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53号 米国感染症学会「カンジダ症の管理のための臨床実践ガイドライン」
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米国感染症学会が「カンジダ症の管理のための臨床実践ガイドライン」1)を公開しているので、感染対策に関連するところを抽出して紹介する。

[Q]カンジダ血症がみられる患者では中心静脈カテーテルを抜去すべきか?

[A]好中球減少のない患者では抜去すべきである。好中球減少のある患者では必ずしも抜去することはなく、個々の状況で判断する。

[根拠]

カンジダ血症がみられる患者において、中心静脈カテーテルを抜去すべきかどうかは、患者の好中球が減少しているか否かで対応が異なる。

好中球減少のない患者では、中心静脈カテーテルはカンジダ血症の発症・持続の重要な危険因子となっている。実際、中心静脈カテーテルは、カンジダ血症を合併している好中球減少のない患者の少なくとも70%で留置されている。また、カンジダ血症の7件の研究についての最近の解析によると、カンジダ血症の治療期間のどこかのタイミングで、中心静脈カテ ーテルを抜去する方が生存に有利であることが観察されている。従って、好中球減少のない患者では、「①中心静脈カテーテルが感染源である可能性があり」かつ「②カテーテルが安全に抜去できるならば」迅速にカテーテルを抜去する。但し、これは患者ごとに個別に決定する。

一方、好中球が減少している患者では、カンジダ血症の主な感染源は中心静脈カテーテル以外であることが殆どであり、そして、その感染源は消化管であることが剖検研究によって明らかとなっている。そのため、カテーテルを抜去するかどうかは個々の条件に合わせて考慮することになる。但し、カンジダ・パラプシローシス(Candida parapsilosis)によるカンジダ血症では、中心静脈カテーテルが感染源である可能性が極めて高いので早期に抜去する。

[Q]呼吸器分泌物からカンジダ属が検出されたら抗真菌薬治療は必要か?

[A]呼吸器分泌物からカンジダ属が検出されても、通常、それは保菌を示唆している。従って、抗真菌薬による治療の必要性は殆どない。

[根拠]

カンジダ属が気道から分離されることは、ICUの患者、挿管患者、慢性気管切開の患者ではよく経験することである。そして、その殆どが気道の保菌を示しており、感染症ではない。
元々、カンジダ肺炎や肺膿瘍は極めて稀である。カンジダ属による肺炎は重症免疫不全患者に限定されており、それは血行性に肺に播種したものである。この場合、胸部のCTでは多発性の肺結節がみられる。 このようなことから、呼吸器検体からカンジダ属が分離されても、抗真菌薬は必ずしも必要ない。しかし、重症免疫不全患者では侵襲性カンジダ症の精査が必要となる。

[Q]カンジダ血症の患者では眼内炎についての眼科受診は必要か?

[A]カンジダ血症が確認されたら、好中球の減少のない患者では1週間以内に眼科受診とする。好中球減少のある患者では好中球が回復するまで待ってから、眼科受診とする。

[根拠]

眼内炎では通常は後房が巻き込まれているが、前房も巻き込まれることもある。視力の予後は発症時の視力障害および黄斑の巻き込みの程度に左右される。カンジダ属が血行性拡散を通じて、眼の後房に到達する内因性感染を引き起こすことがある。この場合、感染が脈絡網膜もしくは硝子体に広がり、硝子体炎に進展するような脈絡網膜炎がみられる。カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)は内因性眼内炎で最もよくみられる菌種であるが、カンジダ血症を引き起こすすべてのカンジダ属はこの合併症を引き起こすことができる。

従って、カンジダ血症の患者では、眼内炎を合併しているか否かの確認のために、好中球減少のない患者では1週間以内に眼底(散瞳)検査を実施すべきである。一方、好中球減少があると眼脈絡膜および硝子体の感染の眼科的所見が明らかでないことがあるので、好中球減少患者では好中球が回復するまで待ってから(回復後1週間以内)、眼科を受診する。

[Q]カンジダ尿がみられたらどうするか?

[A]症状がなければ保菌なので、尿道留置カテーテルを抜去するだけでよい。

[根拠]

カンジダ尿を呈することの多い患者には高齢者、女性、糖尿病、留置尿器具、抗菌薬投与、外科手術の既往などがある。症状がなければ、カンジダ尿の殆どは保菌である。このような場合、尿道留置カテーテルを抜去することでカンジダ尿の駆逐に十分である。そして、患者がカンジダ播種のハイリスクでなければ抗真菌薬による治療は推奨されない。ハイリスク患者には「好中球減少患者」「超低体重児(<1500g)」「泌尿器処置が予定されている患者」がある。

カンジダ尿がカンジダ血症の誘引になるかどうかについて、「カンジダ尿はカンジダ血症を引き起こさない」「カンジダ尿があると死亡率は高い」という一見相反する事実がある。複数の研究がカンジダ尿はカンジダ血症を引き起こさないことを示している。同時に、これらの研究はカンジダ尿がみられると死亡率が高いことも示している。しかし、カンジダ感染症を治療しても死亡率は改善しない。同様に、腎臓移植での前方視的研究でも、カンジダ尿のある患者では死亡率は高いけれども、治療は予後を改善しないことが示されている。すなわち、カンジダ尿の存在は基礎疾患が重症であることを示しているのであって、カンジダ尿が死亡を直接引き起こしていることはない。

好中球減少患者のケアをしている多くの医師は、カンジダ尿が侵襲性カンジダ症を示唆しているかもしれないとのことで、発熱とカンジダ尿のある患者を治療している。しかし、最近の研究によると、このような患者においてもカンジダ尿はカンジダ血症などの合併症を引き起こさなかったことが示されている。

症状のある患者についても、尿道留置カテーテルを抜去することが強く推奨される。一般に、カンジダの尿路感染症は2つの異なる経路によって発症する。カンジダ属による症候性尿路感染の発症は細菌性尿路感染と似ており、下部尿路系で始まって上行性感染としてみられる。この場合、膀胱炎や腎盂腎炎の症状がみられる。もう一つの感染経路はカンジダ血症の患者において血行性に腎臓に播種するといったものである。このような患者では尿路の症状はなく、カンジダ血症として治療される。

文献

  1. Pappas PG, et al. Clinical practice guideline for the management of candidiasis: 2016 Update by the Infectious
    Diseases Society of America.
    DOI: 10.1093/cid/civ933

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長