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【医師監修】飲食店従業員がノロウイルスに感染したら仕事復帰はいつからできる? [ノロウイルスなど感染症予防について]

2022.11.28| 感染症・消毒

報告されているだけでも、国内で年間15,000人前後が発症している食中毒。そのうち約半数はノロウイルスが原因だといわれています。流行のピークを迎える冬場には、飲食店で集団感染がみられたというニュースを耳にすることもありますが、もし飲食店で働く人がノロウイルスに感染してしまったら、どのような対応が求められるのでしょうか。今回は、飲食店従業員がノロウイルスに感染した場合の就業規則について、また、対応や対処法について紹介します。

出勤について法律での取り決めは?

一般的に、企業において勤労者がノロウイルスに感染した場合、出勤停止の有無や期間について定める法律はなく、職場での対応は就業規則が優先されます。就業規則に取り決めがない場合は、嘱託医や受診した医師の指示のもと、職場の責任者が判断することになりますが、その際、職場での感染を防ぐ上で1つの目安とされるのが学校保健安全法です。学校保健安全法では、ノロウイルス感染症による下痢や嘔吐の症状が治まるまで欠席する必要があり、校内での流行が懸念される場合は学校長の判断によって出席停止となります。

飲食店従業員の場合は出勤停止の可能性も

しかしながら、飲食店をはじめ給食センターや病院内の厨房など、直接食品に触れる仕事に就いている人の場合は、厚生労働省の「大量調理施設衛生管理マニュアル」に基づいた対応が求められます。マニュアルでは、「下痢又は嘔吐等の症状がある調理従事者等については、直ちに医療機関を受診し、感染性疾患の有無を確認すること。ノロウイルスを原因とする感染性疾患による症状と診断された調理従事者等は、検便検査においてノロウイルスを保有していないことが確認されるまでの間、食品に直接触れる調理作業を控えるなど適切な処置をとることが望ましい」としています。そのため、ノロウイルスへの感染が疑われる場合は、すぐに職場の責任者に連絡を入れて医療機関を受診し、少なくとも下痢や嘔吐などの症状が治まるまでは出勤を控えましょう。また、症状が治まったとしても1~2週間はウイルスが便に排出され続けるため、感染を広げる可能性があります。検便で陰性が確認できるまでの間は調理作業を控えた方が賢明でしょう。

なお、調理に直接関わらないホールスタッフの対応については、特にマニュアルでは定められていませんが、職場での感染拡大を防ぐため、症状が治まるまでは出勤を控えるのが望ましいでしょう。復帰時期については責任者に確認してください。

飲食店でのノロウイルス感染経路は?

飲食店でのノロウイルスによる食中毒が発生する原因には、主に2つの感染経路が考えられます。

●ノロウイルスに汚染された食材から感染
よく知られているのは、牡蠣やアサリ、シジミなどの二枚貝による食中毒です。二枚貝はエサを食べるときに大量の海水も飲み込みますが、この時の海水がノロウイルスに汚染されていることがあります。二枚貝はノロウイルスを体内に蓄積するため、そうした二枚貝を人間が食べることで、ノロウイルスに感染してしまいます。また、ウイルスに汚染された食材を調理する際に、ウイルスが調理台や調理器具に付着することでも感染が広がります。

●ノロウイルスに感染した調理従事者を介して感染
調理従事者がノロウイルスに感染している場合、トイレでの排泄時や嘔吐物の処理を行った際などに手指にウイルスが付いてしまうかもしれません。手洗いが不十分なまま調理を行うことで、料理や食器にウイルスが付着し、感染を広げてしまう恐れがあります。

飲食店におけるノロウイルス対策のポイント

では、飲食店ではどのような対策を採るべきかみていきましょう。

●従業員の手洗いを徹底

手洗いは、手首から先についているノロウイルスを極力減らす一番効果的な方法です。調理前や料理を提供する前はもちろん、トイレに行った後も必ず行いましょう。常に爪は短く保ち、指輪を外して手を洗います。石けんを十分泡立てたら、ブラシなどを使用してすみずみまでしっかり洗いましょう。すすぎは温水による流水で十分に洗い流し、清潔なタオル、またはペーパータオルで水分を拭き取ってください。

石けんでの手洗いの後、アルコール手指消毒剤を使用するとより万全です。ノロウイルスの失活化に有効な塩素系消毒剤は、手指などに使用すると手荒れを引き起こす恐れがあるため、手指の保護の観点からも、アルコールを用いて消毒することが好ましいといわれています。

●食品の加熱処理

ノロウイルスはしっかり加熱すれば死滅させることができると考えられているため、食品の中心部を85~90℃以上で90秒間以上加熱するようにします。ノロウイルスに汚染されやすい二枚貝や、大勢に食事を提供する施設では、特に十分な加熱を心がけましょう。生食はできる限り避けるのが基本です。

