消毒薬の選び方

消毒剤の毒性、副作用、中毒

7.ポビドンヨード(Povidone-Iodine)

毒性

(単位:mg/kg)

    LD50
マウス 静脈 480
経口 8100
皮下 4100
ラット 静脈 640
経口 >8000
皮下 3450
  • ・ヒト最低中毒量(TDL0):3400mg/kg/24時間(皮膚)

生殖に及ぼす影響

  1. ポビドンヨードの2,10及び50mg/kg/dayを雌雄ラットの交配前と交配中及び雌ラットの妊娠初期に皮下投与し、親動物及び胎仔に及ぼす影響を検討した結果、無影響量は、親動物の一般毒性に関してはポビドンヨードの体内移行に基づく血清中の総ヨウ素量及び蛋白結合ヨウ素の増加を除けば2mg/kg/day、親動物の生殖能及び胚・胎仔に対しては50mg/kg/dayと推察された。
  2. ポビドンヨードの4,40及び400mg/kg/dayをラット胎仔の器官形成期に皮下投与して、母動物、胎仔及び出生仔に対する影響を検討した結果、無影響量は、母動物の一般毒性に対してポビドンヨードの体内移行に基づく血清中の蛋白結合ヨウ素の増加を除けば4mg/kg/day、母動物の生殖能に対して400mg/kg/day、胎仔及び出生仔に対して40mg/kg/dayと推察された。
  3. ポビドンヨードの5,20及び80mg/kg/dayをウサギ胎仔の器官形成期に皮下投与して、母動物及び胎仔に対する影響を検討した結果、無影響量は、母動物に対してポビドンヨードの投与に基づく血清中の総ヨウ素量及び蛋白結合ヨウ素の増加を除けば20mg/kg/day、胎仔に対して80mg/kg/dayと推察された。
  4. ポビドンヨードの6.25,50及び400mg/kg/dayをラットの周産期及び授乳期に皮下投与し、母動物及び出生仔に対する影響を検討した結果、次世代に対するポビドンヨードの無影響量は6.25mg/kg/day、また、母動物に対するポビドンヨードの無影響量は6.25mg/kg/day未満と結論された。

副作用

甲状腺機能障害・ヨウ素値上昇

妊婦へ頻回使用(膣の消毒など)したり、また過剰に摂取するとき胎児や新生児に甲状腺機能低下症が生じる。

  1. 31歳、男性。成人アトピー性皮膚炎の治療として、ポビドンヨードの原液又は希釈液を1日4回顔面、体幹及び四肢に塗布し、数分後に洗い流していたところ、治療開始約2年後より高ヨード血症が生じた。
  2. アトピー性皮膚炎児に対し1日1回のポビドンヨードの全身浴を開始した。治療開始約2週後の血液検査にて、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の著明な上昇が認められた。
  3. 妊娠末期・授乳中にポビドンヨード咽頭スプレー剤を多用した母親の児に、ヨード過剰による新生児一過性甲状腺機能低下を認めた。
  4. ポビドンヨード膣内消毒を受けた母体より出生した児33例中2例(6%)に一過性甲状腺機能低下が発症した。
  5. ポビドンヨードを膣内に使用し、ヨウ素が乳汁中に移行。乳汁中の総ヨウ素値が一過性に上昇した。
  6. ポビドンヨードを膣内に使用し、血中総ヨウ素値及び血中無機ヨウ素値が一過性に上昇した。
  7. ヨード含有含嗽剤連用により甲状腺中毒症を起こした。
  8. 新生児に使用し、一過性の甲状腺機能低下を起こした。

ショック

  1. 10歳未満、女児。小児脳性麻痺患者の術野消毒に10%ポビドンヨードを使用したところ、消毒部位である下肢全体に蕁麻疹がみられ、その後全身の紅潮、血圧低下、気道狭窄が出現。大量のポビドンヨード塗布によるアナフィラキシーショックと推定される。
  2. 20代、女性。流産後のMRSA膣内・子宮内感染症に対してポビドンヨードで膣内消毒を行ない、血圧低下、呼吸苦などのショック症状が出現した。
  3. 71歳、女性。膣部をポビドンヨード液で消毒。2分後皮疹が広がり、収縮期血圧と心拍数が低下し、消毒6分後に心停止となった。

