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【医師監修】ノロウイルスの治療で点滴は必須? 点滴の役割と効果について解説 [ノロウイルスなど感染症予防について]

2022.11.28| 感染症・消毒

毎年冬になると、発生件数が増えるノロウイルス。感染すると、24〜48時間の潜伏期間を経て、発熱や激しい吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などを発症します。多くは1、2日程度続いた後に自然治癒し、後遺症もありません。しかし、嘔吐や下痢の症状が激しい場合、脱水症状を引き起こすことがあり、場合によっては病院で点滴を受けることがあります。その際の点滴治療は、どの程度有効なのでしょうか?今回は、ノロウイルス発症時における点滴の役割と効果についてご紹介します。

ノロウイルスにかかった時の治療法は?

現段階では、ノロウイルスに直接有効なワクチンや特効薬はありません。そのため、病院などでは対症療法として、解熱剤や制吐薬(吐き気止め)、整腸剤などを用いつつ、経過を観察するケースが多いです。このほかに、下痢止め薬が処方される場合もありますが、下痢止め薬は体内にノロウイルスをとどめることになり、治癒を遅らせてしまう可能性があることから、自己判断での服用は控えた方がよいとされています。

また、嘔吐や下痢の症状が激しい場合、脱水症状に陥ることがあります。そのため、感染時には、塩分と糖分が含まれた経口補水液などでこまめに水分補給を行うことが重要と考えられています。症状によっては、医師の判断で点滴を行う場合もあります。

点滴の役割とは

●どんな時に点滴を行うのか

そもそも点滴を受けるケースとして、一般的には、症状が重篤な時や、緊急で対処が必要な時、栄養や水分の補充が必要な時など、直ちに処置を行ったり、薬の効果を発揮させたりする必要がある場合とされています。というのも点滴は、直接、血管に薬などを注入するため、薬の吸収率が高く、効き目も早いことが期待されているものです。医師は症状の度合いや、患者の体力、処置の緊急性などを考慮して、点滴を実施するかどうかを判断します。具体的に、点滴が行われることがあるのは以下のケースです。

<点滴が行われることがあるケース>
・脱水症状を起こしていて、大量の水分、電解質、糖液の投与が必要な時
・薬液の血中濃度を一定に保つことが必要な時
・手術前後、あるいは手術中、直ちに静脈路確保による薬剤投与が必要な時
・薬剤点滴が必要な疾患をすでに患っており、薬剤の持続的な投与が必要な時
・救急救命の際、薬剤投与のため、血管の確保が必要な時 など

●ノロウイルスで点滴を受けるケース

ノロウイルス感染時にも点滴を受けることがありますが、これは激しい嘔吐や下痢によって脱水症状を引き起こし、なおかつ口からの水分補給が困難な時に行われることが多いようです。特に小さな子どもや高齢者など、体力の低い感染者に対しては、点滴治療が施される場合があります。ただし、この場合の点滴は水分や栄養の補給をすることで、脱水による体調不良を緩和させ、身体のだるさを和らげるためのものであり、ノロウイルスそのものに直接有効な薬が含まれているわけではありません。そのため、点滴を打ったからといって、ノロウイルス感染症から回復するというわけではないのです。

基本的には口からの水分補給が可能であれば、点滴と同様の効果が期待できるとされる経口補水液などの摂取が推奨されます。点滴は、あくまでも緊急性や患者の体力などを医師が考慮した上で実施を判断するものであるため、ノロウイルスの症状が出て、病院に行ったからといって、必ずしも点滴を受けられるわけではないのです。

●点滴に要する時間と値段

いざ点滴を受けることになったら、どれくらいの時間がかかるものなのでしょうか。点滴の量にもよりますが、一般的に大人の場合、通常は数十分で終わることが多いようです。一方、子どもや高齢者の場合、体への負担を考慮し、ゆっくりと点滴が行われるため、数時間かかることもあります。時間がどれくらいかかるかは、受診の際、医師に確認してください。また、点滴の値段は医療機関によって異なります。診察前に料金を確認しておきましょう。

●点滴をした後の過ごし方

点滴後は、速やかに帰宅しゆっくり休養をとりましょう。水分補給が重要ですが、まだ吐き気が残っている場合、無理な飲食は避けましょう。嘔吐が落ち着き、口からの水分補給が可能になったら、経口補水液などを少量ずつ飲んでください。この時、一度にたくさん飲むのではなく、こまめに少しずつ飲むのがポイントです。その後、空腹感が出てきたら、うどんやおかゆなど、消化の良いものから食べ始めましょう。脂肪分の多いメニューや牛乳などは避けてください。症状をみながら、2、3日をかけて、元の食事量に戻していきましょう。

まとめ

ノロウイルスに感染し、嘔吐・下痢という症状に見舞われた場合、正しく水分を補給することと休養が何より必要です。体調が悪化し身体が衰弱すると、「まず点滴を」と誰しも思いがちですが、先に述べた通り、点滴は重症、かつ緊急性がある場合に行われることが多い医療行為です。口からの水分補給が可能な場合は、点滴と同様の効果が期待できる経口補水液で水分を補いましょう。

木村医師よりコメント

点滴でノロウイルス感染症の治療をすることはできませんが、感染症によって引き起こされる脱水を改善することが可能です。点滴は、水分を直接血管内に入れているため効率よく血液に補水され、脱水を改善するには一番効率的。また、経口補水液も、点滴と比べると身体に吸収される水分は少ないものの、普通の水と比べると脱水の改善に有効です。口になにかを入れるだけで吐いてしまう、飲む体力すら残っていないという方には、点滴が必要となるでしょう。

監修者

医師:木村眞樹子

都内大学病院、KDDIビルクリニックで循環器内科および内科として在勤中。内科・循環器科での診察、治療に取り組む一方、産業医として企業の健康経営にも携わっている。総合内科専門医。循環器内科専門医。日本睡眠学会専門医。ビジョントレーニング指導者1級資格。

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