●調理台や調理器具の消毒

ノロウイルスは、高温での加熱、もしくは次亜塩素酸ナトリウムによって失活化させることができます。調理器具などは洗剤で十分に洗った後、次亜塩素酸ナトリウムを用いた消毒液で浸すように拭きましょう。また、まな板や包丁、へら、食器、ふきん、タオルなどは、85℃以上の熱湯で1分間以上加熱することでウイルスが死滅します。

なお、二枚貝を取り扱う場合は、調理器具をその都度洗ったり、熱湯消毒したりして、ほかの食材の二次汚染を防止しましょう。なお、二枚貝専用の調理器具を用意するのもおすすめです。

●店舗のトイレの衛生管理

従業員同士の感染を防ぐために、日頃からトイレの清掃を徹底しましょう。便座はもちろん、手指が触れるドアノブやレバーなども忘れずに消毒します。合わせて、トイレに行く際はエプロンを外す、従業員同士のタオルの共用は避けるといった衛生管理も重要です。また、外部からの汚染を防ぐために客用とは別に従業員用のトイレを設置したり、定期的なトイレ清掃を習慣づけるためにチェック表を設けたりするなど、環境を整えておきましょう。

●従業員の健康チェック

下痢や嘔吐などの症状がみられる場合の勤務について、職場のルールを従業員が把握しておくことが大切です。また、調理従事者は日頃から自分の健康状態を把握し、症状がある場合は責任者にきちんと報告して指示を仰ぐように徹底しましょう。

もしもノロウイルスが店舗で発生したら

「店舗での飲食が原因で食中毒を引きこした」と客から連絡があった場合は、保健所に連絡する必要があります。客の飲食日時やメニュー、具体的な症状と発症日時、医療機関の受診の有無などを確認して、食中毒が疑われてから24時間以内に届け出るようにしてください。客がまだ医療機関を受診していなければ、原因の特定のために医師や保健所の判断が必要であることを説明し、受診を勧めましょう。

●保健所による調査・処分

食中毒の疑いが保健所に報告されると、保健所による厨房のふき取り調査や、従業員の手の細菌検査、検便などが行われます。場合によっては、商品の仕入れ状況や、店舗の調理マニュアルの提出などを求められることもあります。調査の結果、ノロウイルスによる食中毒だと正式に認定されれば、多くの場合は食品衛生法に基づいて3日間程度の営業停止処分または営業禁止処分を受けることになります。もし営業停止処分を受けることになれば、その期間中の売上がなくなるだけでなく、当分は客から敬遠される恐れもあります。

●客への損害賠償

さらに、飲食店で提供された料理が原因で食中毒を発症した場合、客は治療費や慰謝料を請求できることが法律で認められています。医療機関に支払った金額以外にも、通院にかかった公共交通機関の運賃やガソリン代、休業による損害なども請求できるため、1人あたり数万円に及ぶこともあります。パーティーや宴会など大人数への提供で食中毒が発症した場合は、その損害賠償金も高額になるため、閉店に追い込まれてしまうケースもあるようです。

このように、飲食店がノロウイルスの感染源になってしまうと、多くの客に迷惑をかけるだけでなく、店舗の経営にも影響が及ぶ恐れがあります。そのような事態を防ぐためにも、飲食店をはじめ調理に関わる職場では、ノロウイルスの感染経路を断ち切るように日頃から対策を徹底することが大切です。

まとめ

飲食店をはじめ、学校給食や施設の食堂などの調理従事者がノロウイルスにかかった場合は、厚生労働省が定めるマニュアルに添って対応する必要があります。下痢や嘔吐の症状が治まった後も、しばらくはウイルスが便に排出され続けるため、職場への復帰は責任者と相談の上、慎重に判断しなければなりません。飲食店が感染源にならないように、日頃から衛生管理を徹底しましょう。

木村医師よりコメント

飲食店でノロウイルス感染症が発生すると、営業停止を余儀なくされてしまいます。日頃から、食中毒の予防策を徹底するようにしてください。勤労者においては法律でノロウイルス感染症者の就業規則はありません。ただし食品衛生法では、食中毒が疑われた場合、24時間以内に届け出ることが義務づけられています。感染者が出た場合のフローについても日頃から確認しておくとよいでしょう。

監修者

医師:木村眞樹子

都内大学病院、KDDIビルクリニックで循環器内科および内科として在勤中。内科・循環器科での診察、治療に取り組む一方、産業医として企業の健康経営にも携わっている。総合内科専門医。循環器内科専門医。日本睡眠学会専門医。ビジョントレーニング指導者1級資格。

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