定され、217人(68%)が可能性例として分類された。症例の年齢範囲は16~55歳であり、年齢中央値は20歳であった。22人(7%)の患者は救急外来にて評価され、3人(1%)は入院した(1人は髄膜炎治療のため、1人は髄膜炎の除外のため、1人は耳下腺炎の疼痛管理のため)。2人(1%)は精巣炎を経験したが、死亡者はいなかった。
4症例の検体がCDCにて遺伝子タイプされ、全てがムンプスの遺伝子型Gであった。そして、全症例は疫学的に大学と関連していた。278人(88%)は学生であり、3人(1%)はスタッフであった。36人(11%)は大学に関連しない人であったが、彼らは大学学生もしくはキャンパスに接触していた。

ワクチン接種の回数

同定された317症例のなかで、耳下腺炎の発症時、50人(16%)はMMRの3回接種を受けており、232人(73%)が2回、12人(4%)が1回、7人(2%)が未接種、16人(5%)が接種状況不明であった。3回接種した50人の患者のうち45人(90%)がこのアウトブレイク期間に接種され、5人(10%)がこのアウトブレイクに関連しない理由のために前年に接種されていた。このアウトブレイクの期間に3回接種をうけた45人のうち数人はワクチンに誘導される免疫がブーストされる前に曝露したのかもしれない。45人のうち11人(24%)が3回接種の同日もしくは2週間以内に耳下腺炎を発症し、6人(13%)が2~4週以内、27人(60%)が4週以降に発症した。1人(2%)は耳下腺炎の発症後3日で3回接種をうけた。

アウトブレイクとMMR 3 回目接種

現在、2回のMMRがムンプスの予防に推奨されている。1回目は生後12~15ヶ月、2回目は4~6歳である。ムンプスに対するワクチンの有効性の中央値は1回で78%、2回で88%と推定される。しかし、2回のワクチンでの効果不十分およびワクチン誘導免疫の減弱が最近のアウトブレイクで記述されており、特に、混んだ濃厚接触の環境でみられる。高い2回接種率にもかかわらず、アウトブレイクが発生するので、3回目接種が過去のアウトブレイクにおいて提供されてきた。

3回のMMR接種についての正式な勧告は存在しないが、CDCはムンプスのアウトブレイクの期間の制御策として考慮してもよいというガイドラインを提供している2)。推奨のきっかけとなる因子には「2回のMMR接種率が>90%の集団である」「大学のような濃厚曝露環境である」「2週間を越えても伝播が続いている」「高い罹患率(1,000人当たり>5症例)である」が含まれる。今回のアウトブレイクのように、大学の学生における高い2回接種率にも拘わらず、伝播が続いているという事実は3回目のMMR接種を推奨する判断を支持している。

このようなCDCガイドラインの基準2)に合うことに加えて、下記の2つの重要な点がMMRの3回目の推奨を支持した。

  1. このアウトブレイクはイリノイ州でのムンプスの典型的な季節的な傾向に従っていなかった。通常、ムンプスは冬季後半や春に発生のピークが来る。夏季の月まで伝播が継続していることは心配であった。この時期はキャンパスでの高密度の濃厚接触の環境が軽減しているからである。実際、2015年の学生の登録は春学期の41,497人から夏の11,684人に減少しており、減少率は72%であった。
  2. 2015年秋の学期に戻ってくる学生の数が多いことが推測される。その結果、キャンパスでの集団濃度が増加し、曝露の機会を提供するであろう。多くの学生が大学の宿舎のような濃厚に密集する環境に戻るであろうし、大きな社会的イベントが学期早期に多く開催されるであろう。そして、感受性のある人が集団に加わるであろう。

文献

  1. CDC. Mumps outbreak at a university and Recommendation for a th ird dose of Measles-Mumps-Rubella Vaccine -Illinois,2015-2016
    http://www.cdc.gov/mmwr/volumes/65/wr/pdfs/mm6529a2.pdf
  2. Fiebelkorn AP , et al. Mumps[Chapter9]. In : VPD surveillance manual. 5 th ed. Atlanta, GA : US Department of Health and HumanServices, CDC ; 2012.
    http://www.cdc.gov/vaccines/pubs/surv-manual/chpt09-mumps.pdf

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長