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54号 米国感染症学会および米国医療疫学学会の抗菌薬スチュワードシッププログラム
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米国感染症学会および米国医療疫学学会が抗菌薬スチュワードシッププログラムのガイドライン 1)を公開した 。ガイドラインは 28件の推奨をしているが、 そのなかから、抗菌薬スチュワードシップの定義および重要な推奨 4 件を紹介する。

抗菌薬スチュワードシップの定義

米国感染症学会および米国医療疫学学会は抗菌薬スチュワードシップの定義を 「抗菌薬の投与量、投与期間、投与経路を含めた最適な抗菌薬レジメの選択を促進することによって、抗菌薬の適正使用を向上および評価するためにデザインされた協調的な介入」とした 2)。抗菌薬スチュワードシップの利点には患者の予後の改善、 クロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI:Clostridium difficile infection)などの有害事象の減少、抗菌薬感受性率の向上、医療の継続における資源活用の最適化などが含まれる。

推奨:事前許可制と事後届出制(監査とフィードバックを伴う)が推奨される

「事前許可制(preauthorization)」と「事後届出制(監査とフィードバックを伴う) [ Prospective audit and feedback ]」は抗菌薬の使用を向上させる 。そして、それらは抗菌薬スチュワードシッププログラムの主要な構成要素でもある。

「事前許可制」は特定の抗菌薬について、処方前に許可を得ることを医師に求めることによって抗菌薬の使用を向上する戦略である。 事前許可制は 、 制限された抗菌薬の使用をかなり減少させ、関連費用を減らすことができる。そして、抗菌薬耐性(特にグラム陰性菌)も減少させるが、患者には有害事象はみられない。事前許可制を実施するときには、考慮すべきいくつかの要因があり、特に、許可する人の手腕は重要である。

「事後届出制(監査とフィードバックを伴う)」は抗菌薬を処方したあとに供給者に連絡する介入である。事後届出制もまた、患者予後に悪い影響を与えず、抗菌薬使用を向上させ、抗菌薬耐性を減らし、CDI率を減らすことが示されている。例えば、市中病院において臨床薬剤師および感染症科医師によって実施された事後届出制は注射用広域抗菌薬の使用を 22%減少させ 、7 年間にわたってCDI率および抗菌薬耐性腸内細菌科細菌による院内感染を減らした。

推奨:ハイリスクのCDIを減らすために、抗菌薬スチュワードシップの介入を推奨する

ハイリスクのCDI に関連する抗菌薬の使用を減らすためにデザインされた抗菌薬スチュワ ードシップの介入を推奨する。 CDI を低減するという目標はすべての抗菌薬スチュワードシッププログラムにおける最優先事項である。抗菌薬スチュワードシッププログラムは病院発症のCDI を減らすことが示されているが、主な介入はクリンダマイシンや広域抗菌薬(特にセファロスポリン)、フルオロキノロンのようなハイリスク抗菌薬の減少である。

既に、抗菌薬スチュワードシッププログラムの実施によって、院内感染CDI 率が突然もしくは直線的に減少することが示されている(それは 7 年間、維持された)。 感染対策を単に強化するだけではCDI 率は減少しないが、第二および第三世代セファロスポリン、クリンダマイシン、マクロライド、フルオロキノロンの使用を減らすための抗菌薬スチュワードシップを実施したところ、CDI 率が減少したという報告がある。

推奨:初期治療として、そして、注射用抗菌薬からの切り替えとして、経口抗菌薬を使用することを推奨する

「初期治療として経口抗菌薬を適切に使用すること」および「抗菌薬を注射薬から経口薬に適時に移行すること」を促進するための抗菌薬スチュワードシッププログラムを推奨する。経口抗菌薬の適正使用のためのプログラムは抗菌薬の有効性および安全性を損なうことなく、医療費および在院日数を減らすことができる。そして、同じ抗菌薬の注射薬から経口薬への切り替えは、多くの医療施設で可能である。このようなプログラムの実施は日常的な薬剤活動に取り込むべきである。血管内カテーテルの必要性を減らすため、および外来での注射療法を減らすために、経口薬による治療を安全に完了できる患者を評価するためのプログラムも実施すべきである。

推奨:感染症が疑われるICUの成人では、抗菌薬の使用を減らすためにPCT(プロカルシトニン:procalcitonin)の連続測定を実施することを支持する

欧州での無作為試験では ICU でのPCTアルゴリズムの実施によって抗菌薬の使用が減少しているが、抗菌薬の処方のパターンおよびスチュワードシップへのアプローチが異なる米国を含む他の地域では同様のデータはない。これを実施するならば、 PCT の結果を適切に解釈および反応できるように医師をサポートするためのプロセスとガイドラインを発展しなければならない。

PCT は「①細菌感染のための抗菌薬治療の期間を PCTの連続測定に基づいて短縮する」「② PCT値が低値であるときに、抗菌薬治療を開始することを避ける」という役割について評価されてきた。ICUの重症患者において抗菌薬治療を終了するかどうかの判断に、PCTが使用できることを支持している複数の研究がある。一般に、PCTに誘導された抗菌薬治療の中止を評価している研究では、抗菌薬の効果不十分や死亡率の増加なく、PCT群で抗菌薬フリーの日が増えることを報告している(2 ~ 4 日)。重症セプシスもしくはセプティックショックの重症 ICU患者のみに焦点を当てた研究でも、28日目の死亡率もしくは入院死亡には有意な差はみられず、そして PCT誘導による抗菌薬治療の期間が約 2 日(中央値)減少したことを報告している。

文献

  1. Barlam TF, et al. Implementing an antibiotic stewardship program : Guidelines by the Infectious Diseases Societ of America and the Society for Healthcare Epidemiology of America
    http://cid.oxfordjournals.org/content/early/2016/04/11/cid.ciw118.full.pdf
  2. Fishman N. Policy statement on amtimicrobial stewardship by the Society for Healthcare Epidemiology of America (SHEA), the Infectious Diseases Society of America ( IDSA), and the Pediatric Diseases Society ( PIDS) . Infect Control Hosp Epidemiol 2012; 33: 322‒7.

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長