代謝性アシドーシス

熱傷患者に使用し代謝性アシドーシスが起こった。

急性腎不全

65歳、男性。熱傷患者の創傷感染症に対し、10%ポビドンヨードゲルの塗布を1日1回270g同部位に行なった。治療開始16日後に突然不穏様の症状を呈し、高度徐脈、血圧低下、腎不全が出現し、症状出現3日後に死亡した。血清総ヨード量:20600µg/dL(正常域 4~9µg/dL)

接触皮膚炎

  1. 47歳、男性。右手首の擦過創をポビドンヨードで消毒していたところ、創部は次第に潰瘍化し、周囲にびらんの多発、右前腕全体に掻痒を認めた。
  2. 52歳、女性。両下腿潰瘍に対しポビドンヨードにて治療中、徐々に潰瘍の拡大を認めた。
  3. 2歳、女児。手術直後に、駆血帯の下に巻いた原綿に付着した10%ポビドンヨードによって化学熱傷を経験した。
  4. 15歳、男児。アトピー性皮膚炎患者の湿疹にポビドンヨードを塗布し、四肢の発赤、手掌の浮腫性紅斑が出現した。その後の使用継続により、症状は増悪し全身へ拡大、発熱も認められた。
  5. 手術や検査後3日以内に背~臀~大腿周囲に限局性の浸潤性紅斑を生じた例を10例経験した。皮膚消毒に用いたポビドンヨードが拭き取られずに、術後長時間皮膚に付着していたことによる一次刺激性の接触皮膚炎である。うち一例はヨードアレルギーであった。
  6. 26歳、男性。左側頬骨弓陥没骨折によりその創内をポビドンヨードにて洗浄した直後から顔面、頸部に著しい浮腫を生じた。
  7. 1歳、男児。手術前に大量に使用し、背部に貯留した液状のポビドンヨードに長時間接触したことにより、背部・臀部に化学熱傷を生じた。
  8. 47歳、男性。外傷による左手第5指挫創にポビドンヨード消毒を長期間続け、難治性潰瘍を形成した。
  9. 10%ポビドンヨードによる接触皮膚炎の3例。使用後掻痒感のある皮疹、紅斑などの出現を認めた。
  10. 65歳、男性。ヨウ素による全身性接触皮膚炎としての紅皮症を認めた。
  11. 10歳、男児。精巣固定術の術中、10%ポビドンヨードを使用。手術2時間後に術創部に疼痛を伴う紅斑を認め、翌日、水疱と潰瘍を形成した。

誤嚥による肺障害

  1. 3歳、女児。扁摘アデノイド切除術時、口腔内に用いたポビドンヨードの誤飲により肺障害をきたし、重篤な呼吸不全を呈した。
  2. 20歳、女性。顔面手術の際、口腔内の消毒に用いた0.2%ポビドンヨードを誤嚥し、重篤な肺障害をきたした。
  3. 6歳、女児。口蓋裂術前処置の口腔内消毒に10%ポビドンヨードを使用した際に、気管内に吸引したため急性肺水腫をきたした。
  4. 17歳、女性。経蝶形骨洞下垂体腫瘍摘出術を受け、口腔内を0.7%ポビドンヨードで消毒する際、気管内チューブのカフ漏れがあり、誤嚥により重篤な肺障害をきたした。

中毒症状

(安全性が高いため、通常の誤飲程度では問題がない)

大量に経口した場合

  • 局所刺激作用による悪心、嘔吐、胃痛、血性下痢
  • 特異体質者ではヨード疹などの過敏症状、掻痒感、灼熱感
    (嚥下した場合、消化管内の食物と結合して不活性になる。遊離のヨウ素は、消化管から吸収されることは少ない)

処置法

大量に経口した場合

  1. 催吐又は胃洗浄
    1%バレイショデンプン液で行う
    1%チオ硫酸ナトリウム液、牛乳、卵白でもよい(直ちに使用できない場合は微温湯でも可)

    <胃洗浄できない場合>
    3%バレイショデンプン液500mLを数回に分割して経口投与する
  2. 拮抗剤投与
    1%チオ硫酸ナトリウム液100mLを経口投与する
  3. 輸液投与
  4. 対症